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51.沈んでしまったが結果オーライ

 久しぶりに見る城は、随分と景観が良くなっていた。城の窓から見えるはずの岩壁は消え去り、足下の空洞は埋まっている。お陰で遠くまで見晴らしがよく、庭園が作れそうな状況だった。一言で言えば、屋根が吹き飛んだ、が近いだろうか。


 空中に浮かぶ城の周囲は、くり抜かれた山の岩壁だった。それが綺麗さっぱり崩れた姿に、驚く。誰も報告しないあたり、天候不順による影響が大きかったらしい。城の点検が後回しにされたのも、仕方ないことだった。


 普段人が住んでいない城より、自分達の生活が優先である。卵の殻のように城を覆った山が崩れたことで、大地は平らになった。その上に城がちょこんと乗っかり、元から大地の上に建築されたようで違和感はない。


「これは……いっそ都合が良かったかもしれませんね」


 過去に幻獣や神獣を狩る人族や一部の魔族から、彼らを隠すために建築された城だった。人族を駆逐し、魔族の統治が行き届いた現在、幻影城は隠れ家としての役目を終えたのだ。何かを確認していたルキフェルが、笑いながら指摘した。


「ねえ、ほんの少しだけ浮いてる。ほら」


 指さされて城の入り口の段差に気づく。指が二本ほど入る高さだけ、地面から浮いていた。これは無駄だ。


「魔法陣消しちゃうね。誰もいないうちに降ろそうよ」


 ルキフェルは以前に仕掛けた魔法陣をゆっくり削除していく。城が傾いて落下しないよう注意した結果、思わぬ事態が起きた。


「……沈んじゃった」


 城の自重で、まだ柔らかい土は圧迫された。その結果、城の一部が土に埋まる事態となったが……ルキフェルは満足そうだ。


「傾いてないから、下の部屋は地下室にしようよ」


 元が楕円形の卵のような形をした城だったので、下の部屋は地面に埋もれてしまう。滅多に使用しない城なので、ベールに異論はなかった。


「わかりました。座標も変わってませんし、告知や報告だけで問題ないと思います」


 あっさりと話し合いを終えた二人は、転移で虹蛇の洞窟に戻る。と……豚肉を狩る相談を始めた魔王夫妻の後ろに現れた。耳に挟んだ狩りの予定は、意外なことに承認される。


「構いませんよ、魔王妃殿下は狩りをなさってください。護衛にルキフェルを付けましょう。陛下は……仕事を片付けてください」


「分かりたくないけど、分かった」


 リリスやイヴがいると、オレが仕事をしないと思っているな? 否定出来ないけど。楽しそうに出かけていくリリスが「お土産を獲ってくるわ」と手を振る。にこやかに応じながら、我が子イヴを抱き締めた。狩りに同行させるのは諦めてもらったので、眠る赤子をあやしながらベールの報告を聞く。


 途中でぐずるイヴに気づき、結界を張った内側を不透明にして、おむつ替えを行った。この辺はリリスで経験しているので、手際がいい。適温に温めた哺乳瓶も持参している。それを口に入れて飲ませながら、ルシファーは対策を考えた。


「魔の森の消失が天候不順を招いたなら、壊れた山肌分の森を復活させればいいんだよな?」


「理屈では、そうなります」


「だったら簡単だ。転移して、森を育てて帰ってこよう」


 短い解決方法の中に、リリスが帰ってくる前に終わらせるという本音が滲む。だが頷くベールも似たり寄ったりだった。ルキフェルが戻る前に、終わらせておきたいのだ。彼らは思わぬ形で利害が一致していた。


「よし! 行くぞ」


「虹蛇の洞窟を集合地点としましょう」


 ルキフェルへ連絡し、魔王と大公は幻影城の前へ移動した。その上で魔力を放出して魔の森を回復していく。地面から芽が出て、苗木が育ち、幹が伸びて太くなる。数十年かかる森の営みを、わずか数十分で再現した。見上げる高さになった森の木々がざわざわと揺れ、城を囲んだ。


「完璧だ」


 魔力も多めに流したから、すぐに魔物や魔獣も戻ってくるだろう。機嫌よく帰ろうとしたルシファーは、左手に抱えたイヴを軽く揺らした。それから眉を寄せて考え、首を傾げる。


「イヴ、お前、何かしたか?」

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