描くこと 【月夜譚No.233】
初めて貰ったファンレターは、親友からだった。
小学生の頃から、絵を描くのが好きだった。当時読み始めた漫画雑誌に憧れて、自作の漫画を描いたりもしていた。それを読んでくれた親友が、ある日感想を手紙にして渡してくれたのだ。
今思えば、相当稚拙な出来だった。遠近感はおかしいし、人物も背景も歪。ストーリー自体、矛盾点はいくらでもあって、とても読めたものではなかった。
けれど、当時の私からしてみれば、それはかつてない程の力作で、世界一面白いとさえ自負していた。
今の自分からは、とてもではないが出てこない自信である。
そのファンレターは、今でも私にとって大切な宝物だ。お守り、と言っても差し支えないと思う。それを読み返すだけで、いつも少しだけ勇気が貰えるのだ。
幼く真っ直ぐな文章が書かれた可愛らしい便箋を畳み、丁寧に封筒にしまう。封筒からペンに持ち替えた私は、真っ新な紙と向き合った。
物語を一から作る勇気、絵を描き続ける根気――それ等を携えて、私は今ここにいる。