169ー課題
その時、ピカがもう一度短く吠えた。
「わおぉん!」
『ぎゃおぉ!』
返事をしたのか? ロック鳥も鳴いたと思ったら、少しずつ高度を下げて馬車の前に下りて来たのだ。
バッサバッサと翼と尾羽を動かしながら、まるでホバリングをするかの様に止まって高度を下げてくる。地面に風が舞い上がり、砂煙が舞い立つ。
初めて間近でみるロック鳥。真っ白で大きい。太陽を背にして仄かに光っているようにも見える。
濃い黄色の大きな嘴に、鋭い目つき。それに茶色の鍵爪はとても大きくて、俺なんて一掴みで持っていかれそうだ。
翼を広げると太陽が隠れてしまいそうな大きさがある。近くでみると迫力が違うのだ。
これは……乗れるのではないか? しかも、全員だ。だって馬車より大きいのだ。
「ロロ」
「あい、ごめんなしゃい」
秒でバレてしまった。レオ兄は俺に背を向けているのだ。なのに何故に!?
『神獣様を使うなんて、卑怯じゃねーかぁッ!』
なんだ!? 頭に直接言葉が響いてくるのだ。び、び、びっくりなのだ。
「ロック鳥が念話で話してきているのよ」
「ぴょぇッ!?」
「スゲーッ!」
念話ですとッ!? ピカさん、ピカさんや。念話ですとッ!
「わふぅ……」
あ、ピカが呆れているのだ。どうしてなのだ? だって、凄いじゃないか! ピカさんみたいなのだ。
『俺様を呼びつけるなんて、良い度胸してるじゃねーかッ!』
どうやら、このロック鳥は雄らしい。俺様とか言っている。何? 君はどこかのアニメに出てくるドラゴンなのか? そんな事はないだろう? ロック鳥なのだろう? しかも、ピカの方が格上なのだろう?
『おいおいおいッ! そこのちびっ子! 失礼な事を思ってんじゃねーぞぉ!』
「ぴぇッ!」
どうしてなのだ!? どうしてバレたのだ!? びっくりして、思わずピカの後ろに隠れた。
「わふぅ」
あ、またまたピカが呆れている。ごめんなさい。黙ってるのだ。
「僕達は墓地に行きたいだけなんだ。ここを通してくれないか?」
レオ兄が怖がりもせずに、ロック鳥に話しかけた。とっても冷静なのだ。さすが、レオ兄なのだ。
『あん? この先にある墓地か?』
「そうだよ。それに、ここを通る人達に危害を加えるのは止めてくれないか。フューシャン湖の水位が上がっているんだ。それを調べる為に、この道を通りたいだけなんだよ」
『へんッ! ヒューマンなんて信じらんねーなぁッ! 俺様には関係ねーしな!』
「わおんッ!」
あ、ピカが注意したのだ。その言い草は何だ? と怒っている。
『だからよぉ、ズリーだろうよ! 神獣様を使うなんてよぉ!』
言葉は悪いけど、このロック鳥悪い奴じゃない気がするのだ。
なんだか、誰かに似ているのだ。ほら、いるじゃないか。ギルドや『うまいルルンデ』にガタイの良い人が。似てないか? あの2人は『俺様』なんて言わないけど。
「ロロ、何考えてんだ?」
「にこにい、にているのら」
「ロック鳥が誰かに似ているの?」
「りあねえ、しょうなのら。ぎるますと、おしゅかーしゃん」
「あー、アハハハ!」
「そう言われてみれば、タイプが一緒かもね。ふふふ」
「しょうしょう」
もう怖さが無くなったのだ。口は悪いけど、気の良いおじさんって感じなのだ。
ロック鳥が何歳なのかは知らないけど。3歳児の俺から見たら、大抵はおじさんなのだ。え、違う?
「わふぅ」
ごめんなさい。また、呆れられてしまったのだ。今度こそ黙ってるのだ。
でもピカ、雰囲気が似ていると思わないか? 人とロック鳥だと全然違うのだけど。
『俺様は忙しいんだよ! いちいちヒューマンが何をしたいかなんて、気にしてらんねーんだッ!』
おやおや、怒りん坊さんなのだ。駄目だよ、ちゃんとカルシウム摂ってる?
「レオ兄、このロック鳥さ」
じっとロック鳥を観察していたニコ兄が、何かに気付いたみたいだ。
「もしかして、腹減ってんじゃないか? お腹がペタンコじゃん」
「え? ニコ、そうなのか?」
「ほら、フォーちゃん達のお腹と比べて見たら良く分かるぞ」
なるほど。雛3羽の出番なのだよ。変な出番なのだけど。いや、雛だから人でいうと幼児体形なのではないか?
「ピヨヨ?」
「ピヨ?」
「クック?」
はいはい、レオ兄のそばに行くのだよ。
トコトコと馬車の前の方へと歩いていく3羽の雛達。
『なんだぁ? えらく小っせーのがいるじゃねーか』
「フォリコッコの雛なんだ。飼ってるんだよ」
また普通に話しているレオ兄。近所のおじさんと話しているみたいなのだ。
そして、レオ兄が雛達のお腹と目の前にいるロック鳥のお腹を見比べた。
雛たちのポヨンとしたまん丸のお腹と……あらら、ロック鳥のお腹はペタンコなのだ。
「あ、本当だ。ねえ、お腹空いてるのか?」
『ああ!? なんだよ! 関係ねーだろう!』
その時だ。タイミングが良いと言うのか、ロック鳥のお腹が盛大な音をたてたのだ。
――グゴゴォォォーーッ!
凄い音だった。びっくりしたのだ。
ほら、お腹が空いているから怒りっぽくなるのだ。
「ぴか」
「わふん」
ピカがズズイと前に出た。
「わふわふ」
『え? いやいや、マジかよ』
ピカがお肉を沢山持っていると話したのだ。すると、ロック鳥の目がキラランと光ったのだ。
『いや、そう直ぐには信用できねーな! 俺様が今まで食った事のない物を食わせろッ! そうしたらお前達の希望を聞いてやってもいいぞ! なんならそこの雛を食ってもいいんだぞ! 腹の足しにもなんねーけどな! ガハハハッ!』
「ピヨッ!」
「ピヨヨッ!」
「クック―ッ!」
雛達が、何て奴アルか! 酷い奴アルね! と怒っている。ジャンプして蹴りを入れに行く勢いなのだ。




