表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
527/530

525.知らないからこそ子どもは強い

 イヴと仲良く並んで食事を終えたゴルティーは、機嫌よく尻尾を振る。その鱗は琥珀の名に相応しい美しい色をしていた。じっと見つめるイヴが優しく撫でる。


「鱗抜けたら欲しいわ」


 びくっと全員が動きを止めた。ぎこちなく振り返る大人の表情に気づかないイヴに、ゴルティーは真っ赤な顔で「えっと、その、本気?」と聞き返す。問われたイヴは「うん」と素直に頷いた。意味は理解していない。これが竜族への求婚であるなど……。


「ダメだ、ダメだ、そんなの許さん!!」


 ルシファーが間に割って入って止めるが、ゴルティーはもじもじと短い手を揉むように動かした後、上目遣いに純白の魔王を見上げた。


「そんなに怒らないでください、()()()()()


「お、とっ!?」


 呼吸困難に陥りそうなルシファーを、アスタロトが回収する。リリスが「あらあら」とルシファーを仰いだ。真っ赤な顔で卒倒寸前の魔王は、かつてない深刻なダメージを受けていた。


「イヴ姫様、ひとまず鱗の話はあとでしましょう」


 ベールが落ち着いた口調で間に入り、イヴを下がらせた。本人は何が問題なのか理解できておらず、具合の悪そうな父を不安そうに見つめる。


 ベルゼビュートはまだ膨らまぬお腹を撫でながら、声を立てて大笑いした。苦しそうにしながらイヴを手招きし、彼女に言い聞かせる。


「いい? 陛下はイヴちゃんが大切なの。だから心配させないのよ」


「うーん。わかった」


 理解しているのか怪しい返答だが、ぱたぱたと足音をさせて走ったイヴがルシファーに抱き着く。受け止めた魔王の顔が柔らかく崩れた。抱き上げようとするが、嫌だと言われ手を繋ぐ。


 エリゴスに汚れた口元を拭いてもらったジルは、まだ学校に入るかどうかの年齢だった。極端に成長が遅い。妊娠期間が三年というのんびりさなので、成長が全体に遅いようだ。ベルゼビュートより濃いピンクの瞳を瞬き、母に抱き着いた。


「そういえば、ルーシアのところの子は来なかったのね」


「学校のお友達と遊ぶのが楽しい年頃みたいです」


 苦笑いするルーシアによれば、最近はここに集まったメンバーの子と遊ぶ時間が減ったらしい。同族の精霊と遊ぶことに夢中なのだ。競うように魔法を使って、水や風を操る能力は高くなった。その分、幼馴染みに分類されるイヴ達と遊ぶ時間が減ったのだ。


「そのうち、また遊ぶんでしょうね」


 顔を合わせる時間が増えれば、自然と集まる機会が増えるだろう。別に違う道を歩く可能性もあるから、無理に一緒にいさせる必要はなかった。納得した様子のベルゼビュートは、後見する大公女の娘達を姪っ子のように感じている。可愛いし我が侭も許せてしまう。


「そういえば、イポスが二人目を身籠った話を聞いたか?」


 やや冷えた唐揚げをもぐもぐと咀嚼するルシファーが、思い出したように尋ねた。全員が顔を見合わせたり首を傾げ、視線がルシファーへ集中する。


「その話、本当ですか?」


「誰も知らないのはおかしいですね」


「別の人と間違えたのでは?」


 疑いの眼差しを一身に受け、ルシファーは麦酒で口の中の唐揚げを流し込んだ。やや咽ながら、首を横に振る。


「間違いない、昨日聞いた」


 もう皆も知っていると思ったんだ。口止めもされなかったし。まさか、勝手に話したらいけない類だったのか? ルシファーが青ざめたところで、黙っていたアデーレが口を開いた。


「そのお話なら、私も聞いております」


 途端に周囲の空気が変わった。


「侍女長が聞いたなら間違いないわ」


「ほんと、お目出度いお話ね」


 ルシファーは首を傾げながら「どうしてオレだと疑われるんだ?」と不満を述べた。だがある意味、自業自得。様々な騒動を起こした前科を思い浮かべながら、アスタロトがぴしゃりと言い切った。


「信用がないんでしょうね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ