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図書館への第一歩①

図書館をつくるにあたって、大きく二つの問題がある。


まず一つ目。

この世界には、そもそも“娯楽としての本”というものが存在していないということ。

絵本も小説もない。

あるのは学術的な本ばかり。


もちろん、“物語”という概念はある。

子どもは親から口述で昔話を聞かされるし、歌劇では様々な演目が演じられている。

でも、それらは老若男女が楽しめる身近な娯楽としての役割を果たしてはいない。


私が目指す図書館をつくるためには、まずは学術書()()()()本を手に入れなくてはならない。

異国にならあるかもしれないので、それを取り寄せるか、あるいは新たに作り出すか。


そして二つ目。

現状では、この世界で“本を読める人間”が限られているということ。


この世界では、貴族であれば子どものうちから家庭教師をつけられ、文字の読み書きはもちろんのこと、各学問の基礎的な範囲についても学園入学前に教わるのが通常だ。

しかし平民にはそういった機会が与えられない。


家庭教師に限った話ではなく、そもそも平民に学問的知識は必要ないと考えられているのだ。

我々貴族は一定の年齢になったら全員が王立学園に通うことになっているが、平民の子はそこへの入学すら認められていない。

学園に通わずとも自主的に学ぶことで、読み書きができるようになる平民もいるけれど、貴族を除いての識字率はおそらく三十~四十パーセント程度だろう。


私は貴族に向けた施設が作りたいのではない。

むしろ、娯楽にかけられるお金が限られている平民にこそ、図書館は利用されるべきだと思う。


大きな問題はこの二つ。

場所は、資金は、管理者は。

細かいことを考え始めるともっとたくさんあるけれど、この二点以外は自分ができる範囲から始めてみようと思っている。


上手くいくかはわからない。

上手くいかない可能性の方が高いような気もする。

でもまずはやってみないと、改善点だってわからない。


「とりあえず、本を作ろう!」

できることからやってみよう。

幸い、字はきれいだと褒められることが多い。

前世では、小学校の体験授業で針と糸を使った製本方法を教わったこともある。

まずは手書きの本から作ってみよう。


前の世界で誰もが知っていたような物語、『シンデレラ』や『桃太郎』を書き起こそうかとも思った。

でも、それはもう少し経ってからだ。


それよりも、まずはこの国の国民が慣れ親しんだ物語を題材にするのが良いだろう。

幼い頃に誰もが親から聞かされたであろう、この国の成立にまつわる物語。

そうすれば、その本を文字の読み書きの教科書としても使えるのではないだろうか。


教科書を作って、ベネット領内の空いている土地で授業をするとか?

私は子どもだけれども、子爵令嬢という身分がある。

貴族の中では“下位”と言われる身分ではあるが、市民の中に入れば見下されることはない。


そこまで考えて、改めて今までの両親の行いに感謝する。

「この計画でいけそう」と私が思えるのは、両親と領民の関係が上手くいっているからだ。

もしも両親が領民から嫌われるような領主であったなら、娘である私は彼らに受け入れられはしないだろう。


貴族の中には、平民を見下して私腹を肥やすことばかり考えている人間もいると聞く。

しかし私の両親は「領民がいるから領主は存在できる」という考えの持ち主だ。

ベネット領は小さく、決して豊かとは言えない領地だけれど、みんなで支え合って生活している。

そんな関係だからこそ、私が新しいことを始めたら、みんな手助けしてくれるだろう。


私に、理想を形にする力があるかはわからない。

けれども、せめて領民達にとって役立つ取り組みにはしたい。

だって私は領民が納めた税金で生活しているのだから。

領民の血税で生きている以上、私にはそれをなんらかの形で還元する義務がある。


そう考えると、領民の識字率を上げる取り組みはなかなか良いアイディアなんじゃないだろうか。

文字の読み書きができると、就ける仕事の選択肢も増える。

将来の選択肢が増えるということは、領民にとってもプラスになるはず。

であれば、まずは“本を貸し出す施設“をつくるのではなく、“文字の読み書きを教える施設”をつくるのが良さそうだ。

無料の、私設の簡易な学校として。


最初のうちは私が教師役をすれば良い。

そして読み書きを教える傍ら、前世の知識で本を書き起こそう。

そのうえで、字が書けるようになった領民に物語を書いてもらうのはどうだろう。


我ながら良いアイディアじゃない?

インプットばかりの授業ではやる気も出ないだろう。

最終目標は“物語を書き上げる”ことにして、アウトプットの機会もたくさん作ろう。

そうすれば、領民の識字率を向上させながら“娯楽としての本”も作ることができる。

そうして出来上がった本が一定以上になれば、本を貸し出す施設としての役割も担えばいいじゃない。


どうしよう、楽しくなってきた!


そうと決まれば父に相談しないと。

開始段階で必要な紙や筆記具は私のお小遣いで調達するとして、土地の使用を認めてもらわないといけない。

最初は青空教室のように外で授業を行うつもりだけれど、机や椅子は必要だろう。

それらについても良い案がないか聞いてみよう。


「よし、やるぞ!」

ひとり呟いたその言葉は、予想以上に弾んでいた。

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