17ーレベッカ
「ニコ坊ちゃま、ロロ坊ちゃまとピカと一緒にハンナのところに行って下さい。ユーリアもよ」
「おう、分かった」
「おばあちゃん、分かったわ」
「ほら、ロロ。行こう」
「うん。ぴか」
「わふ」
マリーは何か感じたのだろう。俺達を移動させたのだ。
急いでハンナのそばへと移動する。
ニコ兄が俺の手を引いてくれる。でも、俺はそんなに早く歩けないのだ。小走りになって付いて行く。気持ちばかり焦って、足が縺れそうだ。
ハンナがいた。そばにはレオ兄もいる。もう少しなのだ。
「レオ兄!」
ニコ兄がレオ兄を呼ぶ。俺が早く走れないからなのだ。
「ニコ、ロロ、ユーリアも。どうした?」
レオ兄が気付いてくれた。でも、遅かったのだ。
「待ちなさい!」
後ろで声がしたのだ。俺達を呼び止める声だ。それでもニコ兄は俺の手を引いて、レオ兄のそばへと急ぐ。ピカは俺のそばを離れず付いてくる。
バザー会場の和気藹々とした雰囲気が、令嬢の声で一気に凍りついた。
「待ちなさいって言ってるじゃない! 止まりなさい!」
やっと走り寄って、俺はレオ兄の足にしがみ付く。レオ兄が片手で、俺の肩を抱いてくれるがもう既に俺は涙目だ。
ピカが俺の横で守るように立っている。
「ヴゥゥゥ……」
ピカが威嚇している。駄目だ、威嚇の声を上げたら駄目なのだ。
皆が注目する中、令嬢は腰に手をやり俺達を睨みつけている。
「僕の弟達が何かしましたか?」
レオ兄が柔らかい口調で聞いた。そして、
「待ちなさいと言ったのよ!」
ツインテールに結んだ髪をパサッと手で払い、最初から喧嘩腰で超上から目線なのだ。キッと目を吊り上げて睨んでいる。
それでもレオ兄は、穏やかに話しかける。
「何かご用でしょうか?」
「用があるから待ちなさいと言ったのよ! その大きな犬を渡しなさい!」
なんだと……!?
俺は思わず片手でレオ兄の足を、もう片方の手でピカをギュッとした。
いきなり何を言っているのだ? この子は意味が分かって言っているのか?
「この犬は僕達の家族なのです」
「そんな事知らないわ! 私が渡しなさいと言ったら、黙って渡せば良いのよ!」
「どうするおつもりですか?」
「連れて帰るに決まっているじゃない! 私の犬にするわ!」
なんて横暴なのだ。噂以上だ。
はい、分かりました。と、渡すと思っているのか?
「らめ!」
「何言ってるのよ?」
「ぴかは、らめ」
「ロロ、僕が話すからね」
「れおにい、だってぴかはらめなのら」
「分かっているよ」
周りにいた人達がみんな見ている。ああ、まただ。と、いった嫌悪の混じった表情で令嬢を見ている。睨んでいる人もいる。
この小さな令嬢は、街の人達にそう思われているのか?
「私に刃向かうつもりなの!?」
「刃向かうも何も僕達の犬です」
「うるさいわね! さっさと渡せば良いのよ! 平民のくせに!」
ヒステリックな声を上げ、令嬢はピカに手を出そうとした。
「らめッ!」
俺は令嬢の手を遮り、ピカの首に抱きつく。ピカを渡すわけないだろう。
「何よ! どきなさい!」
綺麗にカールされた髪を揺らしながら、俺に向かって大きく振り上げる。その令嬢の手をレオ兄が掴んだ。
「おやめ下さい。小さい弟に何をするのですか?」
「グルルル……」
「離しなさいよ! 汚い手で触らないで!」
令嬢が、真っ赤な顔をして掴まれた腕を振り払おうと叫んでいる。
レオ兄が掴んでいた令嬢の手を離す。ピカも威嚇の声を上げている。駄目なのだ。ピカの背中を撫でる。怒ったら駄目なのだ。
相手は子供なのだ。ピカの方が絶対に力も強い。もしも怪我でもさせたら、余計に面倒な事になってしまう。
周りの人達が、俺達を囲み出した。みんな俺達を庇ってくれているのだ。だけど、騒ぎになってしまった。拙いのだ。
「レベッカ! 何をしているんだ!」
令嬢の兄が気付いてくれたのだ。クラウス様が慌てて走って来た。令嬢と俺達の間に割って入る。
「お兄様! 邪魔をしないでください! 私はこの犬を連れて帰るの!」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ!」
「ぴか、らめ」
「ああ、ロロ。分かっているよ」
「お兄様!」
「この犬はロロ達の犬だ。レベッカが連れて帰る事はできない」
「私が連れて帰ると言ったら、連れて帰るのよ!」
「やはりお前を連れてくるんじゃなかったよ」
クラウス様が、何処かを見て合図をした様だった。すると何処にいたのか、護衛みたいな人達が素早くやって来た。
そして令嬢をガシッと抱えて無理矢理馬車まで連れて行った。手慣れているぞ。それでも令嬢は……
「離しなさい! あの犬を連れて来なさい!」
と、甲高い声で叫んでいる。これは思った以上に酷い。
クラウス様が、肩を落とし大きなため息を一つ吐いた。
「すまない、迷惑をかけた」
「いえ、ピカは僕達の大事な家族なのでお譲りできません」
「勿論分かっている。君はロロの兄か?」
「はい。レオナルト・レーヴェントと申します」
「私はあのレベッカの兄だ。クラウス・フォーゲルと言う。すまないな、迷惑を掛けた。ロロもすまない」
「ぴか、らめぇ……うぇ……うぇ〜ん!」
「ロロ、もう大丈夫だよ」
「妹がすまない事をした。泣かないでくれないか」
いかんなぁ……どうにも気持ちは3歳児だ。泣いてしまったのだ。恥ずかしい。ピカに抱きついて顔を隠す。
「ロロ、大丈夫だぞ」
「にこにい……ヒック」
ニコ兄やレオ兄が、俺を抱き締めたり背中を撫でたりしてくれる。慰めてくれるのだ。
注目を集めてしまったのだ。超恥ずかしいから、みんなで隅っこに移動したのだ。
「すまない。私の妹が申し訳ない事をした」
「いえ、クラウス様。もう大丈夫ですから」
「ロロ、また孤児院で会ったら私とも仲良くしてくれないか? もう妹にあんな事は言わせないからな」
「グシュ……くらうしゅしゃま、悪くないのら。れも、ぴかはだめー。えぇぇ〜ん」
「ああ、泣かないでくれ」
クラウス様がしゃがんで俺の頭を撫でる。兄は良い人なのになぁ。どうして妹はああなった? 何を間違えたのだ?
「ほら、ロロ。おいで」
「れおにい……グシュ」
「もう泣かない。大丈夫だ」
「うん……」
「わふ」
まさかこんなハプニングが待ち受けているとは、思いもしなかったのだ。俺は3歳児全開になってしまった。
それからレオ兄とクラウス様は何やら話をしていたのだ。
お読み頂き有難うございます。
我儘令嬢の登場です。
ロロくん、3歳児炸裂です。(^^;;
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