234ー『うまいルルンデ』は大忙し
「あらあら、朝も早かったですしお昼は早めに食べてしまいましょう」
「まりー、しょれがいいのら!」
でもそうしたら、午後からお腹が空いてしまうぞぅ。夕ご飯まで我慢できないのだ。
「屋台があるじゃない」
「りあねえ、しょうなの?」
「そうよ、屋台で美味しいものを買って食べましょう」
「しょうしゅるのら!」
「アハハハ。パレードの時は人が多いから、気を付けるんだよ」
「うん」
じゃあね。と言ってディさんはどこかに行ったのだ。
なんだかディさんはもう忙しそうなのだ。
「ディさんは主役だからなぁ」
「しゅ、しゅやく!?」
「ほら、パレードの馬車にのるだろう?」
なるほど、そう言われると主役なのだ。ディさんは綺麗だから映えるだろうなぁ。スマホがあれば絶対に写メ撮るのに。
そんな取り留めない事を考えながら、家まで帰った。今日は朝早くに起きたから、ちょっぴり眠くなってきたのだ。
教会でもらった花冠は大事に取っておこう。またお祭りへ行く時に使うのだ。
いつもの軒下で日向ぼっこをする。流石にもうピカに埋まるのはちょっと暑い。でも、ピカさんのもふもふには抗えなくてダイブする。
ピカはいつもおひさまの匂いがする。もふもふとその匂いがとっても安心するのだ。
チロもピカの上で丸くなって眠っている。
「わふ?」
「ちょっぴり、ねむいのら」
「あら、ロロちゃん。日向ぼっこなの?」
「うん」
セルマ婆さんなのだ。俺の隣の定位置に座る。もうすっかりお空は青空で、今日も良いお天気になりそうなのだ。
少しいつもと違うのは、空気にお花の香りが混じっている事だ。
どこからかふんわりと、お花の香りがしてくる。あれだけ街中に、お花が飾られていたらそうなるだろう。
いつもは緑の匂いだけなのに、ウッディな香りの中にフローラルが混じる。それだけなのに、とっても特別な感じがする。ワクワクしてしまうのだ。
「もうお花を飾ってきたの?」
「うん、めがみしゃまと、とりしゃんと。もういっぱいらった」
「そうでしょう。私はいつもパレードの前に飾るのよ。もう飾る場所が無いほどになっているわ」
「しょんなに?」
「そうなのよ~」
今日はお祭りなのに、セルマ婆さんとドルフ爺は朝早くからお野菜を沢山準備していた。
息子さんのお店で売るためだ。他領から来た人達が、買いにやって来るらしい。
いつもより沢山持って行くのだと言ってた。
『うまいルルンデ』も今日は忙しいと言う。何処も彼処も大忙しなのだそうだ。
俺は全然いつも通りなのだけど。
「今年はね『うまいルルンデ』が大変なのだそうよ~」
「え? なんれ?」
「ほら、コッコちゃんの卵料理があるでしょう?」
「あー、みんなしってるのら?」
「そうなのよ~」
なるほど、もうルルンデの街の名物になりそうなのだ。
「今日は教会もコッコちゃんの卵を『うまいルルンデ』に卸すらしいわよ」
リア姉が手にパウンドケーキを持って出て来て俺の隣に座る。はい、あ~ん。と言って食べさせてくれる。
今日のはドライフルーツの入っていないバージョンなのだ。
「うまうまら。りあねえ、しょうなの?」
「貴族が予約しているんですって」
「へえ~」
貴族の間ではもう評判になっているそうだ。ルルンデの街でコッコちゃんの卵料理が食べられると。しかも、とってもとっても美味しいと。
領主様が、知り合いの貴族に分けていた事もあるのだけど、冒険者達から人気が出てそれを聞きつけた貴族が『うまいルルンデ』に食べに来て。みたいな感じで広がったらしい。
最初は珍しいからってだけだったのだろうけど。でも、コッコちゃんの卵は濃厚なのにまろやかで、いつも食べている卵とは別次元の美味しさなのだ。
その上『うまいルルンデ』で、とっても上手にお料理して出している。美味しさが倍増だ。
「コッコ」
「クック」
「コケッ」
「え、しょうなの?」
「コッコ」
レオ兄と俺で温めていた卵の事なのだ。もう直ぐ孵るだろうと言ってきた。そんな事も分かるのだね。コッコちゃんったら、凄いのだ。
「ろんな、ひななのかな~」
「あら、なあに~?」
そうか、セルマ婆さんにはコッコちゃんが何と言っているか分からないのだ。いや、それが普通なのだ。
もうすぐ卵が孵るらしいと教えたのだ。
「レオちゃんとロロちゃんが温めていた卵ね」
「しょうなのら」
どんな雛が孵るのか楽しみね~。なんて、セルマ婆さんはニッコリと笑った。
楽しみなのだ。でもちょっぴり心配なのだ。また、オレンジの超元気なハイパーな子が産まれたらどうしよう? なんて思ってしまう。
「わふん」
「え、しょう?」
「わふ」
ピカさんが、大丈夫だよと言ってくれた。どっちにしろ、もう生まれてくるのだから。
まだお昼まで時間がある。朝早くに起きるとこんな感じなのだなぁ。
「んん!?」
「あら?」
思わず俺は飛び起きた。またまた俺の視界の隅でモソモソと動いた緑の奴。本当にどこから出てくるのだろう?
これはまだ畑に、散らばって生えているのではないか? でないと、おかしいのだ。
「ぴか、いくのら」
「わふん」
「ロロ、何するの!?」
「あらあら~」
俺は大急ぎで家の中に、武器を取りに戻る。




