188ー魔道具
俺は赤ちゃんだったから全然覚えていないけど、でも目に浮かぶのだ。
ポカポカした陽だまりのような母様の側で、ロック鳥の雛と一緒にお昼寝だ。そんな光景が浮かんできた。
そばにはリア姉やレオ兄、ニコ兄にマリー達、そして父様がいたはずだ。
そう思ったら、心までポカポカしてくるような気がするのだ。
『そうだわ、私あの頃まだ雛だったでしょう。キラキラ光るものが好きだったのよ。それでね、とってもお気に入りの物があって、クロエがそれをくれたのよ。それをまだ持っているの。待ってて、巣にあるから持って来るわ』
そう言って、バサッと羽搏いたかと思ったらブワッと一気に浮いてもう飛んでいた。
凄い力なのだ。あの大きな体を一気に浮かせる浮力だ。あの翼はとんでもないぞぅ。
『すまねーな。直ぐに戻って来るからよ』
「全然構わないよ」
まあまあ、フルーツケーキでも食べるのだ。
「あい」
『お? くれるのか?』
「うん、おいしいのら」
あーんとお口を開けてもらって、そこにポイッとフルーツケーキを投げ入れる。だってお口が大きいから怖いのだ。
俺の手だけじゃなくて、頭からパクリといかれそうなのだ。
『うめーな!』
「ひなもたべていい?」
『おう、なんでも食べるぞ』
ロック鳥の雛って成長が早いのか? いや、やっぱ魔鳥さんだからなのか? コッコちゃんの雛も次の日にはお野菜を突いていたのだ。
良いのならあげよう。お食べ。みんなで食べよう。
俺がフルーツケーキを差し出すと、ピヨピヨと寄って来た。可愛いなぁ。小さな嘴で突いて食べている。
「ピヨヨ」
「ピヨ」
「ククク」
これはフォーちゃん、リーちゃん、コーちゃんなのだ。
自分達は食べられないアルよ。とか言っている。お野菜しか食べないのだろう? それは仕方ないのだ。
「キャンキャン」
「アンアン」
と寄って来たのはプチゴーレム達だ。この子達は何でも食べる。いつの間にかね。
どうやって消化しているのか、それは未だに不明なのだ。
「いっちー達もたべる?」
「アンアン」
はいはい、あげよう。食べな。フォーちゃん達も可哀そうだから、ピカにお野菜を出してもらおう。
「アハハハ、ロロの周りにみんな集まっているよ」
「食べ物には弱いのね」
「いつもロロの周りにいるもんな」
そうかな? そうかも知れない。でも、俺が一番家にいるからって事もあるのだと思うのだ。
いつも昼間は、みんな出掛けていていない。
そんな事をしていると、遠くから翼の音がしてロック鳥の奥さんが戻って来た。持って来ると言っていたけど、何も持っていないではないか?
『お待たせ!』
コロンとお口から出したのだ。え、咥えて来たのか? ベットベトになってないか?
『こら、ちびっ子。また失礼な事を考えてるな』
このロック鳥の雄の方。どうして分かるのだろう。昨日も俺の心の声を読まれた気がするぞぅ。
だって、お口だもの。そう思うのだ。
レオ兄が、それを拾ってまじまじと見た。丸い小さな物。真ん中に少し大きめの、宝石の様なものが付いている。
『記念にってくれたのよ』
「レオ、これって」
「そうだよね、これ魔道具だ」
「まろうぐ?」
「ロロ、まどうぐだ」
ニコ兄、俺はそう言っているつもりなのだ。分かってほしい。
ロック鳥の奥さんが、お口からペッと出した丸い物は魔道具らしい。
レオ兄の掌にのるくらいの魔導具だ。細やかな彫金が施され、その中心にはキラキラとした紅玉が埋め込まれている。
真ん中に付いている、宝石の様な石は魔石なのだそうだ。見るからにお高そうだ。
リア姉とレオ兄が真剣に見ている。魔道具だとは分かったものの、一体何の魔道具なのだろう。
「それは……」
意外にも、マリーに見覚えがあるらしいぞ。
「レオ坊ちゃま、その魔石に魔力を流してください」
「マリー、覚えがあるのかい?」
「はい、私の息子がよくそれと同じ物を持たされていましたから」
何か映っているかも知れません。と、マリーが言った。そう言ったのだ。
リア姉やレオ兄はもう分かったみたいだ。
「ロロ、こっちに来なさい」
リア姉が俺を呼んだ。何だ? 映っているかも知れないって……?
「ニコもこっちにおいで。いいかな? 魔力を流すよ」
レオ兄が魔力を流すと、白い光が出てその空間に……きっと俺達が住んでいたお邸だ。その庭が映し出されたんだ。
奥にある四阿が映し出され、そこから引いていくと手前に花壇がある。
バラの様な豪華な花ではない。ニコ兄が育てていたピンクのアネモネと、白い小さな花のスノードロップ、黄色のフリージア、それに淡いブルーのネモフィラだ。その周りにはラベンダーも映っている。
ああ、もうニコ兄が泣きじゃくりながら、綺麗な大粒の涙を流している。
そうか、ニコ兄はこの庭を覚えていたからあの花を選んで植えたのだ。母様が育てていた花を、ニコ兄も育てていたのだ。
どんな気持ちで……どんな思いを込めて育てていたのか。
マリー達がじっとそれを見ながら、静かに涙を流していた。エルザやユーリアが、マリーにしがみ付いて泣いている。2人も覚えているのだろう。マリーが話していた。マリーの息子さんがよくこの魔道具を持たされていたと。
なら、これを撮っているのはエルザとユーリアの父親だ。
撮っているのだから映ってはいない。それでも、自分達の父親を感じて泣いているのだ。




