363.寂しさを吹き飛ばす女子会
ルシファーの予想通り、説教は半日かかった。我慢できずに眠りそうになるのを堪えるリリスを見て、呆れたベールが彼女を解放したのだ。昼過ぎだった窓の外は、夕暮れ時の暗さに包まれた。
「今夜の外出は一切認めません」
「分かったわ、でも誰か一緒がいいの」
ルシファーなら頷いて終わるところを、寂しさが我慢できないリリスは素直にお願いした。誰かが一緒にいて欲しい。じゃないとまた逃げたくなる。そう言い募り、ベールの回答を待つ。
「……分かりました。手配します」
色々考えた彼が相談を持ちかけたのは、城内に暮らすアンナ一家だった。アンナも娘スイでもいい。いっそ二人一緒なら、リリスはさらに喜ぶだろう。
話を持ちかけると、意外にもあっさり頷かれた。侍従ベリアルに頼み、客間をひとつ用意してもらう。さすがに主人不在の魔王の私室へ、誰かを出入りさせるのはまずい。外聞もあるので、夫イザヤがいるアンナの居室にリリスを預けるのも無理だった。
用意された客間で、リリスはご機嫌だった。昨日は寂し過ぎて森へ逃げたけど、今日はアンナ達がいる。スイも来てくれた。イザヤが執筆中で、ルイは友人宅へ遊びに行ったらしい。そのため夕食から客間で一緒だった。
「ご飯作らないのって、久しぶりだわ」
家事から解放されたと喜ぶアンナの呟きに、スイが申し訳なさそうに返す。
「私は武術はともかく、家事が出来ないから」
「え? 家事って何するの?」
自分は何もしないリリスは、きょとんとした顔のあと興味津々で尋ねた。掃除洗濯料理、それ以外にも細々とした作業がある。一般家庭の話に目を輝かせたリリスは、にこにこと相槌を打った。
「私も掃除や洗濯をしてみたい。お料理はお菓子なら作れるけど」
「そう聞くと、リリス様は本当にお姫様ですね」
「お父さんが書く貴族令嬢みたいだなぁ」
アンナとスイが苦笑いする。日本人が想像する物語の貴族令嬢は、まさにリリスのような生活だった。子は産むけど、家のことはすべて誰かが片付けてくれる。お金の心配もなく、大きな屋敷に住んでいる。リリスの場合は魔王城だが、大差ないだろう。
「この世界は魔法があるから、簡単に掃除できるけどね」
掃除の魔法陣を購入し、便利に活用するアンナ。異世界のル◯バである。棚の隅の埃も消してくれるので、自動掃除機より便利だった。
洗濯も同様で、自動洗濯機に相当する魔法陣が、城門前の売店で売られている。そんな雑談を交えながら夕食を終え、順番でお風呂に入った。
客間に用意された大きなベッドで、並んで横たわる。説教されたので、疲れてすぐ眠れると思った。しかしリリスは眠くならない。スイも同様で、あれこれと過去の冒険を聞きたがった。
「そうね、一番大変だったのは生まれ変わった時かな……」
「一度死にかけたんですね」
気の毒そうに相槌を打たれ、リリスは考えた後で首を横に振った。
「一度じゃないわ。死にかけたらルシファーが世界を滅ぼそうとするし。人族滅亡騒動の時は成長して戻るまでに、狂って皆と本気で殺し合ってたのよ」
なぜか、リリスが説明すると大変そうに聞こえない。当時の騒動を別ルートで耳に挟んだアンナは、首を傾げる娘へ知っている話を教えた。
その話を聞き終える頃には、月は頂点を超えている。それでも3人は眠ろうとしなかった。結局ルシファーの話や、人族がやらかした過去のこと。両親がこの世界に来てすぐの酷い扱いなど。様々な話がスイに詰め込まれた。
消化できなかった大量の話に埋もれるスイは、朝から爆睡。隣でリリスが微睡み、アンナは肩を竦めて仕事に出かけた。何も知らずに迎えに来たルシファーは首を傾げる。
あんなに楽しみにしていたのに、まだ寝ている。連れて行っていいのか? でもスイもいるし……迷った末、2人を纏めてテント内のベッドへ転移させた。




