259ー僕達の事 1
ロロ達の家に、珍しいお客様が沢山来ていた頃の『うまいルルンデ』だ。
エルザがいつもの様に客から注文を聞いていた。
「いらっしゃい。何にしますか?」
「私はハンバーグを」
「私はあの評判の卵料理はないかな?」
「すみません、あれはもう売り切れちゃって」
「ああ、それは残念だ。なら私も同じものを」
「はい、お待ちください」
どう見ても冒険者ではない身なりの、どこかで見た様な旅人が二人。被っていたフードを取り、上着を脱いだ。
二人共旅人とは言え、庶民ではないだろうオーラが滲み出ている。身形だけでなく、些細な仕草が綺麗だ。
一人の若い男性は、藍色のストレートの髪を後ろで一つに結んでいて、ラベンダー色の瞳が快活そうに見える。
もう一人は従者の様だ。同じ様な年頃で、ブルーシルバーの髪に藍色の瞳をしている。
従者という空気感ではない。どちらかというと、親友だと言った方がぴったりとくる。
「ほほい、フォリコッコの卵を食べにいらしたのですかな?」
と、隣の席から気軽に声を掛けるお爺さん。
でっぷりとしたお腹に白髪でショートボブのウエーブヘアで、大き目のベレー帽の様な帽子を被っている。真っ白でフサフサとした口髭を生やしていて、人の好さそうな可愛らしいお爺さん。
お久しぶりのハンザさんだ。
「昨日はお祭りで店がいっぱいで入る事もできなかったので、今日ならと思ったのですが」
「ほぅッほぅッほぅッ。今日は私で最後だったみたいですよ」
「そうなのですか」
「午前中に来ないと食べられないのです」
「テオ様、明日は朝一番に来ましょう」
「ジル、そんなに食べたいのか?」
「だって、とっても美味しいと評判ですよ。それにここでしか食べられないのですから」
「そんなに美味しいのですか?」
「ほほい、それはもう。濃厚でクリーミーなのに甘味もあって癖になりますな。私なんて二日に一度は食べに来ております。ほぅッほぅッほぅッ」
少し自慢しながら、とっても美味しそうにフォリコッコの卵料理を頬張っている。
このハンザさん、実はフォリコッコの卵の流通に関わる事になっている。
ロロ達との旅で初めてフォリコッコの卵を食べて、虜になったらしい。そして商人らしく、この卵は売れると確信を持った。
それだけじゃない。下手をしたら貴族に独占されてしまう。それを防ごうと領主様に直談判した。
貴族だけでなく、せめてこの街の人達が皆食べられる様にしたいと。
卵は栄養価も高い。成長期の子供には持って来いの食べ物だ。フォリコッコの卵は一つが大きい。一個で何人もの子供が食べられる。庶民も食べられる様な流通にしたいと、領主様と一緒に思案中だ。
「せっかくやっと、それらしき四兄弟を見つけたんだ。しっかり確認しないと」
「テオ様と同じ髪色でしたよ。もう決まりでしょう?」
「そうだと良いのだけど」
「やっとですからね」
「ああ、そうだな」
あのパレードの時に、ロロ達を見ていた旅人だ。
「おや? 四兄弟ですか?」
ロロ達の事を知るハンザさんと、この旅人二人が出会った事は大きかった。
一人の男性、誰かに似ている様な気がする。
◇◇◇
(暫くレオ視点が続きます)
ニコとロロが外にいる頃、姉上と僕は家の中で話を聞いていた。
こんな狭い家に、王弟殿下を始めとして貴族の人達に入ってもらうのもなんだか申し訳ない。
リビングにしている部屋のソファーには座りきれなくて、ダイニングの方にも座って貰っている。
マリーがいそいそと、自慢のお茶を出してくれている。お手製のクッキー付きだ。
安物の茶葉だけど、ニコが育てたハーブをブレンドしてあって疲れが取れるし風味がスッキリしている。そのお茶を一口飲んで王弟殿下が言った。
「先に言っておかないといけないんだが、私は手出しできないんだ。王族に名を連ねる者、準ずる者は、手出しをしてはいけない事になっている。不正をしようとする者を出さないためなんだ」
「そうなんですか」
「そういう決まりなんだ。でも話は聞いている。手続きの際に横やりや、不正等をされないように見張る事くらいはできる」
それで充分だ。ちゃんと貴族の連名も揃っている。これ以上は望んでいない。正当に調査の申立てができるんだ。
「ギルマスから話は聞いた。これから調査申立ての手続を進めようと思う。それよりも、リア、レオ」
「はい」
この件を任せていた領主様が、真剣な顔をして僕と姉上を見た。
「貴族簿を閲覧してきたんだ」
「え! そうなんですか!?」
「できたのですね?」
「ああ、つい先日なのだけどクラウスと二人でしっかり見て来たよ」
思わず姉上と二人で身を乗り出してしまった。
領主様の隣に座るクラウス様が無言で頷く。
そうなんだ。なかなか返事がないからまだなのかと思っていた。
「結論を言おう」
領主様とクラウス様が手続きしてくれた貴族簿の閲覧。
その結論を言うと、僕達兄弟は貴族籍から抜かれた訳ではなかった。そのままだったんだ。
元々、両親が亡くなったからといって、不当に貴族籍から抜く事はできないと、前に聞いていた。だからその事は、やはりそうなのかと思った。
お読みいただき有難うございます!
今日から第5章に突入です!
色々明らかになりますよ〜
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