175ースライム退治 1
「これは、酷いな」
「信じられないわ。こんなになるまで放っておくなんて!」
リア姉が怒っているのだ。原因になっている場所を見て、正常な時と比べているのだろう。リア姉とレオ兄はきっと以前見た事があるのだ。
こんなになっていない時のフューシャン湖や、川の状態を知っているのだ。
そんな事を全然知らないまだちびっ子の俺が見ても、川の状態は異常だった。
「姉上、スライムだらけだ。分かる?」
「ええ、もちろんよ。レオ、やるわよ」
「ああ。ニコ、ロロ、そこにいるんだよ!」
そう言うと、リア姉とレオ兄は湖に向かって走って行った。
いやいや、待って。俺も行きたいのだ。
「ロロ、駄目だぞ。ここから見ているんだ」
「らって、にこにい」
「駄目だ、邪魔になる」
ニコ兄が真剣な顔をして言った。ニコ兄だって一緒に行きたいはずなのだ。それを討伐の邪魔になると言って我慢している。両手をギュッと握って我慢している。
なのに、俺が我儘をいう訳にはいかない。仕方ないのだ。
「ぴか、おねがい」
「わふん」
俺は何の役にも立てないけど、ピカさんに頼んだのだ。ピカなら、守ってくれるし討伐だってできる。
でも、湖で増殖していたのはスライムだ。それが問題だったのだ。
少し離れた場所からリア姉とレオ兄を見ている。2人が湖に近付いていくと、水鉄砲の様に液体を飛ばしてくる。スライムが攻撃してきているのだ。
水を飛ばしているのか? と、見ていたのだ。
「ロロ、あそこの地面を見てみろ。スライムが飛ばしてきた水が、落ちた地面だよ」
地面を? と、不思議に思いながらニコ兄が指差す地面を見た。
び、び、びっくりなのだ。
「に、に、にこにい! とけてるのら! ジュッて!」
「な、あれただの水じゃないんだ」
俺達が驚いている時も、スライムが何かの液体を飛ばしている。リア姉とレオ兄は、それをヒョイヒョイと避けている。
その液体が落ちた地面に生えていた草が溶けていたのだ。ジュッと音を立てて溶かして地面の色が変わっている。
ニコ兄が言うように、普通の水ではないのだ。塩を含んだ水でもない。
あれはスライムの攻撃なのだ。
駄目だ、駄目だ。あれが当たったら溶けるじゃないか。怪我をするじゃないか。
「いたいいたいはらめなのら」
俺がそう呟いた時だ。俺のポシェットに入っていたチロが顔を出した。
「キュル」
「あ、ちろ?」
ピョンと俺の頭に乗ってきて鳴いたのだ。
「キュルン」
俺は分かったのだ。これはあれだ。ペカーッて光が出るやつなのだ。
俺が思った通り、チロから光がでてリア姉とレオ兄を包み消えて行く。
「ちろ、ありがと」
「キュル」
「ロロ、あれか。痛くないやつだな」
「しょうなのら」
2人の防御力を強化してくれたのだ。その内、ポヨンポヨンと湖の中でスライムが跳ねだした。攻撃しようとしているのだ。
よくアニメで見るスライムよりは若干大きいように見える。淡いブルー色した楕円形のスライムだ。
ポヨヨンと飛んでレオ兄に飛び掛かってきた。それを反射的にレオ兄が槍で薙ぎ払って真っ二つに斬ったのだ。
「おおー!」
「レオ兄、スゲーッ! スゲーぞ!」
と、俺達は盛り上がっていたのだけど、リア姉が叫んでいる。
「レオ! 何してんのよ! スライムは斬ったら駄目でしょう!」
「あ! 思わず、斬っちゃったよ!」
リア姉の言った通り、レオ兄が斬ったスライムは二つに分裂したのだ。どっちも動いている。そのままポヨヨンとまた湖に落ちて行った。
「えぇ、なんれぇッ!?」
「ええーッ! スライムって斬ったら駄目なのかよ!」
そうか、だから物理攻撃は駄目だと話していたのだ。
なら、魔法だ。ああぁッ!! 俺は大変な事に気付いてしまった。これは一大事なのだ。
「ロロ、どうしたんだよ?」
「らってにこにい、ぴかは魔法れ斬るのら」
「あー! マジかよー!」
「しょれに、れおにいも風魔法なのら!」
「そうだったぁッ!」
どうするのだ!? 不利なのだ。とってもとっても不利なのだ!
ニコ兄と俺は真っ青なのだ。思わず2人で抱きついてしまった。ブルブルと震えてしまうのだ。
斬ったら駄目なんて、どうするのだ!?
リア姉の得意なロングソードや、レオ兄の槍は使い物にならなのか?
「ヤバイじゃん! レオ兄って属性は風と水と土だったよな!」
「しょうなのら!」
「よしッ! こうなったらリア姉だ! リア姉! 頑張れー!」
「がんばれーッ!」
声を張り上げて応援した。ピョンピョンその場でジャンプしながら応援したのだ。リア姉の火属性魔法に頼るしかない。
俺達は何もできないから、邪魔になってしまう。もどかしいのだ。
「レオ! スライムを掬い上げて! 燃やすわ!」
「分かった!」
何をどうするつもりなのだろう?
今日は本当に珍しい。リア姉が大活躍なのだ。明日、嵐になったらどうしよう。
見ているとレオ兄が、器用に槍でスライムを掬い空中に投げたのだ。それも、一度に何匹も一緒にだ。斬らないように、槍でぶっ刺して空中に放り投げているのだ。
空中に投げられたスライム目掛けて、リア姉が火属性魔法で炎を出して焼いていく。ジュウッと音がしてスライムが消し炭になっている。
「おおーッ! スゲー!」
ニコ兄が、さっきからスゲーばかり言っている。興奮しているのだ。と、言う俺もとっても興奮しているのだ。お鼻がピクピクしそうだ。
リア姉とレオ兄がカッコよすぎるぞぅ。




