242ールルウィン祭 6
ディさんのお膝に座らせてもらったララちゃん。
「うん! こわくないわ、たのしいのよ!」
「アハハハ! そうか! きっと君のご両親も見ているよ!」
なんだ、ディさんもそう考えていたのか。もしかして、知っているのかな?
また次の馬車が入って来た。
「ほら、最後は領主様だ。君は領主様を知っているかな?」
「うん、ごあいしゃちゅしたの」
「そうか、じゃあ君はやっぱり」
何だ? やっぱディさんは、何処の子か察しがついているのではないか?
後ろから来た馬車には、大きな盾と一緒に領主様が乗っていた。大人の人でも少し屈めば、体が隠れてしまいそうなほど大きな盾だ。
飾っておく様な盾ではなくて、きっと実際に使われていた盾なのだろう。
大きな傷があったり、彫られている模様が欠けていたりしていて、実際に使われていた事が分かる。その盾を大事そうに支えている。
「あの盾はね、四英雄のタンク役の人が実際に使っていた物なんだ」
ディさんが教えてくれた。邪神との戦いで実際に使っていた盾だという。その大きな盾でみんなを守っていたのだ。
約300年前と言っていたと思う。そんなに昔の物がよく残っていたものだ。それにどうして領主様が持っているのだろう?
「そのタンク役の戦士の子孫が今の領主様なんだ」
「ひょー! しゅごいのら!」
「しゅごいわ!」
うん、俺と同じように言葉が舌足らずだ。きっと同じ位の年齢なのだろう。
領主様が持つ盾は、約300年ずっと受け継いできた物なのだ。どこかで、おおー! と、野太い声がする。
幻想的に花びらが舞う華やかな雰囲気の中で、とっても場違いな声だ。
「アハハハ! 武官家系の人達は、あの盾を見に来ている人も多いからね」
「なるほろ~」
あれが四英雄が実際に使っていた盾だ! みたいな感じなのだろう。
ゆっくりと広場を移動する馬車の周りを探す。あ、いたいた。馬車の直ぐそばを歩いてくれている。
「れおにい! りあねえ! にこにい! まりー! ゆーりあ!」
「アハハハ! みんないるね」
みんなの名前を大きな声で呼ぶと、手を振ってくれる。俺、突然だけど馬車に乗っちゃったのだ。パレードしちゃっている。ふふふふ。
ララちゃんのご家族はいるのかな?
「ららちゃん、みてみて」
「うん」
もうすっかり涙は引っ込んだ。最初は血の気がなかった顔色も、ほっぺに薄っすらとピンク色が差している。
フヨフヨとした桃の様なほっぺが、とっても可愛い。いつも俺のほっぺにスリスリしてくるリア姉の気持ちが、ほんの少し分かる様な気がしたのだ。
「ララ! ララ!」
「とーしゃま!」
おう、見つけたらしい。
とってもガタイの良い男の人が手を挙げて大きな声でララちゃんを呼んだ。
人混みを掻き分けながら、馬車へと近付いている。向こうも探していたのだろう。
馬車に乗っているララちゃんを見つけて、何でそこにいる!? と、言いたそうだ。
そりゃ、驚くだろう。パレードの馬車にいきなり自分の娘が乗っているのだから。
ララちゃんは嬉しそうに手を振っている。すっかり笑顔だ。良かったのだ。
「やっぱりか。フィーネ達のお兄さんだよ」
「え、しょうなの?」
「うん、良く似ているなぁ~って思ったんだ」
えっとララちゃんは、フィーネ達のお兄さんの子供って事だよな?
やっぱお祭りに来ていたのだ。会おうとお手紙をくれた人。こんな子供がいたのだね。
よく見ると、お兄さんの近くにはフィーネとマティが手を振っていた。
「あー、ふぃーね! まてぃ!」
「わたちの、おねーしゃまとおにーしゃまなのよ」
「いっしょにきたのら?」
「うん」
本当ならフィーネ達の事は、叔母様、叔父様と呼ぶところなのだろうけど。10代の二人には似合わないのだ。
ララちゃんも、お姉様、お兄様と呼んでいるみたいだし。
「ほら、二人も手を振って」
「ええー、ボクはいいのら。はやくおりたいのら」
「ろろ、いなくなっちゃうの?」
えっと、お父さん達も見つけた事だし、俺はもう良いのではないかな?
と、考えていたのだけど。
「ろろといっしょがいいのよ!」
そう言いながら手を繋いでくるララちゃん。
「おやおや、ロロ。気に入られちゃったみたいだね」
ふふふと、ディさんが和やかに笑う。俺は特別な事は何もしていないのだけど。
でもララちゃんの、柔らかいお手々をしっかりと繋いだ。
まさか自分がパレードの馬車に乗るなんて思いもしなかったのだ。
パレードの馬車は、広場だけじゃなくて街の中心部を一周して教会の裏でやっと止まった。それまで、俺は降りられない。
こうして馬車の上から見ると、ルルンデの街がいつもと違うみたいに見えるのだ。今日はお花が溢れているから余計にだ。
今日は驚く事が沢山だ。
まるで、あの泣き虫女神の世界にいるみたいに、お花がいっぱいだ。
見に来ている人達から手を振られたりもした。
――あの子だよね。
――元気でよかったわ。
――あのワンちゃんじゃない?
なんて声が聞こえてくるのだ。俺が攫われた事を知っているのだろう。
ピカも有名なワンちゃんになっちゃったのだ。
それでなくても、大きいから街を行くと目立っていたのに。




