31ーティータイム?
「ユーリア、じゃあニコ坊ちゃまと行ってくれる?」
「もちろんよ、行ってくるわ!」
「よし、行こう!」
「待って、その前に……」
またまたユーリアは冷静だったのだ。
畑で作業をしている男の人に頼んで、一緒に見張ってもらう事にしたのだ。みんな知った顔だ。
事情を話すと、なんて奴なんだと手に鎌を持ってやって来てくれた。
これで、安心なのだ。ちょっと手に持っている鎌が怖いけど。
そして、ニコ兄とユーリアが走って行った。俺は横にいたマリーのエプロンを掴む。
「まりー、だいじょぶ」
「はい、大丈夫ですね」
「わふ」
「ぴか、ちゅよい」
「本当ですね」
男はまだ起きないから、畑で作業している皆も一緒にお茶を飲んでいたのだ。良い天気だな~なんて言いながらなのだ。なんて呑気なんだ。
そこに、ヒュ~ッと風が吹いたかと思うと、ニコ兄とユーリアが立っていた。そして……
「ロロ! 大丈夫なのかい!?」
昨日会ったエルフのディさんだ。風と共に現れたイケメンさんなのだ。キラッキラでサラッサラの、長いグリーンブロンドの髪を風に靡かせながら立っていた。
「でぃしゃん!」
俺は、小さな手をフリフリと振った。いやいや、どうやって来たのだ? 風が吹いたらもう居たぞ? ディさんの魔法なのか?
「おや、ティータイムですか?」
集まってくれている皆が、手にティーカップを持っているのでそう思うだろう。まるでお茶会だ。
だが、違うのだ。決して優雅なティータイムなんかじゃないのだ。だって、直ぐそこの木には、不審な男を括りつけてある。
「あらあら、ロロ坊ちゃまをご存知ですか?」
「昨日会ったんだ。もしかして、マリーさんかな?」
「はい、マリーです」
「ロロ、連れてきた!」
「にこにい、でぃしゃん」
「そうなんだよ。『うまいルルンデ』に行ったら偶々いたんだ」
「話を聞いたら、ロロのお兄さんだっていうからね」
「にこにい」
「そうだってね、薬草を育てるのが上手なんだって?」
「えへへ、そんな事ないぜ」
マリーが、まあまあお茶でも。と、お茶を出している。おかわりをしている人もいる。マリーさんの入れるお茶は美味しいね〜なんて話している。
違う違う。お茶を飲む為に来てもらったのではない。本題を忘れているのだ。
「まりー、ちがうのら」
「あらあら、ロロ坊ちゃまどうしました?」
マリーは呑気なのだ。ユーリアはあんなに冷静なのに。
ちびっ子な俺は、ただ庭先でトコトコとマリーの後を付いていた。片手にクッキーを持ちながら。
「ああ、そうだった。男だね。ピカを攫いに来たって?」
「しょうしょう」
そうだ。それが本題だ。忘れては駄目なのだ。
ディさんが、木に括りつけられて気を失っている男を見る。俺もディさんの直ぐ側で同じ様に見る。なんも分からないけど、むむむ……と見ている。
「もう少ししたら、ギルマスもやって来るんだ。それまで待とうね。あ、マリーさんお茶頂きますね~」
「はいはい、どうぞ〜」
突然、綺麗なエルフさんが現れたものだから、近所の奥様達までワラワラとやって来た。そしてまた、マリーが……
「はいはい、皆さんも一緒にお茶どうぞ〜」
なんてお茶を振舞っている。クッキーの追加も出て来たぞ。庭先でみんなで、本格的にお茶会になってしまっている。違うのだ。なんだかとっても違うのだ。
「ロロ、ギルマスが衛兵を連れて来るんだ。それまでは何もできないからね」
「しょう?」
「そうなんだよ。しかし、思い切った手段に出たね~」
あ、やっぱディさんも我儘令嬢の仕業だと思っているのだ。ニコ兄が、何か言ったのかな?
「あの流れでこのタイミングだから、皆そう思うよ」
要するに、バッレバレって事らしいのだ。
暫くして、数人の衛兵と一緒にギルマスがやって来たのだ。そして、ギルマスはまた大きな声で話している。
「なんだなんだ! こんな強硬手段にでるか!」
「ぎるます、こんちは~」
「おう。ロロ、無事か?」
頭をガシガシとされた。座っていても大きいけど、ギルマスは立っていると山のように大きいのだ。ちびっ子の俺は、見上げなきゃならない。
「へいきなのら」
「良かったな。こいつか?」
「しょうなのら」
ギルマスは縛っている男の足をバシコーンと蹴った。力任せの起こし方だ。痛そうなのだ。
「うッ……うぅ……えッ!?」
目を覚ました男は、周りの人達を見て驚いている。沢山の人達が集まってお茶をしている。なんて場違いなんだ。
そこに衛兵もいる。その上、自分はパンイチで縛られている。どうにもできないのだ。
ギルマスの足に捕まり、横からヒョイと顔を出して男を見る。ピカを攫いに来たのだ。だから、ちょっぴり睨んでおこう。むむむ……。
「お前、領主様とこに頼まれたのか?」
おぉっと、いきなりストレートに聞いたのだ。それで『そうだ』と返事する奴なんていないぞう。
「……」
案の定、だんまりだ。当然だ。ギルマス、もう少し尋ね方を考えようよ。
「まあいい。調べると直ぐに分かる事だぞ。衛兵、連れて行ってくれ!」
衛兵が男をそのまま連行しようとした。
「あらあら、この人の服ですよ」
マリーは、肝が据わっているのかそれとも天然なのか? 衛兵に服を手渡しながら、お茶は如何ですか? なんて聞いている。マリー、お茶はもういいのだ。
衛兵の1人が服を持ち、男はパンイチのまま連行されて行った。あの恰好のまま街の中を連行されるのだ。カッコ悪いし恥ずかしいぞ。
「俺は一緒に行く。ロロ、気をつけるんだぞ。これだけで済むとは思えないからな!」
マジですか!? こんな失敗をしたのに、まだ仕掛けてくるのか?
取り敢えず、俺はギルマスに小さな手をフリフリしておいた。片手にクッキーを持ったままだけど。
それからディさんは、ずっと居たのだ。一緒に薬草を見て、感動していたのだ。
「凄いじゃないか! こんなに立派に育てるなんて! しかも効果が高い。こんなの珍しいよ!」
と、薬草にスリスリしそうな勢いだった。目がキラキラしているのだ。ウホウホとちょっぴり小躍りしている。
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