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10ーマリー

 次の日、みんなが出掛けてからマリーが言った。


「ロロ坊ちゃま、抱っこしましょう」

「え、まりー?」

「マリーはロロ坊ちゃまのお母上にはなれません。でも抱きしめる事はできます」

「まりぃー……だいじょぶら」

「坊ちゃま」


 そう言って、俺が夜泣きした次の日はいつもマリーがお膝にのっけて抱っこしてくれる。でも、ちょっと恥ずかしいのだ。


「坊ちゃま、みんな一緒ですよ」

「うん、まりー」


 俺はギュッとマリーに抱き着く。フワフワしていてあったかくて良い匂いがする。


「かーしゃまも……」

「なんですか?」

「かーしゃま……とーしゃま……覚えてないんら」

「ロロ坊ちゃまはまだ小さかったのですから」

「ん……」


 そうなのだ。俺だけ両親の事を覚えていない。両親が亡くなった時はまだ2歳だったから。

 仕方がない。でも、少し位は覚えていたかったのだ。

 この世界での両親を。父親や母親の温もりを。思い出が欲しかったのだ。


「マリー、たくさんお話してほしいのら」

「旦那様と奥様のお話ですか?」

「うん」

「はい。分かりましたよ」


 マリーはずっと俺の背中をトントンしてくれる。俺って甘えん坊なのだ。

 そうだ、思い出した。違和感があったのだ。


「まりーは、あのおじしゃま知ってた?」

「いいえ、マリーもお会いした事はありませんでした。知りませんでしたよ」

「しょう」

「どうやって旦那様と奥様が亡くなられたのを知ったのかも分かりません。葬儀を行った事で知ったのかも知れませんね」


 え、それってどういう事なのだ?


「旦那様が連絡を取っておられた事も記憶にないんですよ。多分、どこに住んでおられたのかもご存知なかったと思いますよ」


 確か……あの頃、家には執事がいた筈だ。


「まりー、しつじしゃんはどこ行ったの?」

「さあ、分かりません。翌日、私達がお邸を出る時には顔を見せませんでしたし」


 変なのだ。引っ掛かる。色々考えていた。だが、体は3歳だ。温かいマリーの体温と背中をトントンされるとウトウトとしてしまった。そして、俺は夢の中なのだ。


◇◇◇


 あれ? ピカがいる。


「わふ」


 また大きい舌でべロロンと舐めてくる。


「痛いからやめれ」

「わふぅ」


 あれれ? 夢だよな? この場所、覚えがあるぞ。

 澄み渡る青空に、フワフワとした薄い雲が浮かんでいる。遠くに小川が流れていて一面小花が咲き乱れている。風景画にある様な綺麗な景色なのだ。


「ここって……」

「久しぶりなのです~!」


 ああ、やっぱりあの泣き虫女神の世界だ。両手を広げて抱き着こうとしてきたから、先に言ってやったのだ。


「なきむし……」

「ひどいッ!」

「へたれ」

「ぎゃんッ!」


 ノックアウトだ。こんなに簡単にやられてどうする。本当にヘタレな主神なのだ。


「ロロにスキルが生えているのです!」

「しゅきる?」

「はい! 刺繍をしたりポーションを作ったりしたので魔法付与です!」

「ああ……」

「普通、3歳にはできないのですッ!」


 それがヘタレ女神のお力だとでも言うのだろうか? 自慢気に胸を張っている。おっぱいに目がいくぞ。


「……で?」

「塩対応なのです!」

「呼んだのはなぁに?」

「魔法のスキルを授けるのです!」

「まほう……」

「リボンやハンカチに、もっと付与できるようになるのです!」

「うん、ありがと」


 何故か『キャンッ! ぎゃんかわッ』と言って両手で顔を覆いながら仰け反っている。クネクネと体をくねらせていて、ちょっと引いてしまう。

 この創世の女神であり主神だというが、神らしい威厳というものが大変不足していると俺は思うのだ。


「魔法を使えるようにしておくと、後々役に立ちます。回復もです!」


 それは、姉や兄に良いな。またリボンに付与し直そう。

 ヘタレ女神が、何処から出したのかふんわりと白く光る球を出した。それをヒョイと俺の方へと押し出す。

 あら不思議。その白い球が俺の体の中へと吸い込まれていった。これ、大丈夫なのか?

 後でお腹が痛くなったり、熱が出たりしないか? 心配なのだ。


「わふッ」

「しょう?」

「わふわふ」


 どうやら大丈夫らしい。ピカの方が頼りになるのだ。そんな俺に気付く事なく女神が話を続ける。


「毎日、魔法操作をするといいです!」

「まほうしょうしゃ?」

「体の中で魔力を動かすのです!」

「ん、わかった」

「ああ、時間切れなのですぅーッ!」


 ヘタレ女神のその言葉を最後に俺は目が覚めた。


「わふ」

「ぴか、夢?」

「わふわふ」


 ん~、分からん。とにかく、レオ兄に教わった魔法操作を毎日してみるか。

 付与の効果が高くなったら、それだけリア姉やレオ兄を守る事ができるかも知れない。

 まだ小さくて力のない俺には、剣や槍を振り回す事はできない。それどころか、早く走る事さえできない。

 でも、魔法ならできるかもしれないのだ。うん、付与魔法を頑張ろう。ポーションも作ろう。

 兄弟4人が離れ離れにならない様に。もう誰も失わない様に。俺にできる事をしよう。


「ロロ坊ちゃま、目が覚めましたか?」

「うん。まりー、ありがと」

「マリーには何もできませんけど」

「ううん、まりーがいてくれてよかったのら」

「ロロ坊ちゃま」

「今日はなにしゅる?」

「今日はお天気も良いですし、薬草畑を見ましょうか」

「うん。お水あげて草とって」

「はい!」

「いいのがあったらポーションつくるのら」

「はいッ!」


 マリーに聞いた事で気になる事があった。でも俺にはどうする事もできない。調べる手立てを持っていない。

 機会を見てレオ兄に話してみよう。レオ兄なら考えてくれるだろう。

 大丈夫だ。俺はまた泣くことがあるだろう。だってまだ3歳だから。

 だけど、大丈夫だ。今日も頑張ろう。


毎日お読み下さる方々、ブクマや評価をして下さった方々、有難うございます。

先日は日間部門別ランキング14位でした。

まだまだ頑張ります!

宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
(´;ω;`)ううううううううう←もらい泣きした
[良い点] ロロ坊ちゃまの口撃に撃沈する女神、二人の関係が面白いです。女神は今後もウザがられながらもロロをフォロー(?)していくのでしょうか(^。^) 楽しみです
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