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37.この子どもは危険だ

 初めてベールがルシファーと出会った日は、森が騒がしかった。魔獣や巨人族などが集まり、何かを襲っているようだ。そんな報告が入ったベールは、確認のために動いた。万が一にも、神獣や幻獣の子が巻き込まれていないか。もし巻き込まれたなら、助け出さなくてはならない。


 幻獣霊王、その肩書きはベールの誇りだった。珍しい能力を持つ長寿な幻獣達の頂点に立つことは、美しいものが好きなベールの心を満たす。虚栄心や自尊心に似た、不思議な感覚だった。彼らを守るのが己の役目だと信じて疑わない。


 森でベールと対等に戦えるのは、吸血鬼王か精霊女王のみ。どちらも強者だが負ける気はなかった。この頃の魔族は、色による魔力量の識別方法が広がり始めたばかり。外見で相手の力量が測れることを知るのは、限られた者だった。


 白い肌、銀髪、青い瞳。どれをとってもベールが強者であることを裏付ける。騒がしい森の奥へ進み、開けた場所で見つけたのは……裸の少年だった。何も身に纏っていないが、驚くほど色が白い。純白の髪は銀より色が薄く、肌の色も透き通るようだった。長い髪は腰の辺りまで伸び、手入れをしているのか艶がある。


「……邪魔だ」


 ぼそりと呟いた少年がひらひらと手を振った。その動きに合わせて、周囲で攻撃姿勢を見せていた魔獣が消えていく。どこかへ転移させたらしい。簡単そうに難しい魔法を連発する子どもは、上空で様子見するベールに気づいた。


「誰?」


 こてりと首を傾げた少年の瞳は、月光を集めたような銀だった。アスタロトやベルゼビュートも勝てない。この世界が出来て初めて出会った、自分より強いはずの純白の子どもは笑った。にっこりと微笑んだその顔は、とても美しい。


「神獣ではない?」


 尋ねるベールへ、きょとんとした子どもは首を横に振った。


「違う。たぶん」


 同族はいないと言い切り、子どもは残った作業を淡々と続けた。巨人族、ドワーフ、魔獣、ドラゴンに至るまで。鱗や羽、牙、角がある者を片っ端から転移していく。


「殺すのか」


「ん? 殺す理由がない」


 無用な争いを起こす者を遠ざけた。そう告げた後、ようやく純白の少年は名乗った。


「オレはルシファー、お前は?」


「ベール」


 短く答えたベールが、空中から槍を取り出した。この子どもは危険だ。ほぼ同格の3人で保っていた均衡を壊す。この場で処分しなくては、成長した後はもう手出しが出来なくなるだろう。


 攻撃を仕掛ける魔獣を払い除け、竜のブレスを結界で防ぐルシファーは余裕があった。今後さらに大きな力を得る可能性があり、戦いの経験を積んだら? 3人掛かりでも勝てない。


 だが、今なら!


 鋭い穂先を向け、転移で距離を詰める。素早い攻撃に、ルシファーは一歩下がった。頬を掠めた刃が、はらりと白い髪を散らす。頬に現れた赤い筋は、すぐに治癒された。その早さに恐ろしさが増す。一気に死へ追い込まなくては、反撃の間に回復される。ベールは背に羽を広げて、魔力を纏った。


「戦うのか?」


 やめておけと言いたげな口振りのルシファーは、愛用の鎌を取り出した。その動作で一度止まった子どもへ、刃を突き立てる。穂先の半分が埋まるほど深く、ルシファーの脇腹を抉った。


「……っ、いい腕だな」


 余裕か挑発か。けほっと吐き出した赤い血を乱暴に拭い、取り出した鎌で槍を弾いた。ルシファーの顔に浮かぶ表情が変わる。何も知らぬ子どものような笑みが消え、暗い微笑みが浮かんだ。






「お義父様は、どうして詳細までご存じですの?」


 この話にベルゼビュートもアスタロトも出てこない。細かな部分をベールが語ったとも思えなかった。ルーサルカの疑問は、この場にいるルキフェルや大公女全員の疑問だった。


「見ていたんですよ」


「近くで?」


「ええ、触れる距離にいましたよ。騒ぎを聞きつけたのは私も同じですから」


「止めなかったのね」


「義理も理由もありませんので。心情はあの頃のベールならと想像した結果ですよ」


 話に出てこないのに表情まで覚えてるってことは、足元の影? 全員がほぼ同じ結論に至り、それ以上の詮索は止まった。

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