241ールルウィン祭 5
ララちゃんと並んで、同じ様に小さな手をパンパンと叩き、またまた小さな足でコツコツとする。
それからララちゃんと手を繋いでくるりと回る。
ララちゃんのワンピースの裾がフワリと膨らむ。
お顔を見てお手々をパンパンと合わせて、足をぴょんぴょん。ララちゃんのポニーテールが揺れる。おリボンも一緒に揺れている。
「ららちゃん、じょうじゅなのら!」
「うふふふ! ろろもじょうずなのよ!」
「ロロ坊ちゃま、お上手ですよ!」
一頻りみんなで踊っていると、ジャジャーンと音楽が終わったのだ。ダンスはもう終わりらしい。
輪になって踊っていた人達が、手を叩きながら歓声をあげ思い思いに散らばって行く。
また音楽が始まったのだ。さっきのダンスの時とは違って少し行進曲の様な、いや、どこかの有名なテーマパークのマーチではない。
少し威厳がある様でその中にも軽快さがあって、何か特別な事が始まるのだと予感させる音楽に変わったのだ。
広場の上から花びらが舞い降りた。周りの建物の上から、降らしているのだろう。
演出が凝っている。踊りといい、まさかこんな事までするのだとは思わなかったのだ。
前世の縁日の様な感じを思い浮かべていた俺は、ずっと驚いてドキドキしていた。
広場にゆっくりと馬車が入ってきた。パレードが始まったのだ。
真っ白で綺麗なお馬さんが引いていて、馬車なのに屋根がない。そこには、俺の知らない人が二人乗ってお上品に手を振っていた。
白い衣装の男の人と黄色いドレスの女の人。見るからに貴族で、きっと身分の高い人なのだろうと分かる。
みんなパレードを見ようとそっちに移動して行く。
俺は、ララちゃんの手をしっかりと繋いで少し人を避ける。
「まりー、あれはだれなのら?」
「最初の馬車は王家の方が乗っておられるのですよ。いつも王弟殿下ご夫婦です。スタンピードの時に、ご夫婦はこの街を守ってくださったのでそれがご縁で毎年来て下さいます」
「へー。ららちゃんみえる? きれいらね~」
「うん」
マリーが言っているのは、ギルマスが活躍した時のスタンピードだ。
なんとギルマスはその王弟殿下夫婦とパーティーを組んでいたのだそうだ。王家の人なのに、冒険者をしていたなんてびっくりなのだ。
「ふふふ、そうですね。あの頃は変わり者だとか言われておられましたね。でも、お二人共お強いそうですよ。たしか、ご夫婦揃ってAランクだったと思いますよ」
「ひょー、ちゅよいのら」
キャーッと一際高い歓声が上がり、次の馬車がやって来た。
そこにはディさんが乗っていた。相変わらずキラッキラでサラッサラの、長いグリーンブロンドを靡かせてとびっきりの笑顔なのだ。
やっぱディさんは特別に綺麗だ。そのディさんが俺を見つけて、アッ! という顔をした。
何だ? 俺は何もしていないぞ。
ディさんが、大きな声で呼んだのだ。
「ロロ! おいで!」
大きく手招きまでしている。
ええ!? おいでと言われても困るのだ。ララちゃんがいるし、俺はこれ以上目立ちたくないし。
何よりこの人混みの中、どうやってそこまで行くのだ?
「ピカ!」
またディさんが呼んだ。馬車の上から、ちょっとそこ空けて通してあげて、なんて言っている。
「ロロ、ララちゃんと一緒に行ってきなさい」
「えー、りあねえ」
「目立つからすぐにご両親が見つかるわよ」
なんだよ、それ。でも良い考えだぞ。よし、それなら。
「ピカ、のしぇてくれる?」
「わふ」
ピカが伏せてくれた。そこに俺が乗る。リア姉が、俺の前にララちゃんを乗せてくれた。
ちびっ子の俺達が人混みの中を、手を繋いでヨタヨタ歩くよりは良いと思ったのだ。
「ララちゃん、これをしっかり持っているのよ」
「え、え!?」
「大丈夫よ、怖くないわ。ロロが後ろから支えているわ」
「らいじょぶなのら」
「うん!」
おやおや、怖がるかと思ったのに。さっきまで涙で濡れていた目がキラキラし出したのだ。ピカに乗るのは怖くないらしい。
「ぴかなのら。ボクのおともらちなのら」
「おともらち、ぴか?」
「しょうなのら」
「ぴかちゃん!」
俺は後ろから手を伸ばして手綱を持ち、体ごとララちゃんを抱えるように支える。
ララちゃんも可愛らしい手で、手綱をギュッと握っている。大きなピカを怖がる事もない。好奇心がいっぱいの笑顔だ。
ララちゃんは、華奢でふわりと良い匂いがしたのだ。
「ぴか、いいのら」
「わふん」
ピカがいつもよりそっと立ち上がり、ゆっくりと人の間を抜けてディさんの乗る馬車の側へと移動して行く。その両脇をリア姉とレオ兄が歩いて、人に当たらないように守ってくれている。
そしてピカが、タンッと大きくジャンプして馬車に乗り込んだ。
おおーッ! と声が沸き上がる。ああ、もう俺めっちゃ目立ってしまっているぞ。
大きなワンちゃんが、ちびっ子二人を乗せてジャンプして馬車に乗ったのだ。そりゃ目立つ。ピカさんのプラチナブロンドの毛が、ピカピカと光って余計に目を引いている。
「アハハハ! ピカ、ありがとう!」
「わふ」
「どう? 怖くなかったかな?」
そう言いながら、ピカからララちゃんを抱き下ろすディさん。俺も降りよう。