18ーピカ
「それにしても、立派で大きな犬だ。毛並みも良い。登録をしていないのか?」
「登録ですか?」
「そうだ。役所かギルドで登録しておく方が良いな」
役所かギルドに登録とは。ピカと従魔契約をしていると、証明する登録をしておく制度があるのだそうだ。役所やギルドで専用の首輪を貰うのだ。
ピカは魔獣ではない。でもあの泣き虫女神が神使だと言っていた。それは多分バレないだろう。
この世界では魔獣だけでなく、例えば毛並みの良い馬でも盗まれたりする事があるそうなのだ。
だから、犬にしては毛並みも良く立派で大きいピカも、狙われる可能性があるのだ。
リア姉とレオ兄に、よく付いて行っているピカは冒険者ギルドではお馴染みだ。冒険者ギルドならスムーズに登録できるだろうという話だ。
「犬にですか? 従魔じゃないのに?」
「そうだ。ピカは珍しい犬なのではないか?」
珍しいっちゃあ珍しい。だって泣き虫女神の神使だから。そんな事は言えないけど。
騒ぎを聞きつけて、孤児院の中からリア姉とハンナが出てきた。
「ねえ、何があったの? どうしてロロが泣いているのよ」
「姉上、実は……」
ややこしくならないか? きっと、リア姉は怒り出すぞ。
「ピカを……帰りましょう! こんなところに居られないわ!」
「姉上、落ち着いて。もう収まったんだから」
「何をしてくれているのかしら! 領主様の娘なら何をしてもいいの!?」
おっと、周りで見物していた人達がリア姉の言葉に同調しているぞ。マズイなぁ。
あの令嬢の評判が悪くなるのは勝手だけど、クラウス様は庇ってくれて場を収めてくれたんだ。
「りあねえ、もういい」
「ロロ、だって許せないわ! 横暴じゃない!」
周りの関係ない人まで頷いている。みんな大なり小なり、同じ様な気持ちになった事があるのだろう。
「姉上……」
「りあねえ、もういい」
「はいはい、もうお終いです! それより折角ですから、バザーを楽しんで下さい!」
ハンナがパンッと手を叩いて、場の空気を変えてくれた。
そこにやっとマリーがやって来た。
「すみません! 私がついていながら!」
「まりー、だいじょぶら」
「ロロ坊っちゃま、怖かったですね」
「だいじょぶ」
「ピカも、ごめんなさいね」
「わふ」
マリーが俺を抱きしめながら、ピカの頭を撫でる。マリーは店番をしていたから仕方ないのだ。悪くない。それに、レオ兄やニコ兄がいてくれたのだ。
「マリー、妹が悪いんだ。やはり連れて来るんじゃなかったよ」
「クラウス様、バザーをご覧になりましたか?」
「いや、ハンナ。母上に付いて司祭様に挨拶をしていたんだ。そこへ護衛が呼びに来たから、何事かと思ったらレベッカがやらかしていた。参ったよ」
「まりー、うれた?」
「はい、もう全部売れましたよ! ロロ坊っちゃま、気分を変えてバザーを見て回りましょう」
「うん」
「ロロ、いいの?」
「うん、りあねえ」
「姉上、後で相談するよ」
「分かったわ」
それからリア姉とニコ兄やマリーと一緒にバザーを見て回った。
みんな思い思いの品を売っている。孤児院の子供達が、育てた野菜は人気があって毎回直ぐに売り切れるのだそうだ。
俺が気になっていたフルーツも買ってもらって食べた。
その間もずっと、レオ兄とクラウス様は話し込んでいた。
レベッカが強制的に撤収された事で、孤児院のちびっ子達も出てきて一緒に遊んだ。
俺はちょっと疲れて、マリーに抱っこして貰っていたのだ。
「マリー、聞いたぞ」
今頃、ビオ爺と奥様のお出ましだ。どうやらバザーに来ていた人が知らせたらしい。
奥様はどんな時でも優雅だ。今日も大きなブリムの帽子を被っている。
「ロロ、ごめんなさいね」
「うん」
「あの我儘令嬢はとんでもないな」
母親である奥様の前で、ビオ爺が堂々と言った。そんな事を言ってもいいのか?
「本当に迷惑ばかり掛けてしまって」
そうか。これが初めてじゃないんだ。知っているから、孤児院の子達は早々に逃げたのだ。それならそうと、俺にも教えて欲しかったのだ。
「奥様、このまま大人になったらマズイですな」
「クラウスと同じ様に育てたつもりなのに、どうしてああなったのかしら」
あれれ、呑気だね。頬に手をやり、首を傾げている。親も慣れっこになってしまっているのか?
どうやら、家でも我儘勝手のやりたい放題らしい。メイドさんにも事ある毎に突っかかっているのだとか。
しっかり叱らなきゃ駄目じゃないか。それとも、聞く耳を持たないのか?
今日は社会見学の一貫にと、連れてきたらしい。結果は、駄目駄目だったのだ。
午前中の内に、殆どの商品が売れていた。俺とマリーが持ってきた、ハンカチとクッキーも早々に売れた。
それから俺達は、マリーの孫娘、エルザが働いている食堂へと移動したのだ。
その名も『うまいルルンデ』
ネーミングがダサすぎる。『ルルンデ』の街の名前を取ったのだろうけども。『ルルンデ』は美味いのか? 食べられるのか? と、ツッコミたくなるのだ。
冒険者ギルドの、近くにあるだけあって量といいお値段といい冒険者向けなのだそうだ。それに、とっても美味しいらしい。
だから、毎日忙しいとエルザが話していた。お休みが貰えないと。
それでも、毎日楽しそうに通っている。お店の店主夫妻が良い人らしい。
「おばあちゃん!」
「あらあら、看板娘の働きっぷりを見に来たわよ」
「何言ってんのよ」
ピカも入っていいのか? 食べ物屋さんだけど。
「ロロ坊ちゃま、大丈夫ですよ。ちゃんと話してありますから」
「ありがと」
「はい!」
良かった。あんな事があった後だ。ピカだけで外に待たせておくのは心配なのだ。
「リア様、聞きましたよ。もう噂になってますよ」
「え? あの我儘令嬢の事?」
「はい! 街の人達も嫌ってますから。そんな話は超早いんですよ!」
「あらあら、可愛らしいお客さんね」
お、なんだか色っぺー人が出て来たのだ。
この食堂『うまいルルンデ』の女将さんだ。厨房から旦那さんも、態々出て来てくれた。
2人お揃いのエプロンをしている。エルザは色違いだ。
そのエプロンは特注らしい。だってエプロンの胸のところに店名が入っているのだ。『うまいルルンデ』と堂々と。
「座って座って。今日はお任せでいいわよね?」
「これ、エルザ。ちゃんとご挨拶させてちょうだい」
「おばあちゃん、女将さんと旦那さんよ」
うん、それは見れば分かるのだ。
いつも孫娘がお世話になりまして。的な挨拶と、俺達の紹介をしてやっと席に着いたのだ。
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