296ー弱くない
俺が無分別に言ってしまった言葉で、リア姉が凍り付きレオ兄は焦っているのだ。
テオさんとジルさんは、意味が分かっていない。それでも下手に関わってはいけないと本能で感じ取ったのだろう、傍観者といった感じで黙っている。目線まで合わせてくれない。
「ロロ、私は弱くないのよ?」
「り、りあねえ、よわいといってないのら」
「そうかしら?」
「しょうなのら。りあねえもちゅよいのら」
「リア姉も?」
おぉっと、とっても繊細な言葉選びが必要になってしまっているぞ。
どうする、俺!?
「りあねえは、ちゅ、ちゅよいのら」
「そうね、うん。そうそう」
取り敢えず、大ピンチは脱出したようなのだ。
とっても手に汗握る綱渡りみたいなのだ。どうして俺はこんな事を聞いてしまったのだろう? と、後悔していた。
「ロロ、家に戻ろう」
「うん、にこにい」
ニコ兄が助け船を出してくれた。
このままやり過ごそう。うん、それがいい。そう考えていた俺に、リア姉がいつも通りに軽い感じで言った。
「お腹空いたわね~」
「うん、しゅいたのら」
ふう〜、どうやらなんとか違う話になったのだ。良かった。ドキドキしたのだ。
「ロロ、レオの方が強いって誰に聞いたのかしら?」
「え、どるふじい」
あ、しまったのだ。ちょっとホッとした時に、聞かれちゃったから言ってしまった。
俺のお口ったら、勝手に喋ってしまったのだ。
「そう、ドルフ爺ね」
「姉上、そう気にする事じゃないし」
「なによ、レオ」
「え、いや」
えっとぉ、ドルフ爺。ごめんなのだ。俺の手にはもう負えない。
「おい、ロロ」
「えっちょぉ……」
ドルフ爺がリア姉につかまってしまった。
だって仕方ないのだ。本当にドルフ爺がそう話していたのだし。
リア姉だって分かっていると、ドルフ爺も言っていたじゃないか。
「ロロ!」
「どるふじい、ごめんなのら!」
テッテケテーと走って逃げた。
俺だけじゃない、ニコ兄にテオさんやジルさんも一緒に、家に向かって走ったのだ。
一人、残ったレオ兄。なんて勇気があるのだ。
「ねえ、ドルフ爺」
「いや、まあ……その、なんだ」
「言葉になっていないわよ」
「まあ、な、ハハハハ」
ドルフ爺、ガンバなのだ。家の中からお顔だけ出して、成り行きを見守る。
俺がポロッと言ってしまった事なのに、ごめんなさいなのだ。
「そうね、確かに最近はレオの方が強いわね」
「姉上」
おや? リア姉は分かっていたのか? これもドルフ爺が言っていた通りなのだ。
「だって私はいつも、レオに補助魔法を掛けてもらっているじゃない」
お、それも分かっていたのか? リア姉なら、気付いていないという可能性もあったというのに。
「ロロ、お顔を出しているから分かるのよ」
「あ、あい」
おっと、離れているからといって油断してはいけない。リア姉はよく見ているのだ。
「ロロ、本当にドルフ爺がそんな事を言っていたのか?」
「うん、言ってたのら。どるふじいは、びぃらんく」
「ええ!? ロロ、何だって!?」
おやおや、テオさん達も知らなかったのか? そうだよな。なら教えてあげよう。俺も知ったばかりなのだけど。
「どるふじいは、びぃらんく」
「おう、そうだぞ。ドルフ爺も強いんだ」
「ニコ、そうなのか?」
「おう、だってあのブラックウルフと戦っていたからな。クーちゃんを乗せた荷車を、引っ張りながらだぜ」
「なんだって!?」
うんうん、そうらしいよ。ドルフ爺が戦っていたなんて、俺は見ていなかったけど。
ニコ兄もよく見ているのだ。俺はそんな余裕なんか全然なかった。
「ロロはララちゃんを守らないと、て思っていただろう?」
「うん」
「だからだよ」
いやいや、ニコ兄だってなんだっけ? あの孫娘のお名前を覚えられない。
「にこにいも、あのれいじょう」
「ん? リュシエンヌか?」
「しょうしょう。まもったのら」
「おう、だって守ってやんないと、あれは危なっかしいだろう?」
「うん」
なるほど、それでもニコ兄は周りの様子をちゃんと冷静に見ていたのだ。
「ドルフ爺は、野菜の研究だけじゃないんだな」
「あれは研究って言うより、ドルフ爺の趣味だぜ」
うんうん、俺もそう思うのだ。だってとっても楽しそうにやっているのだ。あ、そうだ。
「にこにい、ぷぷーのみもら」
「そうだな。まだめっちゃ小さい芽だけどな」
ん? ちゃんとお話についてきているかな? と、後ろにいるテオさんとジルさんを見る。
「ニコ君、ロロ君、そのププーの実ってあのププーですか?」
え? 他にもププーの実があるのか? と、ニコ兄を見る。
「そうだぞ、あのププーの実だ」
ニコ兄がそうお返事すると、何故か二人は大きく溜息をついた。テオさんなんて、額に手をやって首を振っている。
何故に? あれれ? もしかしてププーの実は育てたら駄目なのか?
「ププーの実も珍しい貴重な物ですよ。だから驚いているんです」
「そうか? 森に行けば生ってるぞ」
「うん、とってもおいしいのら」
そんな話をしていたら、リア姉の件はまとまったらしい。
リア姉とレオ兄と一緒に、コッコちゃん達と家に入って来た。
「こっこちゃんは、ぷぷーのみがしゅきなのら」
「え? そうなのか?」
「うん。らからしょのときに、ちゅかまえるのら」
ふふふん、俺が発明した画期的な捕まえ方があるのだ。




