249ールルウィン祭 夜の部 3
「お祖父様、お祖母様」
直ぐ後ろから女の子が出て来た。
「ああ、この子は私達の孫娘なんだ。リュシィ、ご挨拶できるかい?」
「はい、お祖父様。リュシエンヌ・テンブルームですわ。リュシィって呼んでも良いわよ」
ほうほう、孫娘とは。そんな風には見えないのだ。
シェルピンクのふんわりとした髪を顔のサイドだけ編んでいて、ココア色の瞳がお利口そうだ。
「冒険者ギルドに登録していると聞きましたわ」
その孫娘のリュシエンヌが聞いてきた。どうもララちゃんの様に『ちゃん』とは呼べない雰囲気だ。ニコ兄より小さいと思うのだけど。
「ええ、私達はCランクよ」
「あなたも冒険者ギルドに登録しているの?」
おや? ニコ兄にロックオンなのか?
聞かれたニコ兄が、少し面倒そうに答えた。
「俺はまだ9歳だから登録できないんだ」
「なんだ、そうなの。私もまだ6歳だから登録できないのだけど、毎日鍛練しているのよ。もう魔法だって使えるわ」
ふふん、と鼻で笑ったぞ。ニコ兄が、なんだこいつと言いたそうな顔をしている。
わかるぞ。俺もそう思ったのだ。魔法なら俺達だって使えるのだ。
「私達もこれから行くんだ。一緒に行こう」
王弟殿下がそう言った。まあ、良いのだけど。
「ドルフ爺、元気そうじゃないか」
「殿下、お久しぶりですな」
「アハハハ、今日は何を引っ張ってきたんだ?」
「亀ですよ。川で泳がせてやろうと思いまして」
ドルフ爺が丁寧な言葉を使っている。ていうか、ドルフ爺も知っているのか?
「ドルフ爺も有名人だからね」
「え、しょうなんら」
「そうだよ。この国のお野菜がこんなに美味しいのは、ドルフ爺の功績なんだ」
ほうほう、何か? 品質改良でもしたのか?
「ロロはお利口さんだね~」
そう言いながら、ディさんが俺の頭を撫でた。
なんだ? 睨まれているような気がするぞ。
「ディさん、私も一緒に行きますわ!」
「はいはい」
あらら? ディさんが冷たいのだ。珍しい。
「我儘ではないんだけどね。何と言うか……高飛車なんだ。自分の祖父母が偉いってだけで、自分は偉くもなんともないのにね」
「ほうほう」
「アハハハ! ロロは時々大人みたいな反応をするね。高飛車って意味が分かったの?」
「わかるのら。えらしょうなの」
「そうそう、分かっているじゃない」
それ位は分かるのだ。でもその孫娘は、ディさんと一緒に行きたいみたいだよ。
王弟殿下の孫娘がジト目でこっちを見ている。
「いいんだよ。僕はロロ達の方が好きだもの」
ディさんの塩対応を見ていると、それは分かるけど。でも相手は王弟殿下の孫娘なのだ。
「僕はこの国の誰にも束縛されないからね」
不思議なディさん。一体どういう立ち位置なのか、全然分からない。
「ロロ、行くよ」
「うん、れおにい」
「ろろ、おててをちゅなぐのよ」
「うん、ららちゃん」
小さな手を出してくる。ララちゃんと手を繋いで歩く。やっぱララちゃんは可愛いのだ。
「ララはロロと仲良しだな」
「とうしゃま、ろろはおともらちなのよ」
「そうだったな、ララの初めてのお友達だ」
え? そうなのか? 貴族の子供ってお友達がいないのか?
「ララはまだ小さいから、邸の庭ぐらいしか外に出ないんだ」
「へえ~、しょうなんら」
俺は毎日お外に出ているぞ。毎日ピカに乗って走るのだ。
「わふ」
「しょうらった。まいにちのってるのはひみちゅ」
「ロロ、だからもうバレているからね」
「しょうらった」
いけない、全部バレバレなのだ。
ギルマスがいたテントから川まで、砂利で足元が悪くて歩き難い。
「ロロ、抱っこしようか?」
「あるくのら」
「ららもあるくのよ」
「アハハハ、ララはこんなに歩いたのは初めてじゃないか?」
「そうなのよ。とってもたのしいの」
楽しいのなら良かった。俺のすぐ隣りでふんわりとしたおリボンが揺れている。
でも、本当にお外に出ないのだね。なんなら毎日畑を案内するのだ。
「ルルンデの街は平和だし治安も良い。私達の街より畑も多い。良い街だ」
うん、暮らしやすい街だと思う。
俺は今の家がお気に入りなのだ。
やっと川に着くと、何人もお花を流している人達がいた。昼間の賑やかなお祭りとは違って、なんだか静粛な雰囲気だ。
真っ暗な夜の川に、ふんわりと光る魔石とお花を乗せた葉っぱのお舟が流れていく。
淡い光が水面を照らしながら、ゆっくりと川の流れに沿って点々と続いている。
下流を見ると、光の川ができているみたに見える。幻想的な光景なのだ。
あの光が魂を連れて行ってくれると言われている。
「ここが、精霊様が張った結界の境目なんだ。この川から向こうは魔獣も多くなる」
「森にも近くなりますからね」
「そうだね。レオ達がお墓参りに行った時にも出たんだろう?」
「はい、出ましたよ」
でも、リア姉とレオ兄が難なく倒していた。もっと向こうの森の外れで、ポップントットの種が飛んできた時の方が驚いたのだ。
「れおにい、ぽっぷーんって」
「アハハハ。ロロ、あれは魔獣じゃないからね」
「もしかして、ポップントットか?」
「はい、クリスさん。突然種が飛んで来たんです」
「アハハハ! あれは驚くだろう」
「驚きました。知らなかったので」
「でも、美味いだろう?」
「おいしかったのら」
「ららはしらないのよ」
もう残っていなかったかな? ピカさん。




