196ー有名になっちゃった
珍しいコッコちゃんの卵が特産品になったら、それだけの経済効果が期待できる。
それは今まで、ダンジョンしかなかったルルンデの街にとっては、とても利益のある事になる。それくらいは、分かっているのだ。
でも、それで良いのだ。自分達だけが良い思いをするよりは、みんなで美味しいと言って食べる方が良いだろう? それだけの事だ。
「それとな、前に話していた貴族に雛を一羽譲ったんだ」
以前話していた、コッコちゃんのお肉を食べてみたいと言っていた貴族なのだ。
オスカーさんは、コッコちゃんを絞めたりできないから、雛が孵ったらそのまま譲ると話していた。
但し、勝手に売り物にはしない。自分達が食べる分以上に増やさないと、領主様と約束しなければならない。
それを勝手にされてしまうと、ルルンデの街としての産業にならなくなってしまうからだ。
「結局その貴族も絞められないと言ってな、飼うことにしたらしいぞ」
「よかったのら」
だって雛は可愛らしい。もちろん、家のオレンジ色した子達もだ。
大きくなったら美味しい卵を産んでくれるから、それで良しとして欲しいのだ。
「でぃしゃん、きょうかいにもいくのら」
「そうだね、じゃあオスカーさん」
「おう! ロロ、また食べに来いよ」
「うん、ありがとー」
俺達は孤児院へと向かったのだ。教会の前に人集りができている。またコッコちゃんを、お散歩させているのかな?
人集りに近づいていくと、その中心にビオ爺がいたのだ。
「待ってくれ、本当にないんだ」
と、大きな声で言っている。どうした? 何かあったのかな?
「でぃしゃん、ろうしたのかな?」
「ね、何かあったのかな?」
少し離れて、教会へ入って行こうとしたのだ。
「あ! ディ! ロロ!」
おっと、呼ばれてしまった。どうしたどうした?
「コッコちゃんの卵を売ってくれって言うんだよ。もう無いからって言ってんだけどな」
「ありゃりゃ」
「卵は数がないから売ってないんだ! 食べたかったら『うまいルルンデ』で食べられるからさ!」
と、ディさんが大きな声で言った。
集まっていた人達は、渋々と言った感じで帰って行ったのだ。
「まいったよ。昨日もこんなんだったんだ」
いつの間に、そんなに有名になっていたのだ? だって売っていないのに。
孤児院で産まれた卵を、領主のフォーゲル子爵に買い取ってもらっているらしい。と、言っても2~3日に1度だけだ。それでも、口伝に広がったそうなのだ。
「領主様が定期的に買ってくれるから、街の孤児を2人保護できたんだ。だから、それは良いんだが」
ストリートチルドレンの問題だ。先ずは小さい子から保護していくと話していた。進んでいるではないか。良い事なのだ。
裏に回って孤児院の方へ行くと、庭でコッコちゃん達が日向ぼっこをしていた。雛が……え? 何羽いるのだ?
「凄い増えてるじゃない!?」
「おう、だって裏で飼うんだろう? だから食べる分以外は孵しているんだ」
そんなになのか? あれからそんなに日は経っていないのに、もう10羽の雛がいる。それに、まだ温めている卵もあるらしい。
こんなに雛が増えて、子供達だけでお世話ができるのか?
「コッコちゃんは、お利口さんですからね。それは大丈夫なんですよ」
ハンナだ。今日も子供達の面倒を見ている。
それは大丈夫と言う事は、大丈夫じゃない事もあるのか?
「餌なんだよ」
「びおじい、おやしゃい?」
「そうなんだ。ロロはどうしているんだ?」
「にこにいが、おやしゃいを育ててるのら」
「あー、そうなのか。ならいいな」
それがなくても、うちはコッコちゃんが食べるお野菜には困らない。だって、ドルフ爺達が畑をしているから。お野菜の葉っぱなんて沢山あるのだ。
孤児院でも畑は作っている。でも、それほど量は作っていない。子供達の食事に困らない程度なのだそうだ。
「ニコを連れてくる?」
ディさん、ニコ兄を連れて来ても直ぐにお野菜は増えないのだ。庭の隅にある畑を見てみよう。
と、トコトコ歩いて行く。孤児院の庭の隅に少しだけ作ってある畑。うーん、見るからにニコ兄の畑とは、葉っぱの大きさや色が違うのだ。土が悪いのか? と、思って触ってみた。うん、分からない。いや、きっと基本ができていないのだ。
だって、普通に畑にある畝ができていない。俺も詳しくは知らないけど、でも畝くらいは知っている。
確か水はけをよくし、また栽培場所と通路の区別をすることで、野菜の生育管理がしやすくなる。そんな感じだったと思う。これは駄目だね。
「でぃしゃん、ちゅれてくる?」
「ね、そう思うだろう?」
「うん、どるふじいもなのら」
「ああ、そうだね」
そうそう、ドルフ爺の方が知識もあるからね。経験だって違う。
「帰ったら相談してみよう。ドルフ爺の畑でいらない葉っぱはあるの?」
「たくしゃんあるのら」
コッコちゃんファミリーと、クーちゃんが食べてもまだまだあるぞぅ。
「僕がドルフ爺から貰ってくるよ」
「ディ、助かるよ」
ああ、そうだ。確かドルフ爺の息子夫婦が、街でお野菜を売っていたのだ。
「でぃしゃん、どるふじいの、むしゅこしゃん」
「ん? ロロ、何て?」
説明したのだ。ドルフ爺の息子さん夫婦が、街でお野菜を売っているからそこから貰えば良いと。




