120ー思い出
「へぇ~、この弓も良い物だね」
「この弓も父に貰ったんです。だから僕も同じ材質でと思って」
「この材質はもしかして……」
「はい、ララマニの木です」
「それは良い物だ」
近くにある森の奥、暗い場所に生息すると言われる木だ。暗い場所で育つからなかなか育たない。その所為で年輪が詰まった良材となるのだそうだ。
その年輪の幅が狭く、緻密故に狂いが生じ難いので加工しやすい。その上、光沢があって美しいと言われている。
弓の材に最適なものとしてよく知られているのだ。
「冒険者になってから買った物を、しばらく使っていたのですが、どうも手にしっくりこなくて。だから僕も同じ材質の弓が欲しいんです」
「そうだね、弓は使い慣れたものが1番だ。この弓だと、少し小さくなってしまったのかな?」
「そうなんです。威力も足らなくて」
「レオが大きくなったんだ。10代は直ぐに大きくなるからね」
リア姉やレオ兄は、少しでも父さまに貰ったものと同じようにと思っているのだ。
リア姉とレオ兄は、俺にはない思い出があるのだ。笑ったり泣いたり怒ったり。そんな普通の思い出があるのだ。俺はそれが羨ましいと思った。
「ロロがいつも持っているポシェットもそうだよ」
「れおにい?」
俺がお出かけの時に、いつも肩から掛けている小さなポシェットの事だ。ちびっ子の俺が肩からかけて丁度いい大きさなのだ。特別な物でも何でもない。
今は、チロの寝床になりつつあるのだ。最近は、チロがいないなぁと思ったら、ポシェットの中に入っていたりするのだ。お気に入りらしい。
「それは、母上が作ってくれた物だよ」
「しょうなんら……」
俺は、玄関に置いてあったポシェットを手に取った。
知らなかったのだ。記憶のない頃からいつの間にか俺が使っていた物だ。そうか、そうなのか。俺にも、母さまの思い出があったのだ。
「ロロ?」
「れおにい、うれしいのら」
「ふふふ、ロロはいつも母様に抱っこされていたわ。そしたら父様が、私もロロを抱っこしたいとか言い出して」
「アハハハ、そうだった。ロロの取り合いが始まるんだ」
「ボクの?」
「そうよ、ロロ。父様も母様もロロが大好きだったのよ」
「しょっか……しょっか」
「良い話だ」
ふふふ、なんだか嬉しい。心がポカポカするのだ。
俺はまだ赤ちゃんだったから、覚えていない。俺の知らない両親だ。
俺が前世で何かで読んだ話だけど、赤ちゃんはただお世話をしてもらうだけだと生きていけない、成長できないみたいな話を読んだ事がある。
両手で抱き上げられたり、話しかけられたり、愛情を与えないと駄目なのだと。
俺が今こうして生きているのは、両親や兄姉達から愛情を掛けて貰ったからに違いないのだ。
リア姉が俺を、ひょいと抱き上げた。
「ロロは父様と母様の大事な末っ子なのよ。私達の可愛い弟よ」
「りあねえ……」
良い話をしているみたいだけど、手はしっかり俺のお腹をモミモミしている。
俺の頭の天辺をスーハーと匂っているだろう。バレているのだ。
「りあねえ、やめれ」
「もう、ロロったら冷たいんだからぁ」
これが無かったら良い姉なのに。
「ロロは、まだ赤ちゃんの時の匂いが残っているから、姉上はそれが恋しいんだよ」
「ボクはもう赤ちゃんじゃないのら」
「そうだね、大きくなった」
「本当よ」
「それでもロロは可愛いよー!」
今度はディさんが抱きついてきたのだ。止めてくれ。
「あらあら、中でお茶をどうぞ」
出た。マリーの得意技なのだ。「お茶をどうぞ」の一言で場を仕切ってしまう。
みんなマリーの言う通りにしてしまう。ある意味、必殺技なのだ。
「まりー、ボクはじゅーしゅがいいのら」
「はいはい、りんごジュースでいいですか?」
「うん」
「わふッ」
「キュル」
「あらあら、ピカとチロもですね」
「うん、ほしいって」
もうマリーは、雰囲気で分かるようになっているのだ。
これは、あれだね。話せないけど、ペットが訴えている事は分かるのと同じなのだ。
「コケコ」
「ククッ」
「え、れおにいなの?」
コッコちゃんが、レオ兄の足元にやって来て訴えているのだ。
「ロロ、コッコちゃんは僕に何を言っているの?」
「れおにい、こっこちゃんがれおにいに卵をあたためてほしいって」
「僕に?」
みんなでお茶をしてまったりとしていた時なのだ。コッコちゃんが2羽やってきて俺にそう言ったのだ。
この子達は多分、いつもよく話してくる子達だ。
レオ兄に卵を温めて孵してほしいと訴えているのだ。
「ろうして、れおにいなのら?」
「コッコッコ」
「クククッ」
コッコちゃんが言うにはだ。
オレンジ色した雛達を統率するリーダーが欲しいのだそうだ。その為に、是非ともレオ兄に孵して欲しいのだと。
目的は分かった。気持ちはよく分かる。だけど、それは何故レオ兄なのだ?
「ボクじゃらめなの?」
「コッコォ」
「クックゥ」
あらら、酷いのだ。俺が孵すと、またやんちゃなオレンジ色の雛が生まれるというのだ。
確かにそうだろうけども。嫌なのか? 駄目なのか? オレンジ色の雛達だって可愛いではないか。
「コケ」
「クク」
「あー、らってむいしきなのら」
「コッコ」
「クック」
「わかったのら」
オレンジ色の雛だって可愛い。それは当然らしい。でも、なにしろ身体能力が親鳥よりも高い。
今日だって、いつの間にかボアの上に乗って蹴りを入れていた。
だから、これからが不安なのだそうだ。また勝手に暴走しないかと心配しているのだ。
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