205ーマリー達にも
「さあさあ、お昼にしませんか?」
「うん、まりー」
「あ、僕お野菜を採ってくるよ!」
そう言ったかと思うと、ピューッとお外へ出て行った。手にはしっかりと麦わら帽子と、お野菜を入れる籠を持っている。
「でぃしゃん、しゅきらね」
「ふふふ、本当ですね。ロロ坊ちゃま、お片付けしましょうか」
「うん、まりー」
ディさんに頼まれた刺繍、まだあと半分位かなぁ。ちょっとデザインに凝っちゃったから、なかなか進まないのだ。
「こんなに細かい柄はマリーにはできませんよ」
「しょんなことないのら」
マリーは大雑把だからだ。根気よくコツコツと刺繍すれば誰にでもできるのだ。
「あらあら、そんな事ありませんよ。色んな緑の使い方がお上手ですね。それに何でしたっけ? 坊ちゃまは、付与もされているのでしょう?」
「うん、でぃしゃんをまもってねって、おもうらけなんら」
付与といっても俺はそんな感じなのだ。
俺の付与は、守ってほしいとか盗ったら駄目とか、そんな事を思いながらチクチクと刺繍する。もっと本格的に教わったら良いと思うのだけど、ディさんがこのままで良いと言うのだ。
「ロロ独特の付与だからね。僕はその方が良いと思うよ」
と、話していた。よく分からなのだけど。普通が分からないから、比べようがない。
「もっと大きくなったら、本格的な事を教えてあげるよ」
と言っていたから、今はこれで良いかと思うのだ。
そうそう、リア姉とレオ兄からマリー達にもプレゼントがあったのだ。
同じ革で作られた、肩から斜め掛けにして使うポシェットとバックの中間くらいの小さなバッグだ。お財布とハンカチ、ポーションの小瓶を2本位なら余裕で入れられる大きさだ。
革はそのままの色で、染色はしていない。色んな部位の革を集めたのだろう。少しずつ色が違っていて、パッチワークみたいになっている。だけど、流石親方なのだ。
花弁の一枚一枚が、今にも風に揺れそうなくらい繊細なお花模様を、ポイントとしてカービングしてある。このお花は何のお花なのかな?
「アルストロメリアですよ」
ああ、確かお祭りに使われるお花だ。光の精霊様が飛び去った後に、その花が咲いていたと伝わっている花だ。ルルンデの街ではとてもメジャーなお花で、お祝い事だけでなくお悔やみ事でも使われるそうなのだそうだ。
マリーと、エルザ、ユーリアの3人お揃いで、お花のカービングが少しずつ違っている。もちろん、猫ちゃんの肉球マーク入りなのだ。
「まあまあ! 本当によろしいんですか!?」
と、マリーは驚いていた。エルザとユーリアも喜んでくれた。エルザなんて、早速翌日から使っていたのだ。
俺も何かしたかったなぁ。何も知らなかったしぃ。知っていても、俺ができる事なんて大した事がないのだけど。
「ロロには、ハンカチがあるじゃない」
「でぃしゃん、しょんなのれいいの?」
「ロロが刺繍をすると良いと思うよ」
そうか。でもそうしたら、ディさんの分がまた遅くなってしまうのだ。
お墓参り前には、プチゴーレム達のお帽子を超特急で作った。その時もディさんの分は全然出来なかったのだし。
「僕のはゆっくりでいいよ。全然急いでないからね」
んー、考えるのだ。どうせなら、バッグと同じお花模様にしたい。でも俺は、そのお花をよく知らないからなぁ。ニコ兄は植えてないし。
「急がなくてもいいじゃない。お祭りの後でも良いと思うよ」
「なるほろー」
そっか。お祭りの後なら、その何とか言うお花も見ているだろうし家にあるかも知れない。そしたらデッサンできるのだ。そうしようかな。ならそれまでは、ディさんの分に集中なのだ。
それに、少し考えもあるのだよ。ふふふん。
午前中は、ディさんの刺繍をチクチクと。それからお昼を食べてお昼寝して、午後はディさんに弓や魔法を教わっていたのだ。
「ロロ、お手本を見せるね」
と、ディさんが何処からか弓を取り出した。あれだね、マジックバッグだ。もう覚えたのだ。
綺麗でかっちょいいディさんの弓。エルフの国の長老に作ってもらったと話していた。 葉っぱの模様が彫ってあり、意匠を凝らした一級品だ。木の色が違う。使い込んでいるからなのかな?
「これはエルフの国にある世界樹の枝を使っているんだ」
「しぇ、しぇ、しぇかいじゅ!?」
「アハハハ、そうだよ」
そんな物があるのか? 俺はそれさえも知らなかったぞ。世界樹と言えば、神話に出てくる。それが本当にこの世界にはあるのだ。
「エルフの国はね、その世界樹が中心にある国なんだ。僕の魔法杖も世界樹の枝を使ってあるよ」
と、また何処からか大きな魔法杖を出した。これは、マジックバッグからじゃないぞ。一体どうなっているのだ?
「ああ、大きさを変えられるんだ。いつもはほら」
と、デイさんが言うと大きな魔法杖が、シュルシュルと小さくなってアクセサリーの様な大きさになった。もう俺は何が何だか分からないぞぅ。
「魔力を流すと大きさが変えられるんだ。いつもは此処だね」
と、耳のピアスホールへ。マ、マ、マジですか!? エルフさんはそんな事もできるのですか!?
俺はお目々が、これ以上大きくならないぞという位に見開いて驚いてしまったのだ。




