184ーかっちょよかったのら
「そうだね、大きなお友達だ」
「うん」
「マリーはまだヒヤヒヤしますよ。そんな魔鳥なのに」
「まりー、こっこちゃんも魔鳥しゃんなのら。いっしょなのら」
「あらあら、そうでしたね」
そうなのだよ。もうコッコちゃんは慣れっこになっているけど、魔鳥さんなのだ。
それに、ロック鳥も悪い奴じゃない。
さあ、朝食を食べて馬車に乗って、お墓参りに出発なのだ。
それにしても、昨日はとっても中身の濃い1日だったのだ。ロック鳥とお話をした。俺じゃなくて主にレオ兄がだけど。
愛妻なんていうほど、奥さんを大事にしている気の良い奴だったのだ。
その後は対スライム2連戦だ。俺はスライムを見るのが初めてだった。
よくアニメに出てくる、彼の有名なスライムだ。アニメで見ていたのとはちがった質感で、あんなに可愛らしくはなかった。当たり前なのだけど。
そして、スライムのあの攻撃だ。まさか物を溶かす液体を、飛ばしてくるとは思わなかった。
それを華麗に避けるリア姉とレオ兄。最高にかっちょよかった。痺れちゃうのだ。
スライム2連戦は大変だったけども、俺にとっては大きな発見だったのだ。
それは、リア姉だ。まさかリア姉にあんな魔法が使えるようになるなんて、化ければ化けるものなのだ。
剣に青い炎を纏わせただけでなく、それを飛ばしてヒュージスライムをあっという間にやっつけたのだ。青い炎だよ、青。そこが重要なのだ。
普通の火属性魔法の炎は赤よりのオレンジ色だ。それが、リア姉は青の炎を出した。ちみたち、分かるかな?
そうなのだ、炎の温度が高いのだ。赤い炎は約1500度と言われている。これに対して青い炎は約10000度〜なのだ。『~』だよ。約10000度以上って事だろう?
そんな凄い炎を出したのだ。これはきっと、俺にしか分かっていない事なのだと思う。
だってこれは、前世の俺の知識なのだから。
「ふゅぅ~」
「ロロ、どうしたの?」
「きのうの事をおもいだしてたのら」
「あら、そうなの?」
そうだよ、本当に凄かったの一言だ。
うわッ、ヤバイッ! て思った時が2度もあったのだ。
「わふ」
「わかってるのら」
はいはい、秘密なのだものね。分かっているのだ。
俺は口が堅いちびっ子なのだよ。そんな事を考えながら、馬車の1番後ろに座って外を見ていた。昨日と同じ道を進む。長閑なのだ。
あれ? 昨日より商人みたいな人が多く見える。みんな急ぎ足なのだ。何かあったのかなぁ?
「坊ちゃま等のお陰ですよ」
ロック鳥の事かな? それとも、スライムかな?
「両方ですよ。お陰で塩の収穫が再開されたと、ハンザさんが言ってました。ハンザさんも、急いで塩を仕入れているんじゃないですか?」
それは良かったのだ。
「ふふふん」
「なんだよ、ロロ」
「にこにい、りあねえとれおにいが、しゅごくかっちょよかったのら」
「そうだな!」
マリーが心配するから、詳しくは言わないけどね。
そのうち馬車が、岩場の近くに差し掛かった。遠くの方から、翼を羽ばたかせている音が聞こえる。ロック鳥だろう。
レオ兄とニコ兄の間から、ヒョイと顔を出す。
「まら見えないのら」
「まだまだ遠くにいるよ。こっちの馬車には、気付いているみたいだけどね」
レオ兄が岩場の方、少し遠くを見ている。
小さな白いものが、どんどん近付いてくる。あっという間に、ロック鳥だと分かるまでになった。
かっちょいいのだ。大きな翼をゆっくりと動かして、悠々と大空を飛んでいる。
「ロックちょうぅー!」
レオ兄とニコ兄の間から顔を出したまま手を振る。ニコ兄も手を振っている。
遠いから聞こえないだろうなぁ。
ロック鳥は馬車の上を旋回して、返事をするように軽く一鳴きして飛び去って行ったのだ。
「まあまあ、怖い事」
「マリー平気よ。きっと挨拶に来てくれたのね」
そのまま高台へ馬車が進むと、前に木立が見えて来た。
その下が開けていて、白くて四角い同じ様な大きさの石が沢山並んでいる。陽の光が墓石に反射して眩しい。この世界の墓地だ。
少し規模の大きい霊園の様な感じになっている。
その墓地の近くに小さな教会があった。ルルンデにある教会よりも小さい。
びおじいみたいな司祭様がいるのかな? いや、ビオ爺は不良司祭だとマリーが話していたのだ。もっと普通の司祭様がいるのだろう。
その教会を通り過ぎ、墓地の前で馬車は止まった。
やっと来た。本当はもっと早くに来たかった。
両親が亡くなって、家を追い出されてバタバタしているうちに、あっという間に1年が過ぎてしまったのだ。
やっと生活のリズムもできた。ほんの少しの余裕もできた。やっと来る事ができた。
この世界では、街を出て移動するのは大変だ。
まず交通手段がない。幸い、このフューシャの街とルルンデの街の間には乗合馬車が定期的に走っている。ちゃんと護衛も付いている。
護衛が付いていても、道中は危険がいっぱいだ。魔獣が出て来る。偶に盗賊だっている。そんな危険を冒してまで、領外に出る一般庶民はあまりいない。
俺達は人数が多いから馬車を1台借りた。そうじゃない殆どの人は、乗合馬車を利用する。
そうしてやって来た、1年ぶりのお墓参りだ。この世界の両親……覚えていなくてごめんなのだ。
馬車からリア姉に降ろしてもらい、白い柵で囲ってある墓地に入って行く。
俺は、マリーと手を繋いでトコトコと歩く。リア姉は、ニコ兄が育てた花束を持っている。




