143ー進捗状況(レオ視点)
「レオ、ロロは眠った?」
「はい、ディさん。ベッドに入ると直ぐに」
「じゃあ、クラウス君」
「はい、少し進展があったのでお知らせしようと思って来ました」
「ニコ、まだロロには言わないでよ」
「リア姉、分かってる」
僕達はソファーの方へと移動した。
エルザが、みんなにお茶を出してくれた。僕がロロをベッドに連れて行っている間に、帰って来ていたんだ。マリーとエルザ、ユーリアは食卓テーブルの方に静かに座っている。みんな、僕達の家の事だと分かっている。どんな話になるのかと、真剣だ。
そして、クラウス様が話し出した。
「貴族簿の閲覧申請をしていたのです。その許可が下りそうだと連絡がありました。その部署にいる知り合いが、正式な許可が出る前に教えてくれたのです」
「そう、まだ早い方なのかな?」
「はい、普通なら閲覧許可の申請は領地の役所を通してするのですが、父が王都に行って直接申請して来たのです。その時同時に、爵位継承についての調査依頼の申請書を貰ってきました。その事もあって担当部署も、ただ事ではないと思ってくれたようです。貴族が直接申請に来るなんて、珍しい事ですからね」
「なるほど、そう度々ある事じゃないんだね」
ディさんの言う通りらしい。そう簡単に調査依頼なんて出さないのだそうだ。貴族簿の閲覧は、貴族が婚約者候補の相手を調べる時くらいにしかしない。調査依頼はもっと少ないのだそうだ。
それだけ、大変な事をしようとしていると言う事なのだろう。複数の貴族の連名が必要だと言う事だけでもそうだ。
「それで、レオ。アウグスト卿と連絡は取れたのかな?」
「令嬢のフィーネに文を送りました。事が事なので、お父上と兄上に相談してくれると返事をもらったところです」
「そうか、あの伯爵ならきっと力になってくれるだろう」
「だと良いのですが」
フィーネの言葉を疑っている訳ではない。ないんだけど、僕達は家を追い出されてから貴族の友達や知り合いには、散々な扱いを受けている。
そんな事もあって、頭から信用する事ができないんだ。いや、信用してまた裏切られる事が怖い。
フィーネ達は友達だと思っていたいから、余計に怖くなる。
このルルンデの街があるフォーゲル領。その向こうは王都だ、王都に沿って囲む様に幾つかの領地がある。フォーゲル領や、フィーネ達の実家のアウグスト領もその一つだ。フォーゲル領とアウグスト領は隣領になる。
フィーネの家は隣領だけど、今は王都の学園の寮にいる。
王都にいるフィーネへ文を送って、そこからまた隣領にある実家へ連絡を取ってくれるんだ。
だから余計に時間が掛かってしまう。文が届くまで何日も掛かる。その距離がもどかしい。
「レオ、焦っても仕方ないよ。着実にやっていこう」
「はい、ディさん」
僕達では貴族簿の閲覧さえ出来なかった。それがあと少しで確認できる。それだけでも大きな進歩だ。
「これは、父が懸念していたことなんだが。もし、担当部署の人間と結託して不正に継承の手続きをしたのであれば、貴族簿の閲覧許可に関しても妨害があるのではないかと心配していたんだ」
「クラウス君、妨害があったの?」
「いえ、それがありませんでした」
「良かったです。そこまでするのかと思ってしまいます」
どう考えても不自然なんだ。僕が成人するまでの、期間限定的な継承なら納得できる。でもそれなら僕達を家から追い出す必要なんてない筈だ。
あの時は突然の事で、しかも叔父に急き立てられたから冷静に考える暇もなく慌てて家を出た。
だけど、今考えると僕達は追い出される理由なんてないんじゃないかと思うんだ。
叔父が本当に継承してようと、僕達の家なのだから。
その上、貴族ではなくなるなんてそんな事不自然だ。
「レオ、マリー、後は執事の行方を調べたいんだ。何か確実な証拠が欲しい」
「クラウス様、それは私がオスカーさんに探してもらうように依頼してます」
「オスカー? 『うまいルルンデ』のご主人か?」
「はい。人探しを専門にしている人に依頼してくれてます」
「そうか。マリーに心当たりはないのか?」
「はい。執事さんはウォルターさんと言います。先代のレーヴェント家のご当主様に拾われて、名前まで付けて頂いたそうです。他に家族や身寄りはいないはずです。ですから、何処で何をしているのか全く分からないのです」
「マリーより長く仕えているの?」
「はい、そうなんです。先代から仕えておられましたから。私は坊ちゃま達のご両親に拾って頂いたので、私より何十年も長く仕えてらっしゃいました」
僕も父に聞いた事がある。執事のウォルターは、僕達の祖父母に拾われたのだと。
詳しくは聞いていないけど、行き倒れていたまだ子供のウォルターを助けて、家に連れて帰ってきたらしい。
それは、僕達の両親が生まれる前の事だったと。
普通、貴族が行き倒れていた子供を連れて帰ったりはしない。見て見ぬ振りをするだろう。
なのに、祖父や祖母は放っておけない人達だったらしい。古い使用人の中には、同じような境遇の人が何人か居たと思う。
皆に教育を施し、適材適所の仕事を与えた。その中でも執事のウォルターは、優れていたのだろう。




