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397.腰が痛い原因はアレでした

 リリスの不思議な様子に、ルキフェルが魔法陣を取り出した。治癒を促進する魔法陣だが、見るなりリリスが拒否する。


「妊婦に治癒魔法はダメなのよ」


「え? そうなの?」


 研究者であるルキフェルも知らない知識だ。出産後の止血で使ったり、手足の切り傷くらいなら問題ないが、腹部に近い部位に使ってはいけないとリリスは説明し……最後に痛みに呻いた。すでに同じことをして叱られたルシファーは、曖昧に頷く。


「そういうことらしい」


「何でだろう」


 ルキフェルの研究熱心な部分が刺激され、目を輝かせた。知りたい、その好奇心が溢れ出ている。リリスは痛くて説明する気力がなく、妻の腰を撫で摩りながらルシファーが口を開いた。


「おそらく……だぞ。腹の子は母体にとって異物だ。治癒はケガをしていなかった状態に戻す魔法だから、子がいなかった状態に戻されるんじゃないか?」


「推論としては合理性があります」


 感心した様子でベールが呟く。治癒が得意なベルゼビュートも「うーん、あるかも」と納得した。


「以前、顔に痣のできた子の傷を治したら、痣も消えたことがあるの。あれがお腹の中の子に起きたら、と思えば怖いわ」


 ぞっとする。と同時に、過去に知らず使った事例がありそうだと肩を落とした。おそらく、理由が不明の流産扱いで報告されただろう。もしかしたら魔法が得意で魔力豊富な種族の流産率が高いのは、この辺に理由があるかも知れない。


「各種族に周知しましょう」


「そうしてくれ。間違いなら後から訂正するとしよう」


 リリスは「そうして」と呟いた後、大きく深呼吸した。ゆっくり吸って吐くと楽になるのだとか。魔法を使わず、毛布で包んだ妻の背中を摩り続ける。ぺたりと張り付いたリリスを、ルシファーは優しく引き寄せた。


「リリスの痛みの原因はなんだ? まさかお腹の子に何かあったのか」


 不安が膨らむルシファーへ、リリスが首を横に振る。その様子から、胎児に問題はないと知れた。だが脂汗を滲ませて呻く姿は、辛そうだ。妻一筋の魔王としては、心配が大きくなる一方だった。


「……出なかったの」


 ぼそっとリリスが理由を話す。だが出なかった物が理解できず、首を傾げた。興味津々のルキフェルや眉を寄せたベールに聞かれたくない。そんなリリスの様子で気付いたベルゼビュートが叫んだ。


「分かった! 便秘でしょ」


「っ、姉さんのバカ!!」


 全力で叫び返され、挙句に魔力の弾が問答無用でベルゼビュートを撃った。窓の外まで飛ばされ、数本の大木を薙ぎ倒して飛んでいく。感情のままに吐き出されたリリスの怒りが直撃した女大公は、そのデリカシーのなさで叩きのめされた。


「……ああ、その……早く出るといいな」


 単語を口にしたら同じ目に遭う。こういった場面での危機感は働くルシファーは、穏やかな口調でリリスの怒りを宥めにかかった。大公の男二人は顔を逸らし、早くアスタロトが戻ればいいのにと現実逃避を始める。


「ママ、お腹こうするのよ」


 ぽっこり膨らんだ幼児の腹を、ぐるぐると回すように撫でるイヴは、得意げに言い放った。


「いっぱい、おなら出るの!」


「そっちは要らない」


 おならが出て欲しいのではない。溜まったアレを外へ出したいのだ。ヤンは「薬草があったような」と唸る。妊婦はよく出にくくなるというが、やや腹が膨らんだ頃から出る症状だ。雌狼がよく陥るので、記憶にあった。四つ足の狼と違い、リリスは腰に痛みが響いたのだろう。


「我が君、薬草を探しに行きます」


「あ、ああ。頼む」


 頼まれたヤンは勢いよく走り出した。背中に小さなお姫様を乗せていることを忘れたまま……。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーまた一騒動・・・・。 ヤン殿ぉ姫を降ろし忘れておりますぞぉおおー!。
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