213ー相変わらず
「杖は良いですね。あのエルフなら良い物を作ってくれますよぅ」
なんだ、それも知っているのか。杖は俺も楽しみなのだ。ハリー◯ッターみたいで、ワクワクする。
「ロロには必要な物です。早く作ってくれると良いのですが……」
え? やっぱ何か含みのある言い方をするよね。どうせ聞いても教えてくれないのだろうけど。
「それよりぃ、私もお土産が欲しいのですぅ~」
「え、もうじぇんぶあげちゃったのら」
「えぇぇーッ! ショックなのですぅー!」
なんでだよ、女神にお土産なんて買って来られないじゃないか。どう説明するのだ。
ププーの実も欲しがっていたし、もしかして食いしん坊さんなのか?
「残念ですぅー、塩漬けのお野菜やハムを食べてみたかったのですぅ」
残念そうに、体をくねらせながら横目でチラチラとピカを見ている。
ピカさん、もしかしてまだ何か持っているのかな?
「わふん」
「ほらぁ~! 流石ピカちゃんなのですぅー!」
塩漬け野菜とハムを少しだけ持っているらしい。偶々余分に買っていたものだそうだけど、女神にあげても良いのかな?
「わふ」
みんなあるとは思っていないから大丈夫だと、ピカは言う。なら良いよ。
「ぴか、らして」
「わふん」
ピカがコロンと出した。少しだけど、一人で食べるのなら充分だろう。
「有難うなのですぅ~!」
塩漬け野菜と丸いハムを抱えて、ランララ~ンと小躍りしている女神。本当に嬉しそうなのだ。
もしかしてピカさんは、態と残していたのではないかな? 女神が欲しがると分かっていたの?
「わふ」
少しだけね。なんて言っている。ピカは女神の事をよく分かっているのだね。
女神思いの良い神使だ。なんだか微笑ましく思ってしまった。
今度から珍しい物や美味しい物は、取っておいてあげよう。
「ロロー!」
両手にお野菜やハムを持ったまま、抱き着いてきたのだ。それは当然避けるだろう。
「塩対応なのですぅー!」
なんだかいつもグダグダなのだ。
「ああ! もう時間なのですぅ! 有難うなのです! 気をつけるのですよーぅ……よーぅ……よーぅ……」
と、エコーの様に声を響かせながら消えていった。そして、俺は目が覚めたのだ。
ゆっくりと目を開けると、レオ兄はまだ眠っていた。
本格的に夏になる前、季節が変わる時の空気だ。数日前だと、早朝はまだ少し肌寒かったりしたのだけど今はそんな事もない。空が明るくなるのも、少し早くなっている。
コッコちゃん達の、コケッコーという鳴き声が聞こえてくる。もう起きているのだ。
「わふ」
「ぴか、おはよう」
「わふん」
ベッドにお顔を、乗せてきたピカの首筋をワシワシと撫でる。ピカも毎回女神に呼び出されて、お土産まで考えていたなんて世話が焼ける女神なのだ。
「わふん」
「しょお?」
だって僕が仕えている女神様だからね。なんてピカが言っている。
ピカは女神の神使なのだ。だから泣き虫女神の髪色や瞳と同じ色をしている。
ピカピカとした綺麗な毛の色から、ピカと名付けたのだから。
「んん……ロロ? もう起きたのか?」
レオ兄を起こしてしまったのだ。レオ兄はいつも俺を、ふんわりと優しく抱えて眠っている。だから、俺が動くと分かるのだ。
俺が攫われた事件から、余計に敏感になっている。
「れおにい、めがしゃめたのら」
「まだ少し早いよ」
レオ兄が優しく撫でてくれる。レオ兄の体温と鼓動、それに匂いがとっても安心するのだ。
俺は小さく丸くなってレオ兄にくっつく。
「らってまたねたら、ねぼうしゅるのら」
「ハハハ、ロロは寝坊しても構わないよ」
「らめなのら。でぃしゃんがくるのら」
「ああ、そうだね」
少しの間、レオ兄にくっついていた。レオ兄が俺の背中をヨシヨシと撫でてくれる。
いかんよ、そんな事をしたらまた眠気が襲ってくるのだ。
「よし、起きてコッコちゃん達にご飯をあげようか」
「うん」
レオ兄と一緒に下に降りて行くと、マリー達とコッコちゃん一家が勢ぞろいしていたのだ。
「おはよう」
「おはよー」
「あらあら、お早いですね」
「めがしゃめたのら」
「まだ早いからコッコちゃんの餌を用意しておくよ」
レオ兄の言葉に、マリーの足元に集まっていたコッコちゃん達が反応して寄って来た。
コケッ、クック―と鳴きながらみんな移動してくる。
「もしかして、もうおなかがしゅいてるの?」
腹ペコだと、コッコ、クックと訴えてくる。
「おしょとにでるのら」
ゾロゾロと、コッコちゃん達が付いて来る。レオ兄と俺の後を、コッコッコ、ピヨピヨと口々に鳴きながら賑やかなのだ。
フォーちゃん達はいるのに、プチゴーレム達の姿が見えない。もしかして、もう畑にいるのかな?
「イッチー達は夜もずっとパトロールしてくれているからね」
「れおにい、しょうなの?」
「ほら、前に獣が出ただろう。あれからずっと夜もパトロールしてくれているよ」
えぇー、いつ眠っているのだろう?
「アハハハ、本当だよね」
あの子達は疲れを知らないのか? パワフル過ぎるのだ。俺はそんなに魔力を与えていないのに。
「ディさんが言っていたけどね、ロロの近くにいるだけで良いみたいだよ」
「えぇ? しらなかったのら」
「そう?」
ディさんが話していたそうなのだ。
魔力を供給すると言っても、特別何かをする必要もないらしい。




