280ーロロ専用
「ロロは回復魔法を使うだろう。だからフェニックスの羽とは、相性が良いと思うんだ」
「ジル、僕はもう驚かないぞ」
「いや、テオ様。驚きましょうよ」
テオさんとジルさんが、なんだかおかしな事を言っている。
それだけ珍しい物なのだろう。
「ディさん、それも伝説です」
我慢できなくてジルさんが口を挟んだ。
「え、そうかな? 普通に飛んでいるよ?」
「飛んでねーしッ!」
テオさんが突っ込んでいる。まあエルフの国では普通なのだろう。ふむふむ。
「きれいなのら」
「そうだろう? ふふふ、良い杖になるよ」
俺に作ってくれるのは、ディさんが持っている様な長い杖ではなくて、ワンドと呼ばれる30センチ程の短い物だ。
しかも、俺が魔力を流すと長さを変えられるらしい。
「ひょーッ!」
「持ち運びに便利だろう?」
「うん」
「それにね、ロロから一定の距離を離れると、自動で手元に戻って来るようにしておくからね。誰にも盗んだりできないようにさ。ロロ専用の杖だ」
「うん、しゅごいのら」
凄いとしか言いようがない。そんなにとんでもな杖だとは思わなかったのだ。
テオさんとジルさんが大人しくなっちゃったけど。
「テオ様、兄弟が普通じゃないのはディさんの影響もあるのでは?」
「お、おう、そうだな」
え? 俺達普通だけども。
なんだか、痛い子を見る様な目で見つめられた。腑に落ちない。
ふむふむと俺は両手を組む。片方の手を顎にやり考えるのだ。
ふよふよの腕にプクプクの手だから、恰好良くはないのだけど。
「ロロ、どうしたの?」
「でぃしゃん、おねがいがあるのら」
「なにかな?」
ふむ、俺が小さな頭で一生懸命考えた事だ。組んでいたお手々をお膝の上においた。
「ボクがいなくなったら、でぃしゃんのもとに、もどるようにしてほしいのら」
「……ッ!! ロロ!」
「ロロ……」
「ロロ君」
え? 俺っておかしな事を言ったか? どうしてみんなそんなに驚くのだ?
だって、そんなに凄い杖だと争いの元になったりしないか?
俺が使っている間は内緒にするけども、それでもエルフのディさんが作ったというだけで欲しがる人だっているだろう?
良い人だったら問題ないのだけど、もしもそうじゃない人の手に渡ったらと思うのだ。
それならディさんに持っていてもらう方がずっと良い。
「ロロ……分かったよ。そうしよう」
「うん、でぃしゃん。ありがと」
それなら安心なのだ。絶対にディさんより俺の方が早く寿命は終わる。
だからその後は、ディさんにお願いするのだ。
「ね、ロロはこんなに聡くて良い子なんだ」
「ええ、ディさん」
「私は涙が出そうです」
「うぅぅ……ロロ坊ちゃま」
て、話を聞いていたマリーは泣いているけど。泣くような事ではないのだ。
「まりー、なかないのら」
「はい、はい。坊ちゃま」
エプロンで涙を拭いている。あらあら、お茶のお代わりを入れましょうね。と、直ぐに復活してくれたけど。
いつの間にか、お外は雨だ。ザーッと細かい雨が、ヴェールが降りたかの様に降っている。
お外と家の中とに、雨で境目ができたみたいに見える。
雨の匂いがする。雨の匂いも嫌いではない。空気が綺麗になる様な気がするからだ。
一時ほど降ったら、カラッと上がる。その後は緑の匂いが濃くなる。
お野菜や木々だけでなく、地面も潤って喜んでいるみたいなのだ。
「わふん」
「ぴか、らいじょぶらよ」
心配しなくて良いのだ。悲しい思いではなくて、当然の危機管理だと俺は思っている。
だって、俺がいなくなってから悪用されたくない。ピカさんは心配性なのだ。
「ロロ、ピカとも話せるんだな」
「うん、ていまーらから」
ふふふん、本当は違うのだけど。
「れおにいもはなしぇるのら」
「本当にこの兄弟は、常識というものがズレている」
「え? しょう?」
「ああ、四人ともまだ子供だ。なのに、こんなにちゃんと生活しているだけでなく能力まで高い」
「それにみんな良い子達ですね」
「ああ」
「そうだろう? 四人共良い子なんだよ」
ふふふふ。そうかなぁ~。エヘヘ~。
「あらあら、クッキーでもいかがですか?」
「まりー、たべるのら」
「わふ」
「キュル」
おや、こんな時は起きているチロさん。チロもマリーのクッキーは好きなのだ。
「まりー、なっつがはいったのがいいのら」
「はいはい」
お皿に沢山クッキーを載せて出してくれた。
「このナッツ入りクッキーと、ドライフルーツの入ったクッキーはロロ坊ちゃまと一緒に焼いたんですよ」
「ロロはクッキーも作れるのか」
「うん、こねこねするらけ」
「私よりロロ坊ちゃまが作ったクッキーの方が、美味しいんですよ」
違うのだ。マリーは大雑把だからなのだ。きっちり材料を量らないからなのだ。
「れも、まりーのちーじゅけーきは、じぇっぴんなのら」
「あらあら、有難うございます」
うんうんとクッキーを食べながら、ディさんが頷いている。
それから雨が止んだら、ディさんはお野菜を採りに畑へ出て行った。
テオさんやジルさんも、一緒に畑を見たりお散歩したり。二人も慣れて、マンドラゴラをバシコーンするくらいになっていた。
「アハハハ! 本当に出てくるんだな」
「マンドラゴラを殴ったのなんて、初めてですよ」
「まりーにいって、ぽとふにしてもらうのら。おいしいのら」
「うん、そうしよう!」
と、大人三人と俺、ピカさんと一緒にずっと遊んでいたのだ。
お昼も一緒に食べて、俺はお昼寝だ。




