208ー強く思う
「なんだよ、それー!」
「アハハハ!」
ディさん、笑っていないでディさんの出番だ。
「でぃしゃん、みて。しぇいれいがんれ、みて」
「ん? ああ、そうか。分かったよ」
ディさんのエメラルド色した瞳が、一瞬ゴールドに光った。精霊眼で見てくれている。
「なるほど、本当だ。ロロはレオ似なんだ」
「しょうなのら」
「ええー、じゃあ俺もレオ兄似だ」
「いや、ニコはリア似だね」
「マジかよぉー」
おやおや、そこで肩を落としたら駄目だぞぅ。リア姉だって、火属性魔法は凄いのに。
「だってさぁ、リア姉だぜ。ロロ、分かるだろう?」
「けろ、にこにいは、りあねえににてるのら」
「ええー!」
あ、いかん。余計に落ち込んでしまった。膝に手をついて肩を落としている。追い討ちを掛けてしまったのだ。そんなになのか?
「アハハハ!」
ディさん、笑い事ではない。リア姉に似てると言ったのはディさんなのだ。
「レオとロロは属性が同じなんだ」
「え? ロロも3属性なのか?」
「そうだね。プラス、ロロは回復魔法も使える」
レオ兄は、3属性が使える。風、水、土属性だ。リア姉は火属性。ニコ兄は水と土属性だ。俺はレオ兄と同じだと言う。
そう言えば、時々コッコちゃんのお家をしゃわしゃわーっと水で洗っている。ロック鳥に向けて風の刃を飛ばしたのだ。それに、プチゴーレムを作った。あれは歴とした土属性ではないのか?
「そうなのか?」
短い腕を組んで、片手で顎に触る。なるほどってポーズなのだよ。ふむふむ。
ニコ兄は水と土属性魔法だ。
なら、どうして火属性魔法を持っていないニコ兄が、リア姉似だと言えるのか? それは魔力の質が関係しているらしい。
そんな事は、精霊眼で見られるディさんにしか分からない。
でも、性格もそうだと思うぞ。ニコ兄はリア姉似なのだ。
「ニコはどちらかと言うと、土属性の方が強い筈なんだ。使わないから分からないんだよ。だから練習だ」
「よし、分かった! やるぞ!」
「おー!」
俺も片手を挙げてみた。ニコ兄と一緒に、決意表明なのだ。
◇◇◇
(レオ視点です)
今日は暑いからと、森での魔獣討伐は止めにしてダンジョンに潜っている。
家を出る前は、面倒そうにしていた姉上だけど、いざダンジョンに入るとスイッチが入ったらしい。現れる魔物を、ご自慢のロングソードで勢いよく叩き斬っている。
身体強化を掛ける暇もない。いや、もう自分で出来るのか? 鑑定眼で見ると、姉上の体がふんわりと発光して見える。
姉上の事だ。あれはきっと無意識だな。
姉上の様なタイプを、きっと天才肌っていうんだ。感覚で熟してしまう。
なんでも頭で考えて、慎重に行動する僕とは正反対だ。
「レオ、さっさとやっつけるわよ!」
「はいはい」
今日は早目に戻って、ニコとロロに弓を教えたいんだけど。きっとディさんと、もうやっていると思うんだ。
「ニコもロロも、喜んでいたわね」
剣帯の話だ。お墓参りに行く前に、ホーンディアの皮を親方に預けていた。それも3頭分だ。兄弟4人の剣帯とピカのハーネス、それにマリー達のバッグを作ってもらった。
とても良い物ができたと僕は思うのだけど。
「でも姉上、色を変えても良かったの?」
「いいのよ。革は同じなんだし、これからはみんなと一緒の方が良いわ」
そう言いながら腰に巻いている剣帯を触る。僕達が、今迄使っていた剣帯は父上から貰った物だ。
姉上のは、瞳と同じ色のダークブルーだった。僕のは、ラベンダー色。
新しく作ってもらう時に、姉上と相談して其々の魔法属性から色をとった。だから姉上は、火属性の真紅で僕は水属性のブルー。
ロロが刺繍で付与をしてくれた、髪を結んでいるリボンと同じ色だ。
「ロロったら、持って眠ったんでしょう?」
「アハハハ、そうなんだ。離さなかったよ」
「可愛いじゃない。作って良かったわ」
ニコもロロも喜んでくれた。ロロは眠る時も離さなかった。ピカにもハーネスを作った。ロロがピカに乗る時に使う物だ。
「こんなの作るの初めてだぜ」
なんて、親方は話していたけど、良い物ができた。
これでピカに乗っている時に、ロロが攫われる事を防げる。これだけで万全だとは思えないけど。
「取り敢えずは安心じゃない?」
「そうだね」
後は、ピカ自身も警戒をしているだろう。あの事件以来、街の人達もちびっ子には気をつけている。
あの時とは違うんだ。まさかまたあんな事が、起こらないだろう事を祈るよ。
この1年で生活は落ち着いた。この剣帯はリア姉のケジメなのだと僕は思う。これからもみんなで、頑張っていくんだという気持ちだ。
そんな意味もあってのお墓参りだった。
そこでロック鳥が持っていた魔道具。あの魔道具の映像を見て、僕はより気持ちを引き締めた。
僕だけじゃない、姉上やマリー達もだ。まだニコとロロは幼い。2人が大きくなるまでは、父上と母上の気持ちの分も守らなければと強く思った。
ニコとロロのあの涙を、忘れてはいけないんだ。
「早く帰りましょう。ニコとロロがきっと弓の練習をしているわ。見たいのよ」
「アハハハ、そうだね」
あの新しい弓で、ディさんに教わっているだろう。と、姉上も僕も思っていたんだ。
なのに、帰ったら全く違う事をしていた。本当にディさんも、何をするのか分からない人だよ。