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空腹な男  作者: 宮 友和
2/2

居酒屋にて


「この席でいいよね。よっこいしょういち。」


「うん。」


「おねえさん、ウーロン茶のストレート。ノリは?」


「わたしは瓶ビール。タカちん、ホント下戸なんだね。」


「うん。瓶ビールは致死量だよ。」


「さっき一次会で、肉離れしたって言ってたけど、大丈夫?」


「順調に回復中だよ。まだ、青タンが引かないけどね。」


「ちょっと見せてよ。」


「ここじゃ無理だよ。ズボン下げなきゃ、見えないよ。」


「望むところよ。」


「言うねぇ。」


「三本目のアシの方が見たいけど。」


「げげ、本気かよ?酔うと過激な下ネタまで炸裂するねぇ。下ネタが好きな女は嫌いじゃないけど。」 


「下ネタは会話に潤いを与えるのよ。最近のセクハラに対するバッシングは分からないわけでもないけど、下ネタも自粛されるような世の中はどうかと思うわ。」


「俺、ときどき、下ネタ漫才で芸能界にデビューする妄想をするんだよ。下ネタって結構、中高年に受けるんじゃないのかなぁ。いっしょにやってみない?当然、ノリがボケ。」


「なに言ってんの。それにしても、いいかげんにサッカー辞めたら?この3ヵ月で2回も肉離れしたんでしょ?先月は右太ももの裏。今月は左太ももの表。肉離れって転移するの?」


 ノリは、小・中学校の同級生。今日、コロナ禍で1年遅れの還暦祝いの同窓会で40年ぶりの再会をした。タカシは、成人式の同窓会には二浪のため、欠席。次年の同窓会には晴れて出席できた。その時以来だ。


その時、ノリはすでに人妻だった。自分がやっと大学生になったのに、もう人妻!思わず「お嫁サンバ」がリフレインした。そのノリは数年前に離婚し、東京から実家に帰っていて、この同窓会に久しぶりに参加したのだった。


 そして、言い合わせて、2次会の途中、「家に帰る」と、時間差で抜け出し、別の居酒屋に2人でしけこんだわけである。

 

 ショートボブで米倉涼子似の男気ある初老の女。顔にあられが降りかかるような心地よい語り。


「お酌するよ。」


「ありがと。」


「では、再会を祝し、乾杯!」


「バツイチ同士に、カンパーイ!」


「今頃奴らはカラオケ大盛り上がりかな?」


「おててつないで、デュエット歌ってんじゃないのー。タカちんならなに歌う?」


「う~ん、そうだなぁ……『You never walk alone』リバプールの応援歌!」


「なにそれ?カラオケにあるの?」


「ないだろうね。以前、カラオケボックスで歌おうとしたら収録されていなかったからね。」


「じゃあ、歌えないじゃないの。」


「いや、スマホのYou Tube でカラオケがあるからそれで歌ったよ。誰も知らなかったからみんなポカンとしてたっけ。」


「でしょうね。」


 と、言いながらもタカシの頭の中には別の曲、斉藤和義のあの曲がずいぶん前からヘビーローテされていた。


「♪ずっと好きだったんだぜ~。相変わらずキレイだな。」


 その夜、タカシは結局長年の思いを言い出せずに一人で帰宅した。還暦過ぎの男の勇気のなさに、我ながら情けなくなった。


「♪自分ばかりじゃ 虚しさばかりじゃ」


 今夜もこれか?と呆れながらも。布団に潜り込んだ。


「あー、腹減った。」


 また独り言。




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