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371.実は海でも生まれていました

 レラジェは元々、消滅させるために生み出された命だ。魔の森は最愛の魔王ルシファーの補佐に、三人の側近を用意した。実力者で、それぞれ得意分野が違う。性格も考え方も異なる大公は、ルシファーの試作であり、手足でもあった。


 四人目の大公となったルキフェルは、本来魔の森にとって「消滅させる」魔力の塊だ。そのため魔力量の多い瑠璃竜として生まれた。ルシファーやベールが可愛がるので、魔の森リリンが譲った経緯がある。それが判明したのは、レラジェの存在だった。


 今度は失敗しないよう、魔力を集めて凝らせ森へ戻すため。レラジェは己の運命を最初から知っていた。刻まれた運命を辿ろうとした彼は、紆余曲折あったものの……今も生存している。


 同族がいないが、唯一近いのはリリスだろう。同じ魔の森から役割を与えられ、生み出された存在だ。気の合うアンナの子ども達と一緒に暮らすレラジェは、幼かった外見はそのままに魔王城に勤めていた。


「アンナ母さん、これ無理だよ。手助けしないと崩壊しちゃう」


 育児の手助けや物資の補充を求める申請書類の山から、緊急性の高い事案を選んで引っ張り出す。レラジェはアンナと同じ部署で、今回の出産ラッシュの対応に追われていた。


 魔の森も、計画的に動けばいいのに。そう思うが、嬉しいと暴走するのは理解できる。レラジェ自身も、興奮すると前後の事情をすっ飛ばしてしまう。計画性がないのは、生みの母譲りだろうか。


 アンナが家に来ればいいと言ってくれたことが、本当に嬉しかった。役に立とうとお手伝いを始めたが、そんなのはもっと大きくなってからでいいと断られる。役立たずなのに、いいのかな? そんな不安を、双子のスイとルイが振り払った。


 可愛いと連れ回し、遊びを教えた。何もしない時間という贅沢を共に楽しみ、レラジェは自我を確立する。誰かのためではなく、自分のために行動することを知った。その上で、育ての母であるアンナの手伝いをしたいと申し出たのは、数ヶ月前だった。


 共に同じ部署で書類の整理や、分類に勤しむ。意外なことに、レラジェは緊急の書類を見つけるのがうまかった。何らかの才能かも知れない。緊急性が高いと感じた書類を引き抜き、中身に目を通すことなくアンナへ渡す。確認した彼女が、上層部へ書類を回した。


「偉いわ、レラジェ。ここの書類が終わったら、一緒に昼食にしましょうね」


「うん」


 元気よく返事をして、また書類の分類作業に戻った。そんなレラジェが、不思議そうに一枚の紙を引っ張り出す。じっと見つめるだけで、誰かに渡そうとしなかった。


「面倒な内容なの?」


 アンナが首を傾げた。ようやく我に返った様子で、レラジェはメモ用紙に似た紙をアンナへ回す。書類として決められた形式が整っていない。いつもなら却下だが、レラジェが反応したなら緊急事態の可能性があった。


 さっと目を通したアンナは目を見開き、レラジェを連れて書類部屋を出る。階段を登り、魔王の執務室の扉をノックした。最強の魔王が常駐する部屋だけあって、扉に護衛はいない。


「どうぞ」


 声と同時に扉を開き、アンナは遠慮なく踏み込んだ。持ってきた紙を机の上に置く。ルシファーは署名が終わった書類を隣に置き、メモのような紙を手に取った。縁がボロボロに朽ちて、古紙に見える。


「古代文字……? これは海からか」


 呟いたルシファーは、大急ぎでベルゼビュートを呼んだ。海を含めた辺境地域を一番知るのは、普段から見回りをする彼女だった。


「ベルゼ!」


「わたくしも暇ではありませんのよ」


 文句を言いながらも、ピンクの巻き髪にカーラーが残っている。どう見ても風呂上がりだった。肌も艶々して、硫黄の香りを纏う女大公は、渡された紙を解読して眉を寄せる。


「海で出産ラッシュ……地上と同じですわね」


 そう、海でも大量の出産が続き、手が足りなくなった。誰でもいいから手を貸してくれ、という嘆願書だ。悪いが貸せる手は余っていない。そう返答するべきだが、ルシファーは大きく溜め息を吐いた。

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