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04.お姫様の名前が決まりました

 吾子を抱き、リリスは嬉しそうに頬を緩める。祝福の声が寄せられ、贈り物も大量に届いた。一晩経って、ようやく実感が湧いたらしい。リリスは我が子に頬を寄せた。


「可愛いわ、ねえ……ルシファー、私に似てるかしら」


「そっくりだ。可愛いところまで似ているな」


 まだ皺くちゃの顔だが、やはり可愛いと感じる。リリスを拾った時はすでに一月近い月齢だった。肌の感じや手指の力強さも、あの頃のリリスとは全く違う。こんなに小さいのに、すべての指や臓器が正常に動いているなんて不思議だった。


「ふふっ、目の色はルシファーにそっくり」


 大きな銀の瞳がぱちりと瞬く。小さな指をぎこちなく動かし、必死で母リリスの胸元を掴もうとしていた。リリスが普段より大きくなった胸を露わにし、我が子に乳を与える。ちゅうちゅうと吸い付く姿に、目頭が熱くなった。


「どうしたの?」


「なんでもない」


 目元を押さえて視線を逸らしたルシファーに、リリスは首を傾げる。しかしすぐに視線は我が子に注がれた。まだ髪も疎な赤子は、しばらくすると満足そうに脱力する。アデーレがさっと受け取り、手早くゲップをさせた。


「懐かしいな。昔はゲップのことを知らなくて、びっくりしたぞ」


 アスタロトに粗相をした話を口に出そうとして、ルシファーは手前で止めた。リリスはもちろん、側近のアスタロトの怒りも怖い。吸血鬼王である彼に魔力を抜かれでもしたら、魔王といえど十年ほど影響を受けるのだ。可愛い我が子の子育てを行いたい彼にとって、多大な被害を受ける可能性が高かった。


 いつも叱られ説教される魔王も、多少は学んでいるのだ。余計なことは口にしないのが最善だった。


「産湯を勘違いして沈めたのも、懐かしいですわ」


 ベルゼビュートがくすくすと笑う。彼女も我が子が生まれて必死に育児書を読み、あの頃の間違いを理解した一人だった。お陰で、一人息子のジルは無事育っている。


「これから数年は、イヴの育児で忙しくなるな」


 さらりと発表された名前に、リリスが手を叩いて喜ぶ。


「イヴ、いい名前ね」


「正式にはイヴリースにしようと思ったが、イヴで切った方が可愛いだろう?」


 普通はそれを愛称と呼ぶのだが……ルシファーは正式名もカットするつもりらしい。ここに大公達がいれば何か物申したかも知れない。だが、現時点で大公はベルゼビュートだけだった。彼女は我が子ジルに夢中で聞いていない。


「イヴ、いい名前をもらったわね」


 着替えとおむつの交換を終えて戻された娘を抱くリリスは、ご機嫌だった。この時点で名前は確定である。魔王ルシファーと魔王妃リリスが納得してしまえば、誰が反対しても聞かない。


「陛下、謁見のお時間です」


 書類仕事は日本人の改革でかなり減ったが、謁見の数は逆に増えた。空いた時間を埋めるように、増える一方だ。その原因の一端を担うのが、各地に設置した転移魔法陣の存在だった。


 魔法陣で日帰りが可能になったため、魔王陛下への謁見依頼が増える。ある意味、なぜ事前に予測できなかったのか。大公達は頭を抱える程だった。


「今行く! じゃあ、リリスとイヴはゆっくりしてて」


「いってらっしゃい、ルシファー」


 見送るリリスに手を振り、ルシファーは足速に廊下を進む。早く仕事を終えて、可愛い妻と娘の元に帰らなくてはならない。謁見に来た貴族達もきっと理解してくれるはずだ。


 謁見の間に置かれた玉座に座り、ざっと頭を下げる貴族達を見回した。


「魔王妃リリスが我が娘を産んだ。故に本日の謁見はこれで終了とする」


 途中経過をすっ飛ばして結論のみを突きつけ、ルシファーはさっさと踵を返した。きょとんとした顔で見送る貴族達は、突然もたらされた重大情報に沸き立つ。これらの情報を一族に持ち帰らねばと、慌てて飛び出して行った。


「……抗議がないのも凄いですね」


 呆れたと溢すアスタロトだが、ルシファーの気持ちも分かる。整った顔に諦めの色を浮かべ、淡い金髪をかき上げた。

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