172ー野望の一つ
「ロロはそんな事を考えていたのか」
そうなのだ。何も好奇心だけで乗りたいと思っていたわけじゃないのだ。川を見るのが目的なのだ。
「わふぅ」
「アハハハ! ピカは誤魔化せないね、ロロ」
「ぴか、しょんなことないのら」
ピカが、だって乗ってみたかったクセに。なんて、言ったのだ。勿論、乗ってみたい。だけど川の調査がメインなのだ。
「わふ」
「ほんとなのら」
「アハハハ!」
どうも、レオ兄もピカの言葉が分かると、遣り難いのだ。
『なんだ? 何話してんだ?』
「あのさ、僕達を乗せて飛んだりできる? フューシャン湖を見たいんだ」
お、レオ兄が乗り気なのだ。
「レオ、何言ってんのよ。危ないじゃない」
「でも、姉上。ロロが言う通り、上空から見たら一目瞭然だろう?」
「そうだけど」
レオ兄がその気になったのなら、もう決まったも同然なのだ。
リア姉だって、領地の事を放っておけないのだから。
『お前達四人をか? そんなもん、俺様にかかったら楽勝だぜぃッ』
やったね。楽勝だって。俺の野望が叶うのだ。
「ロロ、嬉しそうだね」
「しょんなことないのら」
いや、嬉しいんだけど。でも、フューシャン湖を上空から見てみると良いという気持ちは本当なのだ。
「姉上、乗せてもらおう」
「でも、レオ。危ないわ」
「リア姉、いいじゃん! 乗せてもらおうぜ!」
ほら、ニコ兄も乗り気なのだ。
やっぱニコ兄も考えることは一緒なのだ。
そして、リア姉も観念した。上空からフューシャン湖とそこから流れ出している川を確認する事になったのだ。
それから、俺達はロック鳥の尾羽の方からヨイショと乗って背中まで移動した。
意外と羽の内側が、フワフワだったので驚いた。もっと硬い羽ばかりだと思っていたのだ。
俺はちびっ子なのでピカに乗せてもらった。ニコ兄だってレオ兄に手を引いてもらってやっと乗れたのだ。
ちびっ子戦隊が自分達も行く気満々だったのだけど、残念ながら居残りなのだ。
「らって小さいから、とばしゃれてしまうのら」
「ピヨ!」
「キャン!」
「らめ、とばしゃれるから、らめらよ」
「ピヨヨ」
「わふ」
ロロだってちびっ子アルね。なんて言ったものだから、ピカに叱られている。
確かに、俺もちびっ子なのだけど。でも、ちびっ子戦隊よりは大きいのだ。
『背中の羽に掴まるんだぞ』
「うん、分かったよ!」
俺はレオ兄が四つん這いになってロック鳥に捕まっている懐に入れてもらい、レオ兄に掴まる。レオ兄も、ガシッと俺を摑まえてくれているのだ。
『いいかー! 飛ぶぞぉ!』
「ロロ、ニコ、僕と姉上にしっかり掴まっているんだよ」
「おうッ!」
「わかったのら!」
「いいよ!」
レオ兄が返事をすると、ロック鳥が羽搏いた。グワンと胃がひっくり返るみたいな感覚に襲われる。思わず俺は、レオ兄の腕にギュッとしがみ付いた。
俺が一番小さくて軽い。掴まっていないと、飛ばされそうだ。野望を叶えるのも大変なのだ。
「ロロ、大丈夫か?」
「レオ兄、とばしゃれるのら!」
「アハハハ! 僕が捕まえているから大丈夫だよ」
「わふ」
ピカは平気なのか? ピカの毛が風に靡いている。なのに、とっても涼し気な顔をしているのだ。あ、いかん。怖いのだ。
「ロロ、見てごらん。凄い景色だよ」
「えぇー」
俺は景色を見る余裕なんて無くて、目を瞑って必死でレオ兄にしがみ付いていたのだ。
恐々、ゆっくりと目を開けて見る。
ずっと遠くまで広がる大地。眼下に広がる緑の中に街が見える。人なんてアリさんくらいに見える。その外れにピンク色した湖が見えている。あれがフューシャン湖だ。
そこだけ、別世界の様だったのだ。陽の光りが反射してキラキラしている。思ったより大きい湖だった。
そして、本当にピンク色をしていた。俺は塩湖自体を見るのが初めてだ。前世でも見た事がない。こんなに鮮やかなピンク色をしているとは思わなかったのだ。
「確かにいつもより色が薄いね」
「本当だわ。それに、ほら見て。塩の山が少ないわ」
レオ兄とリア姉は冷静に見ている。俺はそれどころではなかったのだ。
「しゅごい、しゅごいッ!」
「な! ロロ、スゲーよな!」
ニコ兄と一緒にテンションマックスだ。俺の野望が一つ叶ったのだ。凄いぞ!
それにしても、風が強い。眉間に力を入れて、ほっぺにもギュッと力を入れて唇を堅く結ぶ。そうしないと、風でほっぺやお口が持って行かれそうなのだ。
「ぶぶぶッ」
「アハハハ! ロロ、その顔はどうしたの!」
「らってれおにい、風がちゅよいのら!」
飛んでいるのだから当然なのだ。風圧でお顔が痛いくらいなのだ。
うぅ……鼻水が出てしまうぞぅ。
ピカが小さく、わふんと鳴いたのだ。そしたらあら不思議。風が吹いてこなくなった。
「あれ? ぴか?」
「わふん」
風属性魔法を展開して、ガードしたんだと言った。そんな事ができるなら、最初からして欲しかったのだ。
「アハハハ! ピカは凄いなぁ! 魔法の使い方が僕には考えられないよ!」
レオ兄が、褒めている。そうなのだろうな。だって神獣なのだから。
「ねえ! もっと低く飛べない!?」
『おう! 任せとけ!』
湖の上空をロック鳥が、ゆっくりと低空飛行をしていく。良く見ると、リア姉が言っていた塩の小山が見える。三つしかない。しかも、全部同じ色なのだ。少ないのだろう。
確か三つの色の塩が採れると話していた。




