425ー怖かった
そんなことを考えていられるのは、ピカが俺たちを庇ってくれているからだ。
俺たちに攻撃が当たらないように体で庇ってくれているし、魔法の風を飛ばして魔鳥の落下地点を変えている。
でもそのせいで、なかなか攻撃できないでいる。
これは、ジリ貧というのではないか? どうする? 魔法杖なしで魔法を使ってみるか?
ピンチなのだ。まさかこんな場所で魔鳥の攻撃に遭うなんて。
ピカは俺たち二人を体で庇いながら攻撃するけど、魔鳥は次から次へと突撃してくる。その内、魔鳥がピカの体を掠めだした。
「ぴか!」
「わふッ!」
大丈夫、僕が落としてみんなが攻撃するからやっつけられるよ。ピカはそう言うけれど。ピカのピカピカしたプラチナブロンドの体毛に、真っ赤なものが滲んできた。
大丈夫かも知れないけど、ピカが傷付くのは嫌だ。
ああ、俺たちはとっても足手まといではないか。どうしよう、考えろ。何か良い手はないか?
俺は必死で考えた。どうしたらいい? 頭の中が爆発しそうなくらいに、フル回転して色んなことが浮かび駆け巡る。
「えっちょぉ……えっちょぉ……あぁッ! しょうら!」
そこで俺は思い出した。ピコンと一つの言葉が頭の中で閃いたのだ。これぞ天啓! それくらいの気持ちだ。
『もしも、僕の助けが必要になったら、アミュレットを握りながら思うんだ。ディさん、助けてって』
俺にそう言いながら、バシコーンとウインクをするディさんのキラキラとしたお顔が浮かんだ。
「しょうら! あみゅ、あみゅれっちょ」
「ロロ、なんら!?」
ゴソゴソと服の中からアミュレットを引っ張り出して、ギュッと両手で握る。
「でぃしゃん、でぃしゃん! たしゅけてぇッ!」
俺はそう大きな声でディさんを呼んだ。
ブワッと風が吹いたかと思ったら目の前の空間がグニャリと歪み、次の瞬間にはそこにディさんが立っていた。キラッキラでサラッサラの長いグリーンブロンドの髪を靡かせて、ヒーローの登場シーンみたいだ。
ディさんのエメラルドの宝石のような綺麗な瞳が、驚きで大きく見開いている。
「ロロ! どうしたの!?」
「でぃしゃん! ぴかをたしゅけて!」
ディさんがその場の状況をすぐに理解し、ニコリと微笑んだ。
「ロロ、よくアミュレットを思い出したね。このディさんに任せなさい!」
「でぃしゃん!」
おおー! かっちょいい! なんて頼もしいのだ! ディさんは慌てもしないで、俺たちを庇っているピカの隣に立った。そして、ピカの首筋を撫でた。
「ピカ、よく守ってくれた」
「わふん」
守るのは当然だよ。でも、なかなか攻撃できなくてごめん。なんて、俺たちを庇っているからなのにピカさんったら。
「もう大丈夫だ。僕に任せて」
そう言うと、ディさんはスッと片手を掲げた。それだけだ。魔法杖も持っていないし、詠唱もしていない。
ただ手を掲げただけで、ディさんの周りに風が巻き起こり長い髪がフワリと舞い、襲ってきていた魔鳥目掛けて無数の風の刃が一斉に飛んだ。
それはまるで意思を持っているかのように、魔鳥を切り裂き上空で待機していた魔鳥にまで襲い掛かる。
空中に魔鳥の羽根が舞い散る様が、まるで映画のワンシーンか何かのように見えた。
そして、ボトボトと落ちてくる魔鳥。一体何羽いたのだろう? 数十羽の魔鳥が次々と落ちてくる。
落ちてもまだ動こうとしている魔鳥には、当然のようにリーダーたちとプチゴーレムがしっかり蹴りを入れてやっつけていた。
「もう大丈夫だよ」
そう言いながら微笑むディさんを見た途端に、俺は安心してドバーッと涙が出てしまった。
汗なのか涙なのか分からない。顔をクシャクシャにして泣きながら、ディさんに抱きついた。
「でぃしゃん……でぃしゃん! あ、あ、ありがと! ピカ! ごめんなのら! ええーん! うわぁーん!」
「ろろー! なくなよ! ええーん!」
「おやおや、二人とも怖かったね」
「わふん」
ディさんに抱き着いて泣いてしまった俺に、ピカが体を擦り付けてくる。エルも俺の腕を掴みながら泣いている。
エルは怖かったのだ。俺だって怖かった。魔鳥が怖いのではなくて、エルやピカに何かあったらと思うと怖くて仕方がなかった。
「二人とも、もう大丈夫だよ」
「うぇッ……うん、でぃしゃん」
「ろろー!」
「える、もうらいじょぶなのら……ぐしゅ」
「ぼ、ぼく……ろろがけがしたら、ろーしようって! ごめんー! ええーん!」
ディさんが背中を優しく擦りながら、俺たち二人をそっと抱きしめてくれた。
思い出して良かった。本当によく思い出したよ。ディさんの温かい体温がとっても安心する。
自分でも気付いていなかったのだけど、身体が強張って緊張していた。当然だ、とってもピンチだったのだから。俺たちを庇わなければ、ピカだって魔鳥なんか瞬殺だっただろうに。ピカもごめんね。
「落ち着いたかな? それでロロと君は二人だけで、どうしてこんな場所にいるのかな?」
ニッコリとして優しい口調だけど、ちょっぴりディさんの蟀谷がピキッと音をたてた気がした。しかも眼が笑っていない。これは怒っているぞ。