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380.魔族ではないただの動物らしい

 細長い生き物は、良く見れば腹は白かった。無造作に掴めば、じたばた暴れて「キュン」と鳴く。


「イタチやテンの仲間だろうか」


「かぇちて!」


 イヴが手を伸ばす。リリスに比べて成長がゆっくりなので、言葉はまだ未発達だ。上手に話せる日もあれば、噛んでしまうことも少なくなかった。それが可愛いと目を細めるルシファーへ、無効化魔法が飛んでくる。首を傾けて避けた後ろで、ヤンに直撃した。


「我が君っ!」


「あ……」


 ヤンの毛皮がごっそり落ちた。円形脱毛症のようなハゲが、ヤンの腹に生まれる。青ざめたヤンが悲鳴をあげた。哀れみを誘うその声に、イヴが泣き出す。カオスな状況に、ルシファーはイタチもどきの生物を箱に捕獲し、リリスに預けた。


「やぁ!」


 泣きじゃくる愛娘を抱き上げ、ぽんぽんと背を叩く。箱をしっかり閉じたリリスは、申し訳なさそうにヤンの鼻先を撫でた。森の獣王だった彼の腹に出来たハゲは、リリスの頭よりやや大きい。


「ごめんなさいね。ルシファーに治してもらいましょう」


「な、治りますか!?」


「前に作った毛生え魔法陣でもいいけど、戻した方がいいわよ」


 毛が生える魔法陣は、失敗すると毛むくじゃらになるし。ルシファーの魔法の方が安全だと思うの。説明されたヤンは素直に同意した。彼が望むのは、ふっさふさの分厚い毛皮ではなく、元通りのさらりとした自前の毛皮なのだ。


「いやぁああ!」


 のけ反って全身で否を叫び続ける娘に、ルシファーは苦笑いする。これもリリスが昔やったな、なんて懐かしさに頬は緩む一方だ。やはり親子だけあってそっくりな振る舞いをする。


 イヴを連れて部屋に戻り、封鎖した中で箱を開けた。寝転がってハゲを訴えるヤンを治療しながら、ベッド下へ逃げ込んだ獣を目で追う。本来の大きさに戻ったヤンは、巨大フェンリルだ。部屋の半分を占領する勢いだった。逃げ場は少ない。


 巨大な獣に遭遇し、イタチもどきは混乱したらしい。キュンキュン鳴きながら、こちらの様子を窺っていた。


「これはひどい、今治すぞ。悪かったな、ヤン」


「いえ、治れば……」


 いいですとも言えず、複雑そうに語尾を濁すヤン。尻尾や耳が消える日も近いのではと、本心では怯えていた。ちらりと視線を向けた先で、まだ愚図るイヴは指を咥え睨みつけてくる。


「ひっ!」


 尻尾を巻いた巨大獣は、腹のハゲが治るなり大型犬サイズで机の下に逃げ込んだ。圧迫感は消えたが、イヴにはきちんと言い聞かせなくてはならない。


「イヴ、誰かに向けて「えいっ」をやってはダメだ」


「めっ?」


「そう、めっ! だぞ。イヴも指や手を誰かに取られたら、嫌だろう?」


 たとえが分かりにくいのか、イヴは黙って唇を尖らせる。仕方なく別の例えをいくつか選んだ。


「オレやリリスが取られても平気か? 食べてる物を横から取られたら?」


「やっ!」


「だったら人にもしてはいけない。ヤンにとって毛皮はすごく大事で、誇りに思っている。それを奪うなんて、ひどいことだ」


「ごめんなちゃい」


 ぺこりと頭を下げて謝罪したが、そもそもイヴが狙ったのはヤンではなかった。イタチもどきを取り戻そうと、父であるルシファーを攻撃したのだが……。そんな前の話を蒸し返す者は誰もいなかった。


 魔力で再度捕獲されたイタチもどきは、魔力もないただの動物らしい。もし誰かと会話が出来たとしても、魔力がなければ魔族として認定されない。イヴはこの動物が潜り込んだ花瓶を覗き込み、逃げた動物により花瓶が割れた。事情を把握したルシファーは、イタチもどきを森に帰そうとしたが、イヴが納得しない。


「イヴ、動物は飼えないんだ」


「にゃんは?」


「猫もダメだ」


 きっぱり言い渡す夫に、妻は淡々と指摘した。


「今のは、ヤンだと思うわ」


「ヤンは魔族だからいいんだ」


 言い直した後ろで、拗ねたフェンリルが「我は猫でもありませぬ」とぼやいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] イヴ姫に、犬系と猫系の違いも教えてあげねば。
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