524.子どもはすぐに成長し……
ベルゼビュートは飲み物の配布を、夫に任せて動かない。というのも、僅か数日前に妊娠が発覚したばかりだった。夫のエリゴスが心配するので、大人しく椅子の住人になる。
「ベルゼ、体調はどうだ?」
「それが絶好調すぎて。走り回って戦いたいくらい元気ですわ」
元気な子が産まれそうだ。そう感じたのは、質問したルシファーを含めた全員だった。
「ベルゼ姉さんはどちらがいいの?」
男女の別を問うリリスへ、うーんと考えた後「元気な子ならどっちでもいいけど、エリゴス似の毛深い子がいいわ」と返した。毛深い子という表現に、食事中の数人が吹き出す。
せめて魔獣の子と言って欲しかった。額を押さえるアスタロトが、喉に唐揚げの詰まったアデーレの背中を叩く。驚き過ぎて、吸い込んでしまったらしい。散々咳き込んだ喉が痛む。出された麦茶で落ち着くまで、しばらくかかった。
その間に、同じように咽せたり詰まらせた数人が、復活していく。ルーサルカもアベルの背中を摩ってやり、ジンへお水を差し出すルーシアと顔を見合わせて笑った。
「子育ても一段落してきたわね」
しんみりとシトリーが呟く。それぞれの子らは学校へ通ったり、冒険に出たりと忙しかった。世話をしていれば忙しいが、手を離れれば寂しい。親の我が侭と言われそうだが、その気持ちはこの場のほぼ全員が感じていた。
「ベールとルキフェルは結婚しないの?」
ベルゼビュートは悪気なく爆弾発言をした。無言で固まったベールの隣で、ルキフェルがげらげら笑い出す。
「ちょっと、今の言い方! 僕とベールが結婚するみたいに聞こえるじゃん」
「それでもいいけど、そうじゃなくて」
ベルゼビュートは、喉元過ぎれば熱さ忘れるタイプだ。八万年も相手が見つからず、独身だった過去をけろりと流した。
「僕はまだ二万歳に届かないんだから。あと六万年は平気」
ルキフェルに切り返され、それもそうねとベルゼビュートは納得した。固まっていたベールも、ぎこちなく麦酒を流し込む。
ルーサルカとアベルは育児も落ち着いて、最近は旅行を始めたらしい。というのも、一緒に休暇を申請することが増えたのだ。ルーサルカは仕事や視察の同行で移動が多かったが、私的な旅行は経験が少ない。夫アベルと一緒に回ることで、のんびり時間を過ごしていた。
子ども達は二人とも大きくなり、本日欠席の長男エルは隣大陸で幻獣と仕事をしている。学校で魔法陣の研究に進みたいと勉強中の次男リンは、先ほどからルキフェルをちらちらと見ていた。憧れの先輩らしい。
気づいたルキフェルが声をかけるまで、あと数分。唐揚げをサラダごと食べ尽くした後だった。
グシオンとシトリーの長男ネイトは、保育士を目指している。教育関係の仕事で頑張る母の手伝いをしたいのか。増える保育園の職員募集に、応募すると聞いた。
妹キャロルは父の実家で、温泉街のマスコットをしている。髪や瞳の色が幼い頃より鮮やかになったのは、数年前だった。赤とオレンジがはっきり出たので、龍体になっても映える。本人も乗り気で、楽しんでいるようだ。
最後に生まれた三つ子は、やっと保育園が終わる。来年から学校に行くため、姉のキャロルから文字を学んでいた。個性溢れる三つ子は、全員、鳥人族でシトリーの兄が大喜びした。舐めるように溺愛するが、炎龍の兄妹もきちんと愛情を注いでいるとか。今日はネイトだけ、不参加である。
酒やお茶を飲みながら、唐揚げを楽しむ。パンや粥を用意してきて、付け足す者もいた。
「唐揚げの追加です」
揚げたてが追加され、皆はいそいそと手を出した。




