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71.休暇は取れる時に取る方針で!

「それで、勝手に決めちゃったのね」


 古今東西、腰に手を当てて怒る嫁に夫が勝てた試しはない。それは魔王夫妻でも同じだった。元々リリスに関しては全面降伏のルシファーである。今回もしょんぼり肩を落として謝った。


「ごめん。相談すればよかったな」


「もういいわ。その子達の実力ってどうなのよ」


「わからん」


 愛娘の護衛を勝手に決めてきた上、実力不明と言われて微笑む妻はいない。雷が落ちると心配する侍女達をよそに、リリスは「まあ、そうよね」と相槌を打った。


「現時点で弱くても、アシュタやベルちゃんが鍛えてくれるんでしょ?」


「しばらくは基礎訓練で、本格的にやるようなら魔王軍へ預けることになるな。最初はイポスが見てくれるらしい」


 育児休暇中のイポスだが、子どもの基礎訓練なら構わないと引き受けてくれた。どうも休暇中に体力が落ちたと嘆いていたから、自分を鍛えるついでのようだ。必要以上に厳しい訓練でなければよいが。逆にそちらの心配をしてしまう。何しろサタナキア将軍の娘だからな……。


 遠い目になったルシファーの隣で、リリスは我が子をあやす。と、眠っていたイヴが「うあぅ」と声を上げた。もぞもぞする姿に、ルシファーが振り返る。当然のようにリリスはルシファーへ預けた。


「おしっこかな?」


 おむつを撫でたが、少しするとイヴはまた眠り始めた。うとうとする娘の黒髪を撫でながら、ルシファーは新しい魔法陣を開発してよかったと安堵の表情を浮かべる。汚物を転送するシステムのお陰で、おしっこもうんちも片付け要らずだ。その上、赤子は再び気持ちよく眠れる。


「いいおむつよね」


「正確には魔法陣だが」


 発売と同時に売り切れ、すぐに魔法陣制作のプロが集まって複製したヒット商品だった。アンナは「あの頃にこれがあれば」と呻いたそうだが、ルシファーも必要に迫られて開発したので仕方ない。


「温泉行けそう?」


「時間を作って絶対に行く」


 以前に予約した宿をキャンセルしたので、その話を持ち出して温泉街の外れに所有する屋敷へ行く予定だ。今度はアスタロトに邪魔されても、ベールに呼ばれても無視する。固い決意を口にしながら、いそいそとイヴの服を選び始めた。


「やっぱり浴衣は外せないだろ」


「私はこれも着せたいわ」


 ルシファーがピンクに花火模様の浴衣を用意する横で、リリスは可愛い水着を引っ張り出す。お風呂に入れる時に着せるつもりらしい。湯船にタオルを入れるのはマナー違反だが、自分の屋敷の露天風呂なら構わないと頷きあう。


 リリスの時と違い、イヴの成長はゆっくりだった。もう数ヵ月経つのに、首が据わるかどうか。これはベルゼビュートの息子ジルの時と同じだ。母ベルゼビュート譲りの魔力量を誇るジルは、妊娠期間3年、産まれてから7年経つ。しかし見た目は1歳前後と幼かった。


 イヴも同じように時間をかけて成長する可能性が高い。妊娠期間は長くなかったが、それは種族的な特徴の違いだろう。精霊は魔族の中で一番妊娠期間が長い。というのも、外敵がいないせいだろう。産んで母体と分離するより、胎内である程度育てた方が生存率が高い。


「よし、これから行こう。ちょうど事件も解決したし、書類も処理した」


 未処理はないぞと強調し、ルシファーは申請書を作り始めた。休暇が欲しいと書いて、署名捺印した上で執務室へ置きに行く。その後姿を見送り、リリスはアデーレを呼んだ。開発されたばかりの粉ミルクと牛の乳、それから哺乳瓶や赤子用品を揃え始める。


 集めた物を収納へ放り込み、足りない物はルシファーに取りに帰ってもらえばいいと満足げに頷いた。


「私達が出掛けたら、すぐにアシュタへ知らせてね」


「かしこまりました。イヴ姫様のお世話は陛下にお任せして、ゆっくりなさって来てください」


「もちろんよ」


 にっこり笑い合い、休暇の申請書を置いて戻ったルシファーと腕を組んで魔王夫妻は消えた。見送ったアデーレは、そのまま私室の前で待機する。魔王城からルシファーの気配が消えたと気づいたアスタロトが駆け付け、アデーレは予定通りに笑顔で「温泉へ行った」旨を伝える。


「……数日だけです。その後はやることが」


 ぶつぶつ言いながらも妥協する夫に、アデーレは彼の肩を叩く。


「あなたも陛下方と入れ替わりで休暇を取っていただきます」


 反論しようとしてアデーレの怖い微笑みに、何も言わずアスタロトは素直に頷いた。

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[一言] 全員嫁の尻に敷かれてる
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