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空腹な男  作者: 宮 友和
1/2

朝のルーティン

 定年退職したアラカン男のタカシは、それまでの人生の不完全燃焼物を解消するため、学生時代まで続けていたサッカーを再開する。

 1 


 坂本竜馬が、振り向きざまに額を真一文字に切られた瞬間、スマホのアラームで目が覚めた。朝6時。


「また、あの夢か……。」


 身体を布団から起こしたが、ボーッとして、2分。はっと、我にかえり、先日、肉離れした左大腿筋を気遣いながら、立ち上がる。マットレスの沈みに足を取られ、左に少しよろけると患部がピリリとする。内出血している辺りを摩りながら、


「あー腹減ったぁ。」


 今朝は、昨日の朝に炊いた白飯(昨夜の内に冷蔵庫に入れておいたのをチンした)にセブン-イレブンの冷凍唐揚げ3個。そして、ウェルシアの野菜ジュース。即席味噌汁を飲みたいが、湯を沸かしている時間がない。


 スマホで昨夜のサッカー日本代表の試合の評価を確認する。相変わらず日系ブラジル人の評価は辛いな、と納得しながら、NHKの朝のニュースをぼんやり眺める。朝の番組はNHKに限る。バラエティー色の強い民放は、朝のボケた頭と身体には辛い。


「いただきます。」


「いただきました。」


 一人で食べているから勿論応答がない。


(わが県の方言では、食後の挨拶は「いただきました」と「ごちそうさまでした」を使い分ける。自炊した質素な食事だから「いただきました」。御呼ばれならば不味くとも「ごちそうさまでした」だ。)


 さらに膨らんだ腹を擦りながら、茶碗や小皿を流しに出す。洗うのは帰宅してから。朝は兎に角時間がない。


 洗面所の蛇口をHOTにして髪を洗い、寝癖を直し、シェイバーで髭を剃り、歯を磨いている間に、便意を催し、トイレに駆け込む。


 スウェットをユニクロのワイシャツ、スラックスに着替える。THERMOSの水筒にBRITAで浄水した水を入れ、それをTUMIのブリーフケースの水筒入れに突っ込む。ささやかな経費削減である。


 散乱した衣服を跨ぎながら部屋を出、裏の勝手口からビルトインガレージに入る。縦置き2台構造のガレージだ。そこの出口近くに駐車してあるSUZUKI EVERY WAGONの後方には、がらんとした1台分の駐車スペースが寂しそうに虚しく広がっている。コンクリートの床には、エンジンオイルの汚れが染み込んでいる。今では使い道を失い、埃にまみれた工具類が、壁際の棚の上や床に置かれた工具箱に雑然と放り込まれている。

 

 前方出口のスライディングシャッターを上げ、EVERYに乗り込むが、朝日をまともに浴びて眩しいので、サンバイザーを下げる。ボヤッキーのセリフを思い浮かべながら、START BUTTONを押す。ガレージから少し出してから降車し、シャッターを下げて再度乗車し、走り出す。いつもながら面倒くさい。


 車中泊用に購入したエブリイ(と言ってもリースだが)は、4年と9ヶ月過ぎたが、すでに13万キロも過ぎている。通勤、レジャーその他もろもろ、すべてこの1台で済ませている。軽のワンボックスなので、走りは高が知れてる。それでも、ターボを効かせたら車体が軽いので、シグナル・グランプリならばそうそう負けない。(誰も軽ワンボックスと張り合おうなどと考える奴はいないだろうが。)


 AT車なので、左足ブレーキを使いながら、アンダーを消してコーナーを回り、加速しながら国道バイパスに合流する。駿河湾に浮かぶ漁船を左手に眺めながら、殺気立った出勤車たちの速い流れに合わせる。FMラジオからは、斉藤和義の「やさしくなりたい」が流れている。


「あー腹減ったぁ~」


 さっきしっかり食べたばかりなのに自然といつもの独り言が出る。(続)

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