32ー育む手
薬草畑を歩きながら、ディさんが言った。
「エルフはね、薬草だけじゃなくて自然を大切にする種族なんだ。森人とも呼ばれるからね。こんなに立派な薬草を見ると嬉しくなっちゃうよ!」
そして、グリンッとニコ兄を見たのだ。ちょっと目つきが怖い。
「ニコ君が育てているんだっけ?」
「おう、ニコでいいぞ」
「じゃあニコ、これ本当に君1人で育てたのかな?」
「そうだぜ。最初は半分位しか育たなかったんだけど、頑張ったんだ!」
「ちょっとニコも見てもいいかなぁ?」
「なんだ?」
出たよ。絶対に言い出すと思っていた。ディさんはニッコニコなのだ。じわじわとニコ兄に近寄っている。
ちょっぴりニコ兄が引いてるぞ。だから、俺が教えてあげよう。
ニコ兄の袖を引っ張りながら堂々と言った。
「にこにい、しぇいれいがんなのら」
「え? ロロ、なんて?」
「アハハハ。ロロ、言えてないよ」
そんなに笑わなくても良いのに。これでも俺はちゃんと喋っているつもりだ。
しかも、ちょっぴり胸を張って自慢気に言ってしまったのだ。
それからディさんは、ニコ兄に説明した。精霊眼の事をだ。
「おう! 遠慮なく見てくれ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
ディさんの、エメラルドの宝石の様に綺麗な瞳がキラランとゴールドに光った。そうか、この時に精霊眼を使っているのだな。
「ほうほう……君たち兄弟は本当に興味深い」
ニコ兄がキョトンとしているのだ。ディさんは全部見えたのだろう。
「ニコは水属性魔法を使えるね」
「そうなのか? 俺、使った事ないぞ」
「え? そうなの?」
「うん、ないぞ」
「使い方を知らないのかな? 君のお兄さんから魔力操作を教わってないのかな?」
「あぁ~……」
ニコ兄が露骨に目を逸らした。だってニコ兄は、レオ兄に教わっているけど練習をしない。リア姉と一緒で大雑把なのだ。
魔力操作の練習をするよりも、体を動かしている方が好きなのだ。
「勿体ないね~。水属性魔法が使えるよ。魔力操作をマスターしたら直ぐにでも使える」
「そうなのか!? じゃあ、俺練習するよ!」
現金だ。そして単純なのだ。レオ兄が言っても練習しなかったのに。
「スキルという程じゃないんだけど、畑をしている所為なのだろうね。ニコは植物を育てるのにとっても向いている。これは何だろう。素晴らしい能力だ。緑を育む手とでも言いたくなるね。いや、土属性魔法も使えるみたいだからその影響なのかな?」
「なんだそれ?」
「例えば簡単に言うと、他の人よりニコの手が入る方が立派に育つって事だよ」
「それは近所のおばちゃん達にも言われるんだ。だから、畑を手伝えってうるさいんだよ」
「でも、ニコも好きだろう?」
「うん、土を触っているのが好きだ。自分で育てたのが大きくなるのって嬉しいじゃん」
「ニコは良い子だね~。やっぱり土属性魔法とも相性がいいみたいだね」
ディさんがニコ兄の頭を撫でると、ニコ兄は顔を真っ赤にしたのだ。
「やめろよ、俺もうちびっ子じゃないんだ」
「ふふふ、僕から見たらまだまだちびっ子だよ」
そうなのだ、エルフのディさんは何百年と生きているらしい。
「えぇー! やめてくれよー!」
「でも、良い事だよ。薬草を育てているのは、お姉さんとお兄さんの為なんだね」
「うん。俺が育てた薬草で、レオ兄とロロがポーションを作ってくれる。それを持って冒険に行ってもらうんだ。どんな怪我をしても大丈夫な様にな。な、ロロ」
「うん」
「ニコもロロも本当に良い子だ。僕は泣けてくるよ」
なんて、泣いてないけど。そんな事をしていると、リア姉とレオ兄が走って帰って来たのだ。
「ニコ! ロロ! 無事なのか!?」
「大丈夫なの!?」
「あー! りあねえ、れおにい!」
思わずトコトコと走り出してしまったのだ。俺がパフンと足にしがみ付くと、レオ兄が抱き上げてくれる。
良かったのだ。やっぱり居ると安心なのだ。
「ロロ、怖かったね」
「らいじょぶ」
きっとギルドで話を聞いて、心配になったのだろう。
ずっと走って帰って来てくれたみたいだ。2人共、肩で息をして汗を流しているのだ。
「あ、ディさん」
「やあ、こんにちは。お邪魔しているよ」
「駆けつけて下さったと、ギルマスに聞きました。有難うございます」
「丁度『うまいルルンデ』にいたんだ。そしたら、ロロのお兄さんだってニコが来たからね。来ちゃった」
来ちゃった。なんて、軽く言っているけど、ディさんだって心配してくれたのだ。こんな繋がりが増えるのはとても心強い。
俺達はまだ子供だから、頼れる大人が増える事はとっても良い事なのだ。
オヤツを食べ、夕食を食べる時間になってもディさんがいたので、帰ってきたエルザが驚いていたのだ。
「ディさん、まだいたんですか!?」
なんて、ちょっぴり失礼な事を言っていた。
エルザも『うまいルルンデ』で、ディさんの事を知っていた。常連さんなのだそうだ。
ディさんは普通に目立つ。だって珍しいエルフさんだし、見目麗しいし。
その上『うまいルルンデ』でも毎回野菜サラダを山盛り食べるのだそうだ。少し名物になっているらしい。
『うまいルルンデ』はとっても美味しくてボリュームがある。その上、良心的なお値段だ。だから、毎日繁盛しているそうなのだ。
「おばあちゃん、もう街で噂になっていたわよ」
「あらあら、そうなの?」
「もう噂になってるの!? それにしても、早いのね~」
「だって、リア様。あの迷惑令嬢の事ですから」
「エルザ、そうとは限らないよ」
「いや、レオ。そうだったんだよ」
「ディさん?」
俺は意味が分からず、ディさんを見たのだ。
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