281ー驚き過ぎだ 1(テオ視点)
ロロが大きな欠伸をした。まだちびっ子だから、お昼寝をするらしい。
しっかりしているけど、まだ幼い。身体も小さくて、抱っこするとどこもかしこもフワフワしていて柔らかい。
こんな可愛い子達を残して逝かなければならないなんて、さぞかしご両親は心残りだっただろう。
目がトロンとしているロロを、ディさんが2階に連れて行った。
「マリー、話してくれないか? 君達がどうやって暮らしてきたのか知りたいんだ」
「はいはい。そうですね、先ずはピカの事でしょうか」
え? ピカなのか?
そのピカもロロと一緒に2階へ行っている。
マリーの話を聞いて驚いた。もう流石に驚く事はないだろうと思っていたのに、全然そんな事はなかった。
「いつの間にかロロ坊ちゃまの側にいたんですよ」
「ピカが? あんなに大きいのに気付かなかったのか?」
「そうなんです。この家で暮らしていけるのも、ピカのお陰なんですよ」
マリーの話だと、邸を出る時にピカが色々収納してくれたから、それを元手にできたという。その上、魔法で攻撃して魔獣を倒すのだとか。
そんな話聞いた事がない。魔法を使ったり、収納スキルを持つワンちゃんなんているのか? いや、いないだろう?
「テオ様、ワンちゃんではないのでしょう。でないと収納スキルや魔法を使えたりしませんよ」
「ああ、そうだな」
「あら? そうなんですか? でもピカはできるんですよ。リア嬢ちゃまやレオ坊ちゃまと一緒に森へ狩りに出たりもしますよ。チロも回復魔法が使えるので、そんなものだと思っていました」
驚く事ばかりだ。いつも寝ているけど、チロという蛇もだ。普通の蛇が回復魔法を使えるわけない。
ピカだってそうだ。収納スキルや魔法が使えなかったとしても、あの毛並みだ。
体毛がプラチナブロンドとでもいうのだろうか。あんなに毛並みの良いワンちゃんを見た事がない。
そのピカとチロの主なのだろうロロの能力だけでも、きっと喉から手が出るほど欲しがる貴族はいるだろう。
「だから、ピカが狙われた事があったんですよ。ほら『うまいルルンデ』で話していましたでしょう?」
「ああ、そんな事を言っていたな。領主の娘だったか?」
「はい、そうなんです。ロロ坊ちゃまが攫われた事があったんです。あの時はもう、胸が潰れそうでした。思い出しただけで、涙が出そうになります」
なんだって!? ロロが攫われた? 話を聞いて驚いた。そんな令嬢がいるって事だけでも驚きだ。いかん、驚いてばかりだ。
この兄弟達は、一体どんな経験をしてきたんだ?
「ディさんが助けてくださって……」
「そうなのか……無事で本当に良かった」
ああ、ディさんがいて下さって良かった。話しを聞いているだけで、胸がキュッとなる。思わずマリーと二人で、涙ぐんでしまったじゃないか。
色んな事をマリーが話してくれた。
コッコちゃんを捕まえた事。皆でお墓参りに行った事。ロック鳥と友達になった事。スライムを退治した事。
「リアとレオは冒険者なんだろう?」
「はいはい、そうですよ。お墓参りに行く前にCランクになられたんです」
「それは凄いな。あの歳でCランクとは」
「テオ様もCランクですからね」
「ジル、そんな言い方をしたら僕ができないみたいじゃないか」
「ふふふふ、そう聞こえましたか?」
態とそう言っただろうに。ジルは僕より上のランクだから。
「ジル様もCランクなのですか?」
ああ、マリー。それを聞かないでくれ。
「いえ、私はBランクです」
「あらあら、まあまあ!」
ほら、ほ~ら。ジルの方がカッコよく見えるじゃないか。
「テオ様、そんな問題ではありません。テオ様には学院がありましたから」
「何言ってんだよ。ジルだって一緒に学院に通ってたじゃないか」
「私は従者ですから。テオ様を守る役目もあります」
はいはい、そういう事にしておくよ。昔っからジルの方が、何でも良くできるんだ。俺の立場がないじゃないか。
それにしてもだ。
「マリー、僕達がここに泊まっても良いかな? まだ数日は滞在したいんだ。父上から返事が来るはずだから、それまではロロ達と一緒にいたい」
ギルド経由で手紙を送ったから、そんなに日数は掛からないはずだ。公には知られていないが、各ギルドには特殊な魔道具がある。
縦横およそ30センチ以内の物に限るのだけど、転送できる魔道具があるんだ。それで手紙を送ってもらっている。
アナトーリア帝国のオードラン領にある冒険者ギルドまで一瞬だ。そこから父の手元まで、明日明後日には届くだろう。
「はいはい、大歓迎ですよ」
「有難う」
マリーはどう思うのだろう。聞いてみる事にしよう。
「マリー、遊びに行くくらいの気持ちで、僕達が帰る時に一緒に行かないか? みんな心配しているんだ」
「まあまあまあ!」
お祖父様とお祖母様が、四兄弟に会いたがっている。一緒に暮らしたいと、引き取りたいと言っている。
見つかったと知ったら、1日も早く会いたいだろう。
「もちろん、マリー達も一緒に来ないか?」
「私達も良いのですか? でも、孫娘がもう一人いるんです『うまいルルンデ』で働いております」
「ああ、彼女か。休めるのなら一緒に来ると良い」
「宜しいのですか? 相談してみます」
「マリーがいないとロロが寂しがるだろう?」
「今のロロ坊ちゃまなら大丈夫ですよ」
ん? 今の?