191ーいつもの朝?
お墓参りから帰って来て、次の日は1日みんなと一緒だった。
ディさんが朝からやって来たり、ドルフ爺とセルマ婆さんがやって来たり。
お土産を渡して、いろんな話をしたのだ。クーちゃんには本当に驚いたね~なんて話していた。
人々が寝静まり、夜行性の獣達が我が物顔で闊歩している頃。俺もベッドの中でレオ兄にくっついて夢の中だ。外は誰も歩く人なんていない。
そんなルルンデの街を、見下ろす様に浮かぶ不気味な影があった。
空に浮かぶ大小2つのお月さま。その光で逆光になって輪郭しか見えない。
俺はそんな事も全然気付かないで、ぐっすりと眠っていたのだ。
◇◇◇
ルルンデの街に少し暑い季節がやってきたのだ。
日本の夏の様に、ムシムシと茹だるような暑さではない。湿度が高いわけではないからだと思う。
汗はかくけど、耐えきれないような暑さではない。爽やかなそよ風が吹いているし、カラッとしていて全然過ごしやすいのだ。
いつもより少し早く朝が始まり、少し遅く夜が来る。1日が少し長い。
夕ごはんを食べたら、直ぐに眠くなる俺には関係ないけどね。
お墓参りから帰ってきて、翌日はみんなゆっくりとしていたけど直ぐに元通りなのだ。今朝もいつもの光景が繰り広げられている。
「姉上、早く行かないと良いクエストが無くなってしまう」
「だってレオ、暑いじゃない」
「だからってどうするの?」
「行くわよ。行くけど、今日はダンジョンにしない?」
「それでも良いよ」
「そう、決まりね」
そんなリア姉とレオ兄を余所に、ニコ兄と俺は朝ごはんをのんびりと食べている。
コッコちゃんの卵料理も、もちろんある。そのコッコちゃん達も、俺の足元でお野菜を貰って食べている。雛達も少し大きくなった。
ピカも今日はリア姉達に付いていかないから、のんびりとわふわふ言いながらお肉を貰って食べている。プチゴーレム達まで、ピカさんと一緒にお肉を食べていたりする。
そのすぐ側では、チロがお肉をブチっと引きちぎって食べていた。チロも少し大きくなったのだ。
家の外には、クーちゃん一家もいる。それにしても、大所帯になったものだ。
ま、俺はマイペースなのだけど。
「うまうま」
「な、やっぱコッコちゃんの卵は美味いよな」
「おばあちゃん、行ってくるわ」
「はいはい、気をつけてね」
エルザが出掛けて行ったのだ。早いなぁ。元気だなぁ。俺は、モグモグしながら手をフリフリして送り出す。
「ほら、姉上。行くよ」
「分かったわよぅ」
お墓参りから戻って来たリア姉を、一目見てディさんが驚いていた。
「何!? 何があったの!? どうしてこうなったんだ!?」
長いまつ毛のパッチリとした綺麗なお目々を、より大きく見開いていた。
そして、スライム退治の事を話したのだ。そしたら、ディさんにまた驚かれた。
「ロロ! どうして僕を呼ばないの!?」
「え、わしゅれてたのら」
「ええーッ!」
まさかディさんを、呼ぶ事ができるなんて夢にも思わなかったリア姉達。
「なんで、もっと早く言わないの?」
「ロロ、それ忘れるか?」
「アハハハ!」
また、笑っているのはレオ兄だ。
だって、忘れていたのだ。と、言うかそれどころじゃなかった。結果オーライって事なのだ。ふむ。
「リア、ニコ。2人は今まで本当にサボっていたんだね。今回よく分かったよ」
と言って、ディさんは少し呆れていたのだ。
お、やはりそうなのか。そうだよな。だって2人とも直ぐに、できるようになったのだから。
魔力操作ができるようになると、何が違うのか俺にはまったく分からない。でも、ディさんが見ると違うらしい。それこそ、別人のように違うのだそうだ。
体の中にある魔力。その流れが違うらしい。今まで使えなかった魔法が使えるようになったり、威力が上がったりする。
自分で強化したり、ガードしたりもできる。冒険者をしているリア姉にはとても有効な事なのだ。
リア姉はいつも通り、今日もレオ兄と一緒に冒険者ギルドへ出掛けて行く。
「行ってくるね」
「ニコ、ロロ、お利口にしているのよ」
「俺はいつもお利口だっての」
「いってらっしゃい」
俺に抱きついて、ほっぺにスリスリするのもいつも通りなのだ。
ふむふむ、今日のコッコちゃんの卵料理も美味しいのだ。
「うまうま」
「ロロ、早く食べな。俺も行くぞ」
「うん、いってらっしゃい」
ニコ兄も相変わらずなのだ。ユーリアと一緒に、麦わら帽子を被って畑へと走って行こうとしている。
「あらあら、ニコ坊ちゃま! 水やりを忘れてますよ!」
マリーに言われている。うちの畑と薬草畑、その横に増えた花畑へ、水やりをするのを忘れているのだ。
「いっけね、忘れてた!」
ニコ兄は水属性魔法が使える様になったから、水やりも楽勝だ。ピャーッと手からお水を、シャワーの様に出してあっという間にお終いだ。
「ユーリア、お弁当よ」
「おばあちゃん、有難う」
「マリー、ロロ、いってくる! ピカ、頼んだぞ!」
「いってらっしゃい」
「わふん」
「はいはい、いってらっしゃいまし」
相変わらずなのだ。変わったところは何もない。が、お墓参りから帰って来た日、ディさんが言った。
「良い旅だったみたいだね」
「うん、たのしかったのら」
帰って来た俺達を見て、ディさんは驚いたらしい。




