284ー使ってみたのら
ディさんが手を翳すと、魔法杖を持つ俺の手の上に小さな魔法陣が現れた。
杖の先端にある魔石が一瞬より強く光り、魔法陣が渦巻きの様に杖に吸い込まれ消えていった。
「よし、登録できた」
登録できたらしい。何が何やら俺は全く分からない。
「ロロ、使い方だ。先ずは大きさだね」
「うん、おおきいのら」
ディさんが持っている様な長い魔法杖ではない。30センチ程の杖だけど、それでも俺には長いのだ。
両手で持たないと、杖がフラフラする。
「魔力を流しながら、短くなれーって思ってみて」
「うん」
短くなれー。と、すると杖がシュルシュルと短くなった。びっくりだ。
思わず、びっくりお目々になってしまったのだ。
「自分で丁度良い長さにできるよ。ロロがいつも持っているポシェットに、入るくらいの大きさにもできる」
「しゅごいのら!」
「ふふふ、ディさん作だからね」
バシコーンとウインクをした。ディさん、キラッキラが増すからウインクは止めよう。
俺はもう慣れたけど、テオさんは慣れていない。ポカーンとお口を開けて見ているのだ。
「ロロ君、ウインクに驚いているのではないですよ」
「え、じるしゃん、しょう?」
「はい。魔法杖に驚いているんです。長さが変えられる杖なんて、見た事も聞いた事もありませんから」
「へえー」
いやいや、へえーじゃないのだ。俺ってば反応が薄いのだ。ここはもっと驚くところだろう。
「れも、でぃしゃんがちゅくったから」
「ふふふ、そうですね」
そうなのだ。エルフのディさんが作ったのだからそんな事もあるのだろう。昨日もそう話していたし。
俺は少し長さを調整して短くする。片手で楽に持てる長さが良いのだ。
「うん、これくらいなのら」
俺が丁度良いと思った長さに短くなった魔法杖。まるで。おもちゃなのだ。
「アハハハ、可愛い杖だねー」
「でぃしゃん、わらったららめ」
「ごめんごめん。アハハハ」
謝っておいて、まだ笑っている。笑いたくなる気持ちも分かる。だって、どう見てもおもちゃの杖なのだ。
あの子は魔法使いごっこをしているのかな? て、感じなのだ。
ほら、小さな子がおもちゃの杖を持っていたりするだろう? ごっこ遊びをする感じなのだ。
「これはワンドと言うんだ。もっと小さくもできるよ。僕の魔法杖がどこにあるのか知っているだろう?」
「うん、ぴあしゅなのら」
俺とディさんの話を聞いていたテオさんが驚いている。
「ええぇッ!?」
「しょうなのら」
「ふふふ、そうなんだよ」
俺が凄いのではないのだけど、ちょっぴり自慢気にしてしまう。ふふふん、だって凄いのだぞ。
ディさんが耳から外すと、小さなピアスがググググーンと長くなって魔法杖になった。
お祭りの夜に川の端で使っていた、アニメに出てくる魔法使いが持っていそうなあの魔法杖なのだ。
「す、凄いッ!」
「エルフはみんな持っているんだ。僕のはエルフの国の長老に、作って貰ったんだけどね」
中心にエメラルドの宝石の様に輝くオーヴが付いている、ディさんの魔法杖。
オーヴが、仄かに発光している様に見えるから不思議なのだ。
「ロロ、光って見えるのはロロだけだ」
「「ええー!?」」
俺も驚いてしまったのだ。テオさんも一緒に驚いている。
俺は普通に発光して見えるのだ。でもどうやら、みんなは見えていないらしい。
ディさんは勿論杖の光が見えている。もしかしたら、俺が見えているよりもっとはっきりと見えているのかも知れない。だってエルフだし、精霊眼を持っているのだから。
「ディさん、ロロには違う様に見えるのですか?」
「ロロには杖のオーヴが光って見えるんだよ」
「ロロ、そうなのか?」
「うん、しゅこ~しね」
「意味が分からない」
テオさんは、よく驚いている。ジルさんはどちらかというと、ポーカーフェイスなのだ。俺と同じだね。ふふふん。
「アハハハ、ロロったらそんな事ないからね。ロロは顔に出るからすっごく分かり易いよ」
「ええー」
おかしいなぁ。俺はクールなはずなのだ。多少の事では顔に出さない。そんなちびっ子のはずなのだよ。
「アハハハ! ロロ、それはないな!」
「ておしゃんより、ましなのら」
「アハハハ! 確かにそうですね、テオ様」
「なんだよ、僕が一番子供っぽいみたいじゃないか」
そんな事は言っていないのだ。ただ、よく驚いているなーって思うのだ。
テオさんはきっと真っ直ぐなのだろう。裏表のない良い人だ。少しリア姉に似ているかも知れないと思ったのだ。
「ロロ、実際に使ってみよう」
「うん、でぃしゃん」
俺はおもちゃの様な長さになった魔法杖を掲げて、足を肩幅に開きデデンと立つ。もう片方の手は、もちろん腰だ。
胸を張ってね。お腹じゃないよ、胸なのだ。ここはかっちょよくしないと、いけないとこなのだ。ふふふん。
「アハハハ!」
「ブフフフ」
何故だか、テオさんとジルさんが笑っているけど気にしない。
「ロロ、魔力を流してごらん?」
「わかったのら」
俺が杖に魔力を流すと先端にある魔石が反応して光り出す。グリーンに光っている。これも、もしかしてテオさん達には見えていないのかな?
「そうだよ、普通は見えないんだ。魔力の流れだからね。エルフでも普通は見えない。ロロ、あの木に掛けてある的を狙おうか」
「わかったのら」
俺は的に向かって構える。




