22ーエルフのディ
解体場のプレートを指さして俺は聞いた。
「いちゅもお肉らけ持って帰ってくるのは、ここでしてもらうから?」
「そうだよ。ピカに出してもらう時は、あの扉の奥に入って目立たないようにしてもらっているんだ」
「わふ」
「ひょぉ~」
やっぱ、大きなワンちゃんが何処からか魔獣を出すと目立ってしまうのか?
「そうだよ、かなりね」
ほう。そりゃ普通のワンちゃんじゃないって思うよな。当然なのだ。
1番奥にある階段を上って、2階へと案内された。そのまた1番奥の部屋へと入って行く。
「おう、来たか。ピカも一緒だな」
「ギルマス、手間かけます」
「わふ」
「いや、構わんぞ」
入口の正面にある大きなデスクに、おじさんが座っていたのだ。あの人がギルドマスターなのだろう。ピカも慣れっこみたいなのだ。
書類が沢山置かれた大きなデスクの向こうから、葉巻を消しながら答えたオジサンがテーブルセットまで移動する。
大きめのサングラスを頭にのっけていて、ツンツンした赤髪に、無精髭の筋骨隆々な厳ついオジサン。
白いシャツがパッツパツでキツそうだ。
「お茶をお持ちしますね。ちびっ子はジュースがいいかしら?」
「はい、有難うございます」
と、案内してくれたお姉さんが部屋を出て行った。
「姉上、ロロ、座ろう」
「ええ」
「このちびっ子か?」
「そうです。ロロ、ご挨拶できる?」
「ん、ろろれしゅ。こんちは〜」
ペコリとして、頭を上げたら厳ついオジサンが固まっていた。おいおい、どうした? 俺はちゃんと挨拶したぞ。
「ぶはッ!」
え? 笑われている?
「可愛いなぁ、ちびっ子!」
「ろろなのら」
「そうか、そうか! ロロか!」
テーブルを挟んで座っているのに、デッカイ手が伸びてきて頭をガシガシと撫でられた。大きくてゴツゴツしている。びっくりなのだ。
「ギルマス、この前頼んだ事なんだけど」
「おう、今日はそれを確認する為に人を呼んであんだ」
お茶を持ってギルドのお姉さんが入ってきた。一緒にフード付きのアイスグリーン色のマントを着た人も入ってきたのだ。
マントには綺麗な蔦模様で、何かの紋様の様な刺繍がしてある。綺麗な人なのだ。男の人か女の人なのか分からない。
あの刺繍、とっても綺麗なのだ。近くでじっくりと見てみたいのだ。
「はい、ちびっ子はりんごジュースね」
「ありがと」
「ピカちゃんはお水をどうぞ」
「わふ」
ちょっぴり綺麗なお姉さんがニッコリしてくれたのだ。ギルマスの後ろに控える。
「ギルマス、彼等ですか?」
「おう、そうだ。ちびっ子が作ったらしい」
「ほう……」
ジッと見られた。よく見るとお耳が少し尖っているのだ。
「えるふ?」
「そうだよ、よく知っているね。君は?」
「ろろれす。こんちは~」
「アハハハ、お利口だね。ロロくんか……ピカの主だね」
また頭を撫でられたのだ。声は低い男の人だったのだ。
「僕はエルフだよ。ハンカチを鑑定したんだ。それで是非とも刺繍をした人に会いたくて来たんだ」
刺繍をした人……俺なのだ。
中性的なエルフの美人さん。いや、男性なんだけど。
キラッキラでサラッサラの長いグリーンブロンドの髪に、まるでエメラルドの宝石の様に光っている瞳。見目麗しいとはこの事を言うのだろうと、納得したのだ。
とにかく、とっても綺麗なエルフさん。
「僕はディディエ・サルトゥルスル。ディでいいよ、よろしくね」
「でぃしゃん?」
「そうだよ、ロロくん」
「ろろれいい」
「そうかい? じゃあ、ロロ。君の刺繍を見させてもらったんだ」
やっと落ち着いて座り、話を聞く。
「話を進める前に、ロロ。君を見てもいいかな? 君はとっても興味深い」
見てもいいか? て、もう見てるじゃん。目の前に座ってるし。そう思って、俺はキョトンとしてしまったのだ。
分かんないから、取り敢えずりんごジュースを飲もう。
「ワッハッハ! ちびっ子、そうじゃねーぞ!」
「ああ、そうか。分からないかな?」
エルフのディさんが説明してくれたのだ。エルフという種族は、俺達よりずっと魔法が上手らしい。それに、魔力量も桁違いなのだ。
そしてなんとエルフは精霊が見える、精霊と話す事もできるのだ。
「ひょぉ〜! しぇいりぇい!」
「アハハハ、可愛いね。そうだよ、精霊さんだ」
エルフは元々は精霊だと言われている。エルフが死ぬと精霊になるとも言われているそうなのだ。だから、エルフが使う魔法は精霊魔法と呼ばれているんだって。全然知らなかったのだ。
ふむ、俺達が使う魔法とは違うのか?
「エルフ以外の種族はね、自分が持っている魔力と世界に漂っている魔素という成分を使って魔法を発動させているんだ。精霊魔法は精霊の力も借りて発動するから、少しの魔力で効果が大きいんだよ」
「ふぉぉ〜……」
「アハハハ、なんて可愛いんだ」
まるでぬいぐるみでも抱っこするかの様に、俺を抱き上げるエルフのディさん。
爽やかな森の様な匂いがするのだ。フィトンチッドなのだ。
話がなかなか進まない。エルフのディさんは俺を膝の上に座らせて、ずっと俺のお腹をプニプニ触っている。ご満悦なのだ。
「ディさん、それでどうなのですか?」
「ああ、ごめんね。あまりにも可愛いから。君達は兄弟かな?」
「はい、姉のリアです」
「僕は兄のレオです」
「そう、君達にも興味があるなぁ……先ず、君達から見せてもらおうかな?」
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