45ー魔魚
もうニコ兄は、川やププーの実はそっちのけで、薬草を丁寧に根から掘り起こそうとしている。スコップを持って来ていたのだな。
「だって、折角森に行くんだ。何があるか分からないだろう? 念のため、持って来てたんだ。これ採ったら、ピカが収納しといてくれるか?」
「わふッ」
「にこにい、もちろんだって」
「おう、ありがとな!」
薬草はニコ兄に任せよう。専門だしね。
「れおにい、おさかな」
「うん、いっぱいいるね」
「ね~」
「これなら、レオでも捕れるわよ」
リア姉『レオ兄でも』って何だよ。レオ兄なら絶対に捕れると思うのだ。
川の水面に、段差を登ろうと泳ぐ魚の尻尾がパシャパシャと跳ねていた。これは大漁の予感しかないのだ。
レオ兄とマティが早速釣り竿を振り糸を川に投げ入れた。
針先にはなにも付いていない。釣り針に餌をつけていないのだ。
「うわッ! 姉上、もう掛かりましたよ!」
これは、残念ながらレオ兄じゃない。マティだ。
「おぉッ! 入れ食いだ!」
これが、レオ兄だね。無事にレオ兄も釣れたらしい。
「ほら、早く締めなきゃ!」
「こっちよ!」
リア姉とフィーネは締めて血抜きをする担当らしい。リア姉は大きなピックの様な物を、フィーネはナイフを手にして待っている。
レオ兄とマティが釣っては、リア姉が締めてフィーネが血抜きをする。その繰り返しだ。流れ作業みたいになっているのだ。
俺は何もする事がない。だから、もう少し川の近くに行って見てみようかな。
「ロロ、駄目よ。飛んでくるから危ないわ」
「え……」
「魚が食いつこうとして飛び跳ねるのよ」
「え……こわわ」
「わふ」
なんて狂暴なお魚さんなのだ。だって魔魚だから仕方がない。
ピカまで、近寄るなと言っている。うん、止めておこう。
「スゲーな! な、ロロ!」
「うん、にこにい」
「これは、ご近所にお裾分けコースだな」
「うんうん」
それくらい、沢山釣れたのだ。
「そろそろ、お昼にしようか?」
「うん、お腹空いたぞ」
「うん、しゅいたのら」
なにもしてないんだけど、お腹は空く。
――キュルルル……
おっとぉ、お腹が鳴ってしまったのだ。
「アハハハ、ロロお腹鳴ってるぞ」
「らって、にこにい。おなかしゅいたのら」
「だな! マリーのお弁当食べようぜ」
「そうね、食べましょう。レオ」
「うん、分かった」
レオ兄が、自分の鞄から何かを取り出した。何だ?
俺は気になって、トコトコとそばに行って見る。
「これは魔石だよ。これを地面に置いて魔力を流すと、シールドが張られて魔物が入れなくなるんだ」
「おぉー!」
そんなものがあるのか? とってもファンタジーなのだ。いやいや、魔獣や魔魚がいる時点でファンタジーなんだけど。
しゃがんで魔石を地面に置いているレオ兄に、ピトッとくっついて俺も一緒に見る。
レオ兄が取り出したのは、薄っすらと黄色くて菱形にカットされた魔石だ。俺の手より少し大きい。それを皆がお弁当を広げている場所を、四角に囲むように地面に4つ置いた。
そして、レオ兄が魔力を流す。あら、不思議。て、なんにも見えないぞ。空中を見るけど、なにも変わってないのだ。
「大丈夫だよ。ちゃんとシールドが展開されているから」
「しゅごい。れおにい、これちゅくれない?」
「え? ロロ、魔石に付与するのかい?」
「ふ、ふよ? わかんない」
魔石は、ダンジョンで魔物を倒したら出て来る。死体がダンジョンに吸収され消えて、代わりに魔石がポコンと何もない空間から出て来るらしい。俺は知らないけど。
その魔石に、シールドの効果を付与した物をレオ兄が持っているんだ。
そっか、付与か。ディさんが、俺は付与ができると言っていたぞ。できるんじゃないか?
「どうだろうね~。ロロはまだちびっ子だからね」
「しょう?」
「うん、もっと大きくなってからじゃないかな? さ、お弁当を食べよう」
「うん」
ん~、ディさんに聞きたいなぁ。もしできたら、良い収入になるのではないか?
「ロロ、手を出して」
「あい」
「クリーン」
「ありがと」
そうか、これも魔法なのだ。俺はまだ自分でクリーンさえもしたことがないぞ。いつも、レオ兄やマリーにしてもらう。
『クリーン』というのは、ごく僅かな魔力で使える手や体を綺麗にできる魔法だ。
この世界では、生活魔法と呼ばれていて汎用性の高い魔法なのだ。
便利で衛生的なので、国も使用を推奨しているそうだ。俺は使った事ないけど。
「れおにい、ボクもくりーんできる?」
「ん? できるんじゃないかな」
「しょっか」
よし、家に帰ったら特訓なのだ。
「わふ」
「ぴか、あい。ちろ、ごはんらよ」
ピカにマリーの作った大きなサンドイッチをあげる。マリーのサンドイッチはいつも大きいのだ。大雑把だから。
パンをザックリと大きく切ってあって、中に挟んである具も大きいのだ。
俺なんて、1個食べたらお腹いっぱいになってしまう。色んな具が食べたいのに。
「ちろ」
「キュルン」
「あい」
「キュ」
チロには胸肉を薄く切って茹でたものだ。ブチッて嚙みちぎって食べる。ちょっと、野性的なのだ。
お弁当を食べたら、今度はププーの実だ。
たわわに生っているぞ。美味しそうな甘い匂いをさせているのだ。
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