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514.わたくし、本気でいきますわよ

 お覚悟では、打ち果たしに来たように見える。そう注意したいが、魔王チャレンジに割って入るのはご法度だった。溜め息を吐いたアスタロトは、脳裏に「戦いが終わったベルゼビュートを〆る」とメモを取って、観戦を楽しむ方向へ気持ちを切り替える。


 少し離れたベールも眉を寄せており、同じような感想を持ったことが知れた。ルキフェルは魔法陣を多用したため疲れたのか、眠そうな顔でベールに寄り掛かっている。相変わらず親子そのものな二人だが、外見を見ればほぼ変わらぬ年齢だった。


 長寿魔族故の現象で、どの魔族も年齢不詳の相手に対峙することに慣れてしまった。魔力が大きければ、弱肉強食の掟で敬う相手に分類される。そのためルキフェルを甘く見てケンカを売る馬鹿はいなかった。外見が幼い頃からそうである。


 魔力をほとんど持たず、見抜く能力も持たなかった人族くらいだろうか。愚かにも魔王に挑み、大公であるルキフェルを馬鹿にし、魔獣達の餌になったのは……懐かしいですね。八万年を越える年月を生きて、それでも数十年前に滅ぼした人族の記憶はかすみ始めていた。


 そもそもこの世界の住人でもないのに、長らく家賃滞納で住む迷惑な不法滞在者のような存在だ。適切な処置で追い出すことが出来た過去を思い浮かべた。こうして思い出さなければ浮かんでこない記憶は、魔の森が適正に処理をした証拠だろう。


「っ! 陛下、それは卑怯です」


「いやいや、普通だろ」


 考え事をしている間に、魔王と女大公の戦いは白熱していた。デスサイズを利用して、両方の剣の攻撃を止めるルシファー。左手の剣を下から切り上げたのに、上から叩きつけた右の短剣と一緒に受け止められ、ベルゼビュートは叫んだ。


 卑怯と口にしたが、実際はルシファーの武器の扱いが長けていただけ。長い柄を利用して、くるりと回した動きで左右の攻撃を封じた。捻りが入った防御で、剣を手放すしかないベルゼビュートは悔しそうに右手の短剣を消す。


 左手の長い剣を両手で構え、唸るように「うぅ」と睨みつけた。


「わたくし、本気でいきますわよ」


「それはいいが、周囲に気を配るのを忘れるな」


 他の挑戦者と違い、全力で挑んでも周囲がフォローしてくれるわけではない。ベルゼビュートは大公であり、模擬戦なら気遣いが必要だった。分かっていても指摘されると腹が立つ。ちょうど、彼女はそんな状態だったらしい。


 むっとした顔で剣に魔力を流し込む。やや曇った鈍銀の刃が、じわじわと変化した。色が濃くなり灰色を通り越す。ここでもう一度色が変わり始めた。曇り空が晴れて光が差し込むように、虹色に輝き出したのだ。


「おや、十八番を取られましたね」


 苦笑いするアスタロトの呟きの通り、魔力の剣だった。精霊女王であるベルゼビュートの魔力は様々な特性と属性を操る。火、水、風、光、大地……それらを組み合わせた剣は、角度により色を変えた。アスタロトが簡単そうに扱う虹色の刃が気に入り、彼女なりにアレンジした結果だ。


「ほぅ、鮮やかだな」


 色の変化が鮮明で、色変わりの剣と呼ぶに相応しいベルゼビュートの武器を、ルシファーは素直に褒めた。嬉しそうに頬を緩めたベルゼビュートがふわりと舞い上がる。蝶に似た羽が背中に広がった。透き通った羽も魔力を帯びて、きらきらと光を弾く。


「これで決着ですわ」


 受けて立つルシファーが、デスサイズの表面に魔力を纏わせた。相殺するつもりで正面から受ける。息を呑んで見守る魔族は、瞬きの一瞬すら惜しんだ。息もつかせぬ斬撃が繰り出され、戦いに有利な上からの攻撃に終始する精霊女王は華麗な技を繰り出した。


 ガキッ!! 派手な音で火花が散る。デスサイズの柄に傷が残るほどの斬撃だが、そこでベルゼビュートは肩の力を抜いた。上半身分浮いた美女の体が、ふわりと着地する。


「私の負けですわ。剣が欠けました」


 嘆く彼女が両手で構えていた剣に、小さな欠けがあるらしい。技量不足だと嘆く彼女に、ルシファーは苦笑いするしかなかった。

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