表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
364/530

362.悪いことしちゃったわ

 魔の森はいつでも我が子に向けて開かれている。そう告げたのは、リリン自身だった。世界の主であるリリンが作り出した中で、一番の愛し子が魔王なのだ。拒まれるはずはない。


 するりと入り込んだルシファーは、愛しい妻リリスによく似た義母に抱き付かれた。


「次の子が出来た」


「ああ、お腹の中にいるみたいだが……リリスはどこかな」


 見回す範囲に見当たらない。到着した場所は、大木のウロのようだった。中が空洞になった大木が近いだろうか。円形の部屋の内側はすべて木製で、壁に生える苔がほんのり発光していた。お陰で、リリス不在がよく見える。


「もう戻る?」


 悲しそうにそう言われると、首を縦に振れない。魔の森の意向だからと言い訳し、どっかりと床に座った。柔らかい芝や苔に覆われた床で、リリンも嬉しそうに手を広げた。


「おいで」


「あい!」


 元気よく腕から飛び出したイヴが、リリンに抱き付いた。見た目は若いが、世間で言えば祖母に当たる。抱き寄せて頬擦りする姿は、リリスにそっくりだった。


「あら、ルシファーじゃない」


「リリス! いきなりいなくなるから心配したぞ」


「……もう2日経ったの?」


 入って来たリリスは驚いた様子で止まり、すぐに首を傾げた。どうやらキャンプ最終日に迎えに来たと思ったようだ。詳しく説明した。ついでにベールが怒っていると伝えれば、リリスは眉尻を下げる。


「悪いことしちゃったわ」


「昔オレもよくやって叱られたっけ」


 肩を竦めるルシファーは「叱られてこい」と笑う。リリスもさほど深刻な様子はなかった。ルシファーは「昔」と表現したが、もしこの場にベールやアスタロトがいれば「今もでしょう?」と指摘しただろう。良くも悪くも似た者夫婦のようだ。


 反省はするが、また繰り返すタイプの二人だった。イヴはご機嫌でリリンとじゃれ合う。


「パッパ、森いくぅ」


 キャンプに戻ると言われ、途中で放り出していたことに気付く。慌ててリリンに挨拶し、イヴを抱いてリリスと手を繋いだ。転移で戻った先は、まだ昼前だった。一緒にキャンプをするイポス達に迷惑を掛けずに済みそうだ。


「魔王妃殿下の無事のご帰還をお喜び申し上げます。と同時に、お話がありますので、こちらへどうぞ」


 やたら丁寧に執務室へ誘導されるリリスへ手を振る。あの様子では半日は解放されない。そう判断し、イヴを連れてキャンプへ戻った。心配するイポス達を安心させ、外で駆け回るヤンのひ孫と一緒にイヴを遊ばせる。


 大急ぎで狩りを手伝い、火龍であるグシオンの炎で丸焼きにした。中にハーブを詰めたのは、プータナーのアイディアだ。こんがりと焼けた豚を切り分けて食べ、午後は湧水池へ魚獲りに向かうことが決まった。


 魚釣りではない。魔族である彼らは魔法や魔法陣を利用し、大した時間を掛けずに魚を得た。湧水池から放水される川は冷たく、透き通っている。はしゃぐ子どもを遊ばせ、手際よく魔法で魚を仕留める。


 生きたまま捕獲し、川の一部に魔力の網を作って放した。食べる直前に絞めた方が鮮度が高い。逃がさないよう対策をした後は、全員で水遊びを始めた。


「えいっ!」


「きゃあ、冷たい」


「あ、イヴちゃん危ないよ」


「平気……あっ」


 キャロルの注意虚しく、転んだイヴが池に転落した。大騒ぎになりそうな状況だが、イヴは平然と無効化を利用して池から上がった。周囲の水に無効化を適用し、全く濡れていない。


「改めて凄い能力だな」


「最強の魔王様に言われてもねぇ」


 プータナーの指摘に、親は顔を見合わせて笑い合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ