12ーベリー摘み
朝からマリーの作ったお弁当を持って、近くの木立までベリーを摘みに来ている。
ニコ兄とマリーと、マリーの孫娘のユーリア、それにピカが一緒だ。
今日も良いお天気なのだ。空が薄いブルーで綿菓子みたいな雲が所々に浮いている。ベリー摘み日和なのだ。
家からは少し距離があるので俺はピカに乗っている。ピカは大きいから、こんな時はいつも乗せてくれるのだ。
「わふ」
「うん、ありがと」
ピカは優しい。大丈夫か? と、気遣いしてくれる。ピカに乗っているから、ピカの言葉が分かる。俺だけが出来る事なのだ。
「ニコ、沢山あるといいね」
「おう。ユーリアはジャム好きだもんな」
「ニコだって好きでしょう?」
「うん、大好き。ジャムがあると何個でもパンが食えるぞ」
「ふふふ」
やっぱ仲良しだよね。ユーリアは14歳だからニコ兄より5歳年上だ。
ユーリアだけ、ニコ兄を『坊ちゃま』と呼ばない。近所の畑を手伝い出した頃に『ニコ坊ちゃま』と呼んでいたら、揶揄われたそうなのだ。
そんな事もあって、いつも対等に話している。あ、だからよく口喧嘩をしちゃうのか?
「にこにい、薬草もある?」
「あー、今日行くところにはないな」
「じゃんねんなのら」
「でもロロ。家の薬草がもうすぐ使えるぞ」
「ひょぉー」
「今朝みたら大分大きくなってたからな」
「ぽーしょんつくるのら」
「おう、リア姉とレオ兄に持って行ってもらわないとな」
「うん」
やっとベリーが生えている木立に到着なのだ。防御壁の外にある森と違って、壁の内側だから魔獣が出ないので安全なのだ。
「ニコ坊ちゃま、あまり離れたら駄目ですよ。魔獣は出ないと言っても、獣はいますからね!」
「マリー、分かってる!」
と、口では言っているけど、もうユーリアと一緒に走っている。
元気だな。俺はまだそんなに歩けないし走れないぞ。途中で疲れてしまう。まだまだちびっ子なのだ。分かっているけど歯痒いのだ。
「ロロ坊ちゃま、ここで摘みましょう! 沢山生ってますよ!」
「ほんとら」
この辺りに生えているのは、ラズベリーによく似た種類だ。そのまま食べてもジャムにしても美味しい。
みんな大好きなのだ。ジャムを沢山作ってクッキーに乗せよう。
「あ、まりー。グミの実もある」
「まあ、本当ですね。採って帰りましょう!」
「うん」
俺は高い場所に生っているのは採れない。背が低いからなのだ。そんな俺でも沢山採れる位に生っていた。ラッキーなのだ。
ちょっと摘まんで食べてみようかな?
「食べてもいい?」
「ふふふ、少しだけですよ」
「うん」
摘んだベリーを1つお口に入れる。うん、ほんの少し酸っぱいけど甘いぞ。
「あまあま!」
「そうですか! 良かったですね!」
「うん、まりーもあ~ん」
1つ摘まんでマリーの前に出す。マリーも食べて見てほしいのだ。
「あらあら、いただきますね。あ~ん……本当! 甘いですね!」
「ね~」
「美味しいジャムが出来ますね」
「うん」
長閑にベリーを摘んでいたのだ。ピカが暇そうに寝そべっている。ピカにも1つ食べさせてあげよう。
「ぴか、あ~ん」
「わふ」
ピカのお口は大きいのだ。指も一緒にパクリとされた。
「わふッ」
「おいしいね~」
「わふ」
ピカの耳がピョコピョコ動いた。ピンク色した鼻もヒクヒクしている。何かを警戒しているのか?
「ぴか?」
「わふッ」
ピカが起き上がり俺の前に立って、木立の奥をジッと見ている。耳や鼻が動いたままなのだ。何かを感じているのだろう。
「ぅおんッ!」
「ぴか?」
俺はピカに触れて、声を聞く。林の奥に獣がいるみたいなのだ。
ニコ兄とユーリアは大丈夫だろうか?
「ぴか、だいじょぶ?」
ピカと2人で林の奥を見ていると、ニコ兄とユーリアが走って戻ってきた。
「ロロ! マリー! 獣だ!」
「おばあちゃん。危ないから逃げよう!」
そんな事を言っていると、2人を追いかけてきたのだろう。俺が採っていたベリーの木のそばから獣が3頭顔を出した。
これは、イノシシに似た獣なのだ。そう大きくはないけど、俺達にとっては危険な獣だ。こんな木立の入口にまで出てきているのは珍しい。
そして俺の頭に何かがビュンと飛び乗ってきた。何なのだ?
「ロロ坊ちゃま!」
マリーがこっちに走ってこようと動く。俺は小さな手を出して来るなと止める。
「だめ! まりー、うごくのだめ!」
「坊ちゃま!」
「ロロ! ゆっくりこっちに来るんだ!」
「ヴヴヴ!」
ピカが臨戦態勢なのだ。ピカがいるから大丈夫なのだ。
「うごくのだめら!」
俺はみんなに声を掛ける。
「ぴか、おねがい! やっちゅけて!」
「ばふぅッ!」
ピカが一鳴きして、飛び出した。
風の刃を飛ばしながら走り出した。その時点でもう1頭倒している。そして、ピカお得意の引っ掻き攻撃でまた1頭。引っ掻き攻撃をしながら、また風の刃を飛ばして最後の1頭を倒した。
いつも、リア姉やレオ兄に付いて行って魔獣を相手にしているのだ。獣相手なら瞬殺なのだ。
「ロロ!」
ニコ兄が転げる様に走り、真っ青な顔をして俺に抱きついてきた。
「にこにい、だいじょぶ」
「ロロ! ロロ!」
俺を抱きしめるニコ兄の腕が、少し震えていた。ニコ兄も恐れているのだ。両親を亡くして弟まで……と、頭を過ったのだろう。
その気持ちは俺にもよく分かるのだ。
「にこにい、だいじょぶ。だいじょぶら」
「うん、うん」
抱き締めてくるニコ兄の背中に手を回して撫でる。大丈夫だと。
お読み頂き有難うございます!
今日はちょびっとピンチだったロロくんです。
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