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393.海の爵位は日本人の知識頼り

 ヤンの息子セーレを始めとし、魔熊、魔鹿、魔犬と続いた。羽角兎で一段落する。ここで休憩を挟んだ。謁見の間は魔王バージョンで大人しく座っていたルシファーが、ヤンの毛皮にダイブする。飛び込んだ毛皮は優しく、温かく疲れを癒した。


「やっぱり、ヤンはいい」


「有り難き幸せ」


 嬉しそうなヤンは、大切そうにルシファーを包む。まだ子狼だった頃から、ヤンはルシファーに憧れてきた。間違っても挑んで勝とうと思ったことはないが、主君として崇めている。


「ルシファーは疲れちゃったのね」


 くすくす笑うリリスはイヴと一緒に寛いでいたので、機嫌が良かった。イヴは夢の中で、すぴすぴと鼻から寝息が聞こえる。


「今日は次で終わりです」


「ん……誰だ?」


「日本人ですね」


 様々な種族との面会は、それなりに気を使う。ある意味、書類処理より大変だとアスタロトは感じていた。主君であるルシファーは逆で、民と触れ合う方が楽しいと言う。だが謁見の時期は、次から次へとひっきりなしに面会が続く。さすがに疲れはあった。


「日本人なら、いっか」


「よくありません」


 普段の自分で対応するつもりだったが、年に一度ですよと叱られてしまった。確かに相手によって対応を変えるのは良くない。素直に頷いたルシファーは、ヤンから身を起こした。


「助かった」


 鼻先を撫でてやり、魔法で毛を吹き飛ばす。黒衣に乱れがないのを確認し、玉座に腰掛けた。


「いつでもいいぞ」


 待っていたように現れたのは、いつもの三人だった。アベル、イザヤ、アンナである。日本人認定された子ども達は置いてきたらしい。アベルとルーサルカの間に生まれた長男エルは日本人判定、次男リンは半獣人判定だった。イザヤとアンナの双子は、当然のごとく日本人判定である。


 貴族として子爵の地位を与えているが、三人が共同で陞爵していた。


「知恵を貸して欲しいのだが……」


 ルシファーは、日本人の知識を高く評価している。それはアスタロト達も同じで、懸念であるあれこれを相談しては助言をもらってきた。書類処理が簡素化されたのも、中間管理職が機能するようになったのも、日本人の知識や知恵のお陰だ。


 海の爵位について、あれこれと相談した。だが現代日本は爵位は撤廃されている。知っているのは、海外の「公候伯子男」くらいである。すでに陸で使われた爵位なので、唸りながら知識を絞り始めた。


「あれは? ほら、日本の平安時代にあったってやつ」


「ぼんやりしていて、爵位の順番がわからない」


 アベルが思い付いたが、正式な読み方や詳細も不明だ。正五位以外、まったく出てこなかった。


「こんなことなら、陰陽師読んだ時にもっと真剣に覚えておけば良かったわ」


 アンナが唸るが、イザヤはあっさり首を横に振った。


「官位に関してはあまり載ってない」


 あの本は俺も読んだと苦笑いされた。あまりに悩んでいるので、ルシファーが口を挟む。


「別にそれっぽい呼び名があれば、正式な爵位でなくてもいいぞ。新しく制定すれば済む話だ」


 実在した爵位でなければならないわけじゃない。呼び方が決まっていて、順位がはっきりすればいいだけだ。助け舟を出されたアベルが「松竹梅とか」と呟く。


「ショウチクバイ?」


「松、竹、梅です」


 松だの梅と言われれば、植物かと納得する。だがショウチクバイの読み方は新鮮だった。目を輝かせるルシファーが尋ねる。ちょうど戻ってきたルキフェルが加わり、盛り上がった結果「ショウ、チク、バイ」をそのまま海の爵位として取り入れることに決まった。


 アンナやイザヤは複雑そうな顔だが、悪い案ではない。何より海の種族にとって、見たことも聞いたこともない草木であり、読み方が特殊という点が評価された。こうして、思わぬ形で悩みは解決する。アスタロト達も代案がないので賛成した。


 松竹梅――まるでお弁当のランクのように、海の種族は風変わりな爵位を賜ることになった。

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