230ー一緒がいい
「アハハハ! 一応秘密だけどね、大丈夫だよ。そんな事を利用したり、言い触らしたりする人じゃないと思うよ」
なんだ、ディさんはそれも知っているのか。
ディさんって不思議だ。俺が思っていたよりずっと有名人みたいだし、それにエルフなのに一人このルルンデの街に滞在しているし、偉い人も知っているっぽい。
俺の知らない事がまだまだ沢山あるのだ。
そんな話をしていたのだけど、俺はもう限界なのだ。何をって? お昼寝だよ。
もう瞼が勝手に閉じてくる。頭がグラングランしちゃうのだ。
「ああ、ロロ。ごめんよ。お昼寝だね」
レオ兄が気付いてくれて、俺を抱き上げてベッドに連れて行ってくれる。俺はレオ兄の首に手を回して、みんなに手をフリフリする。
「おやしゅみ~」
「ロロ、起きたらまた遊ぼうね」
ディさんが手を振り返してくれる。俺は今でも充分に幸せなのだけど。
でも、リア姉とレオ兄、ニコ兄もなのかな? 家を追い出された事は、納得できなくて許せない事なのだろう。
ロック鳥に乗せてもらって、お空から見た俺達が住んでいたというお邸。
大きくて立派なお邸で、広いお庭があった。
俺は全然覚えていなかったのだ。レオ兄に抱っこされて、泣いていた記憶しかない。
だから、俺の思う家とはこの家なのだ。マリー達やみんながいるこの家。
お外に出たら、セルマ婆さんが日向ぼっこに誘ってくれて、畑にはニコ兄やユーリア、ドルフ爺がいる。毎日ディさんが来てくれる。
コッコちゃん達やプチゴーレム、クーちゃん一家。いつも一緒にいるピカとチロ。
みんな一緒がいいのだ。
「れおにい」
「ん? どうしたの? 眠っていいよ」
そっと俺をベッドに寝かせて、レオ兄が頭を撫でてくれる。
俺が眠る時はいつもそうしてくれる。一番覚えている手なのだ。
「みんないっしょがいいのら」
「もちろん、みんな一緒だよ。安心しておやすみ」
「うん……」
俺はその言葉に安心して、ぐっすりと眠った。
目が覚めて、目の前に綺麗なディさんのお顔があってびっくりしたのだ。
なんだ、ディさんも一緒にお昼寝していたのか。
睫毛の長い綺麗なお顔に、ピカピカの長い髪。良い匂いのするディさん。
あのお邸に戻ったら、ディさんとはもう会えないのかな? それは嫌だな。とってもとっても嫌なのだ。
俺はモゾモゾとディさんにくっついた。
「ん~、ロロ起きたの?」
「うん、でぃしゃん」
「ん? どうしたのかな?」
えっとぉ……ディさんに言ってしまっても良いのだろうか?
「誰にも言わないよ?」
「でぃしゃんと、あえなくなるのはいやなのら」
「え? どうしたの?」
俺は辿々しい話し方だけど、思っていた事をディさんにお話しした。
「なんだ、そんな事か。大丈夫だよ。今ほど毎日は会えないかも知れないけど、僕は転移ができるからね。ロロ達のお邸くらい一瞬だよ」
「ほんと?」
「ああ、本当だよ。でもね、ロロ」
ディさんがゆっくりと丁寧に話してくれた。
リア姉やレオ兄は悔しいからとか、ムカつくからという気持ちだけで取り戻そうとしているのではないと。
それは俺も分かっている。俺だって、理不尽だと思うもの。
リア姉やレオ兄は貴族の子供として育った。それを突然追い出されて、両親の思い出まで奪われてしまった様な気持ちもあるのだろうと。
取り戻せる可能性があるなら、そうする方が良いって。
「僕はエルフだ。この国の人間じゃない。身分制度のないエルフの国で育ったから、貴族なんて面倒なだけだと思っちゃう。でも、リアやレオはそうじゃないんだ。ご両親が大切に守ってきた領地を、なんとかしたいと思っているんだと思うよ」
何も知らなかった頃のリア姉達じゃない。もう貴族がどんな人達なのかも理解している。
辛い思いもしてきただろう。それでも取り戻したいんだ。
「だから僕は応援するよ」
「わかったのら」
でも、俺はディさんにくっついた。毎日会えなくなるのか。
ドルフ爺達はもっと会えなくなる。それは、とても寂しいなぁ。
「さあ、マリーのオヤツを食べよう」
「うん」
考えていても仕方がない。俺には選択できるほどの力もない。
いつも通り、マリーのオヤツを食べよう。心配掛けちゃいけない。
ディさんに抱っこしてもらって下に降りて行くと、甘い香ばしい匂いがした。
「ロロ坊ちゃま、起きましたか?」
「うん、まりー」
「とっても良い匂いがするね。今日は何かな?」
「はいはい、今日はパンケーキにしましたよ」
「美味しそうだ」
あまい蜂蜜はあるのかな? 本当はメープルシロップが良いのだけど。
この世界、メープルシロップなんて珍しくて滅多に手に入らない。庶民の俺達には到底手に入らない物なのだ。
「ロロ坊ちゃま、蜂蜜がありますよ」
「やった! りあねえとれおにいは?」
「お庭ですよ」
「よんれくるのら」
「はいはい」
ディさんと一緒にお外に出る。リア姉とレオ兄が池の側で何かを見ていた。
もしかして、またマンドラゴラなのか? 柵を作ったのに?
「りあねえ、れおにい、おやちゅなのら」
「ロロ、起きたのね」
「分かったよ」
「なにみてるのら?」
トコトコとレオ兄の隣へと行く。
「あー、しちゅこいのら」
「本当よね。柵を作ったんでしょう?」
「作ったよ。どうやって出たんだろう?」
小亀さん達がススイ~と泳ぐ池の端に、とっても青々とした美味しそうな葉っぱが生えている。
やっぱマンドラゴラだったのだ。




