291ー交換なのら
「まりーしらない?」
「奥様の杖ですか? ピカちゃんが持ってくれていますよ」
俺達が家を追い出される時だ。邸にある物を色々ピカに収納してもらった。
その時に母様の魔法杖も、当然持って来ていた。だって母様が使っていた物を置いてくるはずないのだ。
「マリーはロロのお母上が使っていた魔法杖を、見た事があるのかな?」
「ああ……はい。見ましたよ。私が綺麗に拭きましたから。でもオーブにひびが入っていて……」
「ああ、そうか……オーブに……そうなんだ」
「はい」
ディさんのお顔が曇ったのだ。どうしてなのかな? 俺は全然分からない。
ディさん、説明して欲しいのだ。
どうして、二人ともそんな暗いお顔をしているのかな? 悲しそうなお顔にも見える。
取り合えず、見てみたいのだ。母様が使っていた魔法杖。
「ディさん、どうしましょう?」
「う~ん、僕が説明しようか? 話しても良いのかな?」
「そうですね、私には判断できません。リア嬢ちゃまとレオ坊ちゃまに、相談してからの方が良いかと思います」
「そうだね。ロロ、そう言う事だ。少し相談してみるよ」
「え? でぃしゃん?」
「うん、リアとレオがいる時の方が良いと思うんだ」
「ん~、わかったのら」
本当は分かっていないのだけど。だって気になるじゃないか。
でも、ディさんとマリーがそう判断したのなら待つのだ。
ディさんが場の空気を変えるかのように、態と明るく言った。
「それより、ロロ。これの代金だ」
「でぃしゃん、いいのら」
「え? どうして? 支払うって約束したじゃない」
「らって、ボクのちゅえ、ちゅくってくれたから」
「ええー、そう?」
「うん。ちゅえのほうがしゅごいのに」
「そんなことないよー! こんなに付与のされている物はエルフだって持っていないよー!」
それはあれだろう? エルフはきっとそんな付与は必要ないんだ。それだけ凄いのだから。
話を聞いたりディさんを見ていると、別格だと思うのだ。俺達とは全然違う。
「アハハハ。ロロは本当にお利口さんだ。じゃあ、杖と交換って事だね」
「うん、ありがと」
「ええー、僕の方こそ有難うだよ! 大切にするね!」
「うん、ボクもたいしぇちゅにしゅるのら」
ふふふ、嬉しい。ディさんが喜んでくれた。それが一番嬉しいのだ。
早速首に巻いてくれた。フワリと巻いたグリーンの大判スカーフ。ディさんの髪色に映える。
スカーフの緑色が端からグラデーションで薄くなっている。それに合わせて、俺の刺繍も色を変えてある。生地のキラキラ感と刺繍糸は質感が違うから、同じ様な色を使っていてもちゃんと模様が分かる。
派手にならず、お上品な感じでとっても良いのだ。
「おにあいなのら」
「そう? 有難う!」
エルフのディさんが、こんなのを着けると無敵なのではないかな?
その日はリア姉とレオ兄と一緒に、テオさんとジルさんも帰って来たのだ。
ただいま~! と、言いながらみんな帰って来た。
「おかえりー」
と、俺は庭先で出迎える。
「わふ」
「ぴかもおかえり」
ふふふ、ピカさん役に立ったのかな? と、ピカさんの首筋をワシワシと撫でる。
「ロロ、ピカは強いな!」
「うん、しょうなのら。ぴかはちゅよいのら」
「ピカは索敵もできるのですね、驚きました」
「しゃ、しゃく?」
なんだろう? 分からないのだ。
「アハハハ、ロロ。索敵だ」
「れおにい、わかんないのら」
「うん、あっちに何かいるよとか分かるんだ。ピカはできますよ。教えてくれるでしょう?」
「そうなんだよ、だからサクサクと魔獣を討伐できたぞ」
「多分、攻撃力も上げてくれているはずですよ」
「なんだとッ!?」
「ああ、やはりそうですか。おかしいと思ったんです。テオ様があんなに簡単に倒せるはずないと」
「ジル、その言い方!」
ふふふ、仲良しさんだね。
何より、うちのピカさんは凄いのだ。
そんな事をしていたら、俺は母様の杖の事を忘れてしまっていたのだ。
だってみんながいると、とっても賑やかでたのしいのだから。
「ふふふん」
「ロロ、また何か自慢気だね」
「らって、れおにい。ぴかはしゅごいのら」
「うん、そうだね」
あれれ? 先に帰って来ていたニコ兄とディさんはどこに行った?
と、思ったら二人とドルフ爺も一緒に池の端にしゃがみ込んでいた。
「にこにい、でぃしゃん、どるふじい、ろうしたのら?」
「ん、ロロか」
「この池の土だよ」
ほうほう、マンドラゴラが好きな土だね。
何かな? なんだったらピコピコハンマー取ってくるのだ。
「ロロ、違うぞ」
「にこにい、ばしこーんって」
「ロロ、土だぞ、土」
「どるふじい、ちゅち?」
ふむふむ。同じ様にしゃがんで座ってみよう。ピカさんもおいで。
「わふん」
ニコ兄、ディさん、ドルフ爺、俺、ピカの順に並びしゃがみ込んでいる。
池の端にね、土を見つめてさ。その池にはクーちゃんの小亀さん達がススイ~と泳いでいる。気持ち良さそうなのだ。
「だから、土だと思うぞ」
「そうだよ、ディさん見てくれよ」
「そうだね、見てみよう」
何の事だか分からない。土がどうとか?
て、土を見るのか? 見るってきっと精霊眼で見るのだ。土を?
「うん、やっぱりそうだ」
「ニコ、凄いじゃないか」
「だろう? 俺が思った通りだっただろう?」
そろそろ教えて欲しいのだ。土がどうしたって?




