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382.イヤイヤ期より素直が美味しい

 幻獣達が住む隣の大陸へも足を伸ばし、転移した場所からヤンに乗った。巨大なフェンリルは、大人二人と子ども一人を乗せても余裕がある。木の枝を避けながら、飛び回った。


 ペガサスが好む草原、ユニコーンと並走した岩場、途中で虹蛇の洞窟も覗いた。イヴは始終ご機嫌で、イヤイヤ期の「やだっ」は顔を覗かせない。ほっとしながら、大きな湖に立ち寄った。


「よし、昼食にしよう」


 食事の準備を始める。と言っても、湖で魚を捕まえて焼くだけの話だった。パンは収納から取り出し、サラダの香草はヤンが採取する。その間にリリスは火を熾した。ルシファーは湖の水をごっそり空中に転送し、魔力の網で濾す。大雑把な漁で大量の魚を得た。


「鍋はこれでいいか」


 大きめの鍋を選び、水魔法で満たす。温度を魔法陣で調整してから、リリスが熾した火の上に浮かせた。高さを調整してからかまどを作る。土魔法の応用だった。煮えた鍋へ、風魔法で捌いた魚を入れる。


 次々と繰り出される魔法に、イヴは「やっ」の一言を封印して見入った。普段は滅多に見られない。魔法を駆使した調理に釘付けだった。ここまで多彩に魔法を使うのは、上位の一握りだ。得意な属性や魔法がそれぞれにあるので、協力して同じ作業をこなすことは可能だろう。


 実際、大公女達はその部類に入る。四人が全員属性違いで、得意分野が異なるのだ。土のルーサルカ、風のシトリー、水のルーシア、炎のレライエ。偶然とはいえ、リリスのチョイスは最高だった。


 煮える鍋から良い香りが立ち上る。ヤンが摘んだ香草の一部を入れ、収納の調味料を混ぜた。とろみをつけたら完成である。ルシファーは、取り出したスプーンで味見をして、満足そうに頷いた。


「よしいいぞ」


「完成ね。イヴは食べる?」


「やっ」


 ここで我に返って「イヤイヤ」を発動する。するとルシファーが慣れた様子で肩を竦めた。


「イヴは無理だ。だって子どもだから熱くて無理だ。そうだろう?」


 ぶんぶんと左右に頭を振って否定する。つまり、食べるの方角へ誘導された。くすくす笑うリリスはそれ以上余計な発言を慎み、ルシファーへ任せた。膝の上に座らされ、イヴはスープを見つめる。


「イヴは冷めてからだぞ。先に頂こう」


 煮える鍋の中身を器に移し、ヤンの前に置いた。パンを浸す。鍋ごと食べそうなヤンだが、焼いた魚もあるので足りるだろう。空中で場所を変えながら、くるくると回る魚達はこんがりと焼き目がついていた。


「ん、美味しいわ」


 リリスは一口食べて、嬉しそうに頬を緩める。そんな母を見て、次に美味しそうに器のスープを吸ったパンを食べるヤンを見た。イヴは目の前の父に期待の眼差しを向ける。が、ルシファーは平然と自分の口へスプーンを運んだ。


「やぁああああ!」


 全力で抗議する。自分が先だと暴れながら訴えた。


「イヴ、食べるのか?」


 イヤイヤ期発動で「やっ」と答える場面だが、イヴは「ぶぅ」と唇を尖らせて唾を飛ばした。嫌ではないし食べたい。だが素直にそう告げるのが、すごく気に食わなかった。


 いつもなら気持ちを察して、さっと差し出されるはずのスプーンが、今日は遠い。再びルシファーはぱくりと食べた。いい匂いがして、お腹が空いたのに。


「あ、あぁん」


 口を開けて促してみる。ようやくスープが口に届いた。小さな白い魚の身が入っており、イヴは感動した。美味しい! もぐもぐと口を動かし、ちらりと視線でルシファーを促す。


「いるのか?」


「ん……あー」


 素直に口を開ける。スプーンが入って、幸せの味が口いっぱいに広がった。ここでイヴは学んでしまう。イヤイヤ期は少しの我慢で乗り越えることが可能で、素直な方が得なのだと。


 してやったりの顔で、素直になった娘に食事を与える。魔王はいつもより悪い顔をしていた。









*********************


こちら、新作です。完結しています。よろしければお楽しみくださいσ(*´∀`*)ニコッ☆


【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

初の一万文字以内の短編です(*ノωノ)


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